46・ 本当に通じているのですか?
ラビちゃんの鈴の音色のような声が響きます。
『赤茄子のヘタを取り、皮に十文字の切り込みを入れ、サッと熱湯に潜らせます。冷水につけ粗熱を取り皮を剥きます。四つ割にして種を取り除きます。広口の鍋を傾けてオリーブオイルを少量と大蒜を押し潰した物を入れて、大蒜が色付き香りが立ち始めたら取り除きます。赤茄子の果肉を入れて火に掛けますが、煮込むというより、広口の鍋を使って効率よく果肉の水分を飛ばして旨味を濃縮させるという意味合いです。大蒜をみじん切りにした物をそのまま加えたり、玉葱や塘蒿などの香味野菜、花薄荷、月桂樹などの香草、贅沢に胡椒などの香辛料を加えることもありますが、赤茄子の持つ食材の力を信じて、そのまま生かし切る為、下味に小さじ一杯ほどの岩塩を加えて、他には何も加えません。ただし、夏場の蒸し暑い食の細るような時には、香味野菜等の刺激は有効ですし、お食べになる方の反応に対して微調整を加える必要性をお忘れなきように。木匙を差し込み極力果肉を崩さないよう、鍋底が焦げ付かないように掻き混ぜます。木匙を持ち上げ、もったりとソースが絡み付く様になったら出来上がりです』
おー、ラビちゃん、カッケー!
よく、あの、マリの雑な説明『トマト、エライ、ナンモ、イラネー!』『アチートキ、ピリリ』『オイシーカオ、シテヤガルカ?』を、通訳なしで、ここまでしっかりと意訳できるとは。
ひょっとして、ラビちゃんって、マリを超える天才かも!?
『「ロキノ、オチチヲモム、カンジ!」っス!』
うん、ウルちゃん。それは鴨に岩塩をすり込む時だけじゃ無いのかな? ピザドゥ捏ねるのも伸ばすのも、何でもかんでも、その「ロキノ、オチチヲモム、カンジ!」で、やる訳では無いと思うよ? ピザの具材を切り出す時は全く関係ないんじゃないかな? あんまり「ロキノ、オチチヲモム、カンジ!」を連呼しないでくれると有り難いな。
お姉さん、ちょーっと恥ずかしいな。
『コンフィの火が強すぎるっス。「ロキノ、オチチヲモム、カンジ!」っス!』
いや、それ全然ちがうから!
『ラビさん、なぜウルさんはコンフィを見もせずに「ロキノ、オチチヲモム、カンジ!」って分かるのですか?』
料理長! その質問の仕方は変ですから!
『香りです。ラードの温度が高すぎると、芳ばしい香りが匂い立って来るのです』
『美味しそうな香りがしてはいけないと?』
『ギリギリのところですね。私は音で判断しますけど』
『音で?』
『はい、温度が高すぎると鴨肉から滲み出て来る肉汁が、わずかに弾ける音を立て始め「ロキノ、オチチヲモム、カンジ!」になるのです』
『ん~なるほど』
お~い! 意味が通じないぞ!