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52・ べ、別に何とも思っていないですけど。

    

『ミンナ、スゲー、ジョーズ!』


 マリの声が聞こえました。


 調理部の方々が、マリ達に代わって厨房に立ち、あの、マリの雑な説明にもかかわらず、見事に対応しています。


 マリ達も調理部の方々も明るい笑顔で、とても楽しそうで、見ている私も心が浮き立つようで……何でしょう、何だか複雑な気分です。世の、お母さんの気持ちなのでしょうか。マリが大人になって、他の方と交流して、世界を広げていくのが嬉しいような、私の手から離れて行ってしまって寂しいような。


 初めて魔王城に来た晩に、半ベソ掻いて枕を抱きしめて、私の部屋にやって来た姿が、昨日の事のように頭に浮かびます。

 マリの部屋は「なんか、広すぎ。おちつかない」そうで、私の部屋に寝泊まりしています。本当は一人でいるのが寂しいだけなのは良く分かっていますが、むろん、口にはしません。


 ふと、或る疑念が湧き上がって来ました。

 マリに存分に腕を振るってもらおうと、開発室を設け、環境を整え、望むものを与えて、自由気ままに振る舞う権利を与え……しかし、それが、逆に、


『#マリを縛り付けている__・__#』


 ことに、なってはいまいかと。


 もっと言えば、開発室ではなく、


 ……『私』が。


「ロキ?」


 あぁ、いけません。


 マリが出来上がったお料理を運んできてくれたのですが、私の表情に憂いの陰があったのでしょう、少々不安そうに声を掛けてきました。

 マリは野放図のようでいて、負の感情には妙に敏感なところがあるのです。


「うわー! 美味しそう! でも、私はさすがに食べ過ぎて、お腹いっぱい。まだまだ幾らでも食べれそうな人達に差し上げて、ね!」


「……うん」


 私は精いっぱい明るく言ったつもりなのですが、マリの不安は拭いきれなかったようで、どことなく元気の無い返事です。お腹いっぱいというのは本当の事なのですが、ココ様や給仕長のようには上手く演技ができないようです。


『さあ、どうぞ、召し上がれ』


 マリから皿を受け取って、テーブルに向き直り、皿を並べていこうとすると……。


 な、何ですか!? みんなして私の顔をジロジロと。


『ねぇ、ロキ……』


 あの、大喰らいのココ様が、お料理に手も伸ばさず、


『貴女って、顔に出るの。感情がそのまま。それが良い事なのか、悪い事なのかは別にして』


 ニヤニヤと薄気味悪い含み笑いを漏らしながら、言いました。


 魔王様が天井を見上げたまま、一つ溜め息をついて、


『ロキエルさん。私は貴女に何かを強制しようとは思いませんよ。貴女の随意のままにして頂いて結構です』


 小さく首を横に振りながら、言いました。


 給仕長はラビちゃんとウルちゃんを見詰めたまま、


『私も考えなくては、いけません』


 誰に聞かせるでもなく、独り言のように、呟きました。


 美味しいお料理を前にして、鯨飲馬食、本能のままに貪り尽くす連中だというのに、私が知られたくない『想い』だけは、マリよりも、ずっと敏感に察してしまうのですから、嫌になります。


『……』


 勇者は私と眼が合うと、あらぬ方を向いて視線を逸らし、何も言わず、頭の後ろで手を組んで素知らぬ顔をしているのですが、心配そうな表情をしていたのを見逃しませんでした。


 なんだかんだ言って……優しい、男なの……です。

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