5・ さすが悪党。
「お肉?」
何ですか! このおとぼけ顔は。
ピザの話をしていたら、すっかり晩餐会のメイン料理の事は、頭から抜け落ちてしまったようです。まあ、マリらしいと言えば、マリらしいのですが。
「そうよ。あの牛肉のステーキの代わりになるお料理を作って、総料理長に食べさせてあげないといけないのよ。マリが晩餐会のお料理は『マリガ、オシエテシンゼヨウ』と言ったのだから」
「わかったー! お肉パラダイスに行ってくるー!」
お肉パラダイス? あぁ、食肉管理氷蔵庫の事ですね。マリは勢いよく駆け出していきました。
「いいね、いいね。マリは今度は何作ってくれるのかな? 肉一杯貰ってこなければいけないから、いらない娘は放っておいて、お手伝いしてあげよう!」
私は勇者の尻を蹴飛ばして、執務室から叩き出して差し上げました。
私も取り急ぎの執務はありませんので、開発室に向かいました。
待つ事しばし、勇者がマリを右肩、何やら大きな木箱を左肩に担ぎあげ、意気揚々と戻って来ました。いちいち私をイラつかせる男です。
まぁ、そんな事より木箱の中身が気になります。
「おい、ロキエル見てくれよ。俺が選んだ逸品だ」
「おいしそーだ!」
勇者は木箱を作業台の上に乗せ、自慢気にフタを開けました。勇者の食い意地の張った食材の目利きは、それなりに信用できますし、マリが美味しそうというなら鉄板です。期待が大いに膨らみます。いそいそと箱の中身に目をやると。
ま、まぶしー!
テロッテロのピッカピカ。艶々の脂が眩しい位の鶏肉? いいえ、鴨の骨付きモモ肉ですね! ド素人の私にも見ただけで分かります。色艶は無論の事、針で突けば破裂しそうなほどパンパンに膨れ上がった身肉が、実に美味そうです。それにしても、また、随分と大量です。まあ、どうせマリが調理を始めたら香りを嗅ぎつけて、魔王様やら、給仕長や獣っ娘たちがやって来るに違いありませんから、直ぐになくなってしまうのでしょうが。
「何でも、胸肉はレストランの方で使ってしまったそうだ。モモ肉が余っているから、お使い下さいだってよ」
あやしー! 無理を言って奪ってきたのではないのでしょうか?
「マリ。コレをどうするのですか?」
「う~ん、どーしよう?」
「鴨って言えば、ソテーにして血のソースが有名だよな。でも血抜きしてあるか」
「エトゥフェしてない。ざんねんだー!」
「マリ、エトゥフェって何?」
「血ぬきをしないで、カモさんをしめて、お肉に血をまわらすの。その肉汁でソースを作るの」
「へぇ~、血でソースを作るって訳ではなくて、グレビーソースって事ね。それと内臓は無かったの?」
「おう、残念な事にな。ある意味内臓にこそ真価があると言ってもいいのにな」
「内臓は、うまい!」
「ホント残念ね。煮て良し、焼いて良しで、給仕長が大喜びしそうなのに」
「部位ごとにバラしてなければ身肉に米や野菜を詰めて、#ファルス__詰め焼き__#にして欲しいし、シンプルに丸焼きを豪快にかじりつきたかったな」
勇者に似合いすぎですね。でも、ウルちゃんが丸かじりしているところは見てみたいです。
「シンプルと言うなら、牛肉と同じように岩塩プレートでそのまま焼くというのは?」
「おんなじの~?」
あらら、マリは不満気ですね。これはもう任せた方が賢明です。
「マリに任せれば何でも、もの凄く旨くしてくれるからな、頼んだぞ、マリ!」
「わかったー!」
……イラッ!
何だか私より勇者のほうが、マリの扱い方が上手な気がします。