70・ 今一つ納得いきません。
獣っ娘たちの厳しい現実。
人間界で極々一部の地域では神格化されている彼女達ですが、その身体能力に対する生物としての恐怖感、劣等感の裏返しの所為か迫害に遭い、抵抗しようにも数の力には勝てず、その場を追われて魔界に住処を定めたのでした。しかし魔界も彼女達にとって安住の地とはならず、その希少性が故に隷属させようとする、クソみたいな輩が数多といやがるのです。
ここ魔王城では何の差別も偏見も特別扱いも無く、適材適所、彼女達の能力に応じた職責を与え、快適な環境のもと、のびのびと過ごしてもらっています。私個人としては可愛くて仕方なく、ついつい贔屓してしまうのですが。
おこがましい言い方かもしれませんが、この魔王城こそが彼女たちにとって最後に辿り着いた理想郷なのではないでしょうか……だったら良いな。
『ココの眷属になるという事は、その能力の一部を加護として受け取れるという事。そうなれば、ウルちゃんの身体能力と相まって、ロキちゃんや給仕長ちゃんクラスの強者を除けば誰に引けを取るという事も無く、魔界、人間界問わず、自由自在に大手を振って見識を広めて行けますぅー! あの娘の成長していく姿を想像すると、ココはワクワクが止まりませーん!!』
力強く、高らかに宣言するかのように仰るココ様です。
確かに、ココ様が『眷属になったから』と言って理不尽な事をウルちゃんに強要させる筈もありませんし、ココ様の眷属になるなど望んでも成れる物でも無し、大変栄誉な事です。何より、ウルちゃんの身体能力に、ココ様の防御魔法、回復魔法が加護として与えられたら、そんじょそこらの奴など歯牙にもかけません。誰に何を言われようと、何をされようと、力づくで押しのけていけるのに違いありません。
『この広い世界、まだまだ私達の知らない美味しいものであふれていること請け合いでぇ~す。何もココはウルちゃんを眷属にして、四六時中連れ回そうという訳では無いのですぅ~。むしろ、その逆ですぅ~。ココがウルちゃんの背中を追い続け、今のまま何も変わらず、ココ好みのお肉料理を作ってもらいたいのですぅー!! 』
え~!? あれれ? 何だか良い事言っていた様で、ただただウルちゃんの作る美味しいお肉料理が食べたいだけなのでは!? そんな私の疑念をよそに、給仕長は感極まったように、楚々としてココ様に寄り添って、つまり私のお乳を覗き込むようにして、
『ココ様、申し上げございません。ココ様の慈愛あふれる御深慮に思い至らず』
『良いのですぅ~。給仕長ちゃんのウルちゃんへの気遣いを思えば当然の事なのですぅ~』
『改めて私からもお願い致します。是非ウルさんをココ様の眷属に!』
とんとん拍子に2人だけで話が進んで行きますが、私には一つ危惧する事ががあります。
『ウルちゃんにとっては良い話にしても、その事でラビちゃんと仲違いするなど……』『そんな事ないですぅー!』『そんな事は有り得ません!』
お2人して即答、全否定しやがります。
『ロキちゃん。良いですかぁ~。ラビちゃんは、そんな狭量な娘ではないのですぅ~。むしろ誰よりも……言い方は悪いですが、魔王城に閉じこもっているウルちゃんの現況を憂いているのですぅ~』『ココ様の仰る通りです!』
ココ様の言葉に給仕長が即答、全肯定しやがります。
何だかなぁ~。兎にも角にも、いがみ合っていたお二人が丸く収まったから良いのですが……否! 私はお尻の痛め損ではないですか!




