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 6・ コンフィ談義。


「勇者さま。てつだって!」


「喜んで! 何するんだ?」


 私も何か手伝おうかと腰を浮かせて、口を開こうとすると、


「ロキは、いらない!」


 なにをー! あんまりといえば、あんまりです。


「ぷっ!」


 むっきー! 勇者があざけりの含み笑いを漏らしやがりました。空の彼方へと蹴り飛ばしたいのを我慢しました。ここで怒り出したら、何だか負けのような気がしたからです。


「勇者さま、この岩塩を、粉々にして!」

「お安い御用だ」


 勇者は岩塩の欠片を無造作に握りつぶすと、文字通り粉々です。力だけは有り余っているんですよ、この男。


「次は、その岩塩をカモさんに、よくすりこんで!」

「どんな感じでだ?」

「ロキの、お乳をもむ、かんじ!」

「おー! こんな感じか? どうだ、いいのか?」

「勇者さま、じょうずー!」


 男ってホントしょ―も無い生き物です。呆れて怒る気にもなりません。マリも褒めない!

 すると、マリは食材庫から、密閉瓶を持ち出してきました。中身は毒々しいぐらいの緑のペースト状の……香草のオリーブオイル漬けですね。


「勇者さま、これも、すりこんで!」

「マリ、俺の手、脂ぎっているから、何か器に開けてくれ」

「わかったー!」


 何だか、マリと勇者の息がピッタリと合っています。不思議な事にその光景を見て、イラつくどころか、癒されている私がいました。

 ちょっとした気の迷いに違いありませんね。


「うんしょ、うんしょ!」


 マリが食材庫から今度は重たそうに、大きな鉄の平鍋を持ち出してきました。


「マリ、それ、なーに?」

「らーど!」


 ラード? あぁ、豚の脂ですね。


「お! 何だ、マリ。鴨のコンフィ作るのか?」

「おーあたり!」

「へぇ~、コンフィってラードで作るの。知らなかったわ」

「いろいろ。オーリブオイルだったり。カモさんの脂だけで作ったり。マリはラードの風味が、くわわるのが、すきなの!」

「コンフィって油で揚げるというより、低温でじっくりと煮るのでしょ? 何度ぐらいで、何時間ぐらい?」

「五~六十度ぐらいで、三時間ぐらい」


 温度調節機能があれば簡単なのでしょうが、一家に一台給仕長がいれば良いのですね。でも、さすがに三時間魔法を掛けっ放しという訳にもいきませんか。


「それとマリ、わがまま言うようだけどよ、鴨のコンフィといえば、やっぱりカスレだよな。豆は無いの?」

「白いんげん豆があるよ。カスレ作ってあげる」

「マリ。カスレはどうやって作るの?」

「お肉のスープのストックで、お豆を煮て……勇者さま、トマト味にする? それとも赤ワインか白ワインで煮る?」

「いいね、いいね。トマト味で唐辛子も入れて、ピリ辛のチリコンカルネ風がいいな」

「わかったー!」


 なぜマリは勇者に聞く! そして、なぜ素直に言う事を聞く! 

 まあ、それは良いとして、あの肉汁のスープで煮込んで、トマトで味付けした、ピリ辛のお豆ですか、


「想像しただけで美味しそうです」


 私が思わず独り言のようにつぶやくと、勇者がまた余計な口を開きます。


「なあ、マリ。ロキエルが何か言っているけど、働かざる者、食うべから……あ゛んがー!」


 学習しない男ですね。


 やはり先ほどの癒しは気の迷いでした。

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