66・ 本格的に悪い予感がします。
『ロキ! ナニシテイヤガル!』
マリの怒声が響き渡りました。
私が2個目のハンバーガーを頂こうとした時の事です。
『ロキ! あんまりだわ。マリが怒るのも当然よ』『ロキエル様。見損ないました』
シュンと尻尾を垂れさせてしまっているウルちゃんを、ココ様と給仕長が両脇から労わるように支えながら、私に罵声を浴びせやがります。あんまりです。
『ロキエル様、如何いう事か、ご説明をお願い致します』
あとから合流して、賄いのハンバーガーを食べて大絶賛していたラビちゃんが、ウルちゃんを庇うようにして私の前に立ちふさがり、毅然とした口調、態度で問い質してきました。
同じく、あとから合流した総料理長を始め、調理部の方々も口には出さないものの、私を白い眼で見詰めます。
え~!? 私、そんなに悪い事をしたぁ~!?
私がドギマギしていて返事をしないでいると、ラビちゃんが少々怒気を含んだ声で、
『ウルの作った、この「ハンバーガー」確かにマリ様からご教示頂いた「ホットドッグ」をアレンジした物ですが、特筆すべきウル独自の工夫は、このピクルスを加えた事だと思います。ほのかに甘酸っぱいピクルスによって、お肉の脂っぽさを抑え、味に変化を持たせるだけでなく深みを増す、素晴らしい発想だと思います』
いや、その理屈は理解できるのですが、苦手なのです。ピクルスは。
日本でハンバーガーを注文するときも「ピクルス抜きでお願いします」って、頼むのです。ピクルス単体ならば良いのですが、あの甘酸っぱさがお肉と混ざり合うと、何となく違和感を覚えてしまうのです。
1個目のハンバーガーは、まさかウルちゃんがピクルスまで入れているとは思いもよりませんでしたので、普通に食べてしまったのですが、2個目のハンバーガーからピクルスを抜いて、そっと勇者に押し付けたのを、マリに見られてしまったのでした。
『ラビさんの言う通り「ホットドッグ」に発想を得て「ハンバーガー」を作れても、肉と、この甘酸っぱいピクルスを取り合せるという工夫は、私には思いも付きませんな。斬新な想像力、独創性、素晴らしいの一言です』
総料理長もベタ褒めです。料理長も調理部の皆さんも揃って頷きます。
『た、食べ物の好き嫌いって、人それぞれじゃないですか? ねぇ勇者?』
『俺はピクルス好きだぞ!』
私が勇者に同意を求めると、この返答です。
嘘つきやがれ! 先ほどピクルスを押し付けた時に、すげー嫌な顔していやがったくせに!
こうなれば魔王様が頼りです。私は先ほど魔王様がハンバーガーを2,3口食べた時に、ほんの一瞬ですが怪訝な顔をして断面を見たのを知っているのです。
『ねぇ、魔王様?』
『え、え!? わ、私はすごく美味しいと思いますが?』
あ゛! この野郎! 目を泳がせながら返答しやがります。
『スキキライハ、ダメダー!』『好き嫌いは駄目です!』『好き嫌いはダメっス!』
3人娘に声を揃えて責め立てられます。
まさに四面楚歌、孤立無援。いっその事、暴れ出してやりたい気分ですが、ウルちゃんのしょんぼりした姿を見てしまっては、そうもいきません。
『ごめんなさい、ウルちゃん。悪気があった訳では無いのよ。好き嫌いしないよう何でも食べるようにするから許してくれる?』
『ウル。ロキも、あぁ言っている事だし、許してあげて』
ココ様がウルちゃんを、なだめる様にして言うと、
『わかったっス!』
『本当にウルは良い娘ね……』
愛おしそうにウルちゃんを見詰め、頭を撫でていたココ様が顔を上げ、魔王様に向き直り……言葉を継ぎます。
『魔王さん。ウルを、わたくしの眷属にさせて頂けるかしら』
刹那、私の背すじに悪寒が走りました。