44・ 本物志向です。
『オノレ、ナニヤツ!?』
この娘ったら、本当に意味が分かって言っているのかしら?
総料理長のお腹に激突する寸前で、料理長がすくい上げるようにして抱きかかえてくれました。
マリは料理長の胸をバシバシ叩いて、逆に手を痛そうにして、
『リョウリチョウサマ、ムネ、ツオイ!』
とか、ほざいていやがります。
皆さん、あまりのアホらしさに大笑いしてしまい、すっかり毒気を抜かれてしまいました。
『まあ、皆さん、出資の件に関しては改めて関係部署間で協議のうえ、配分の取り決めを致しましょう』
独占すると言われても文句のつけようがない魔王様が仰ったのですから、酒管長も総料理長も、これ以上は我を通そうとは言い出しません。諍い事など端から無かったようにピザに舌鼓を打ちます。
『あ~、ロキエル、遅ればせながら、コレ土産だ。エールも良いがピザに合うと思うぞ』
酒管長がそう言って、足元の大きな鞄から無色透明の瓶を取り出し、テーブルの上のグラスを手にしました。瓶のコルク栓を開けると゛プシュッ”と空気の抜ける音がするではありませんか。
『酒管長! ソレ、もしかして、炭酸水ですか!』
『おう、良く知っているな。苦労したぞ、手に入れるのに』
突然、勇者が天を仰ぎます。
『かあ~っ、あるのかよ天然炭酸水。俺も散々探し回ったというのによぉ』
私も勢い込んで尋ねます。
『酒管長! ジェニパーベリ―の蒸留酒ってお持ちですか!?』
『あるぞ、俺も色々試してみて良いなと思ったんだよ』
『給仕長、申し訳ありませんが、この炭酸水と、ドライジンと、グラスを「キンキン」に冷やして頂けますか、あ、あとグラスに氷を入れて頂けると助かります』
『……はあ? これで宜しいでしょうか?』
給仕長が訝しげな表情をしながらもサッと手をかざすと、一瞬でグラスに霜が降り、カランと氷の涼やかな音が聞こえました。
嬉しすぎます!
私の大好きなカクテル、ジンリッキーです!
個人的な見解ですが、食中酒として万能ではないかと思っています。もちろんピザにも合うこと間違いなしです。早速、皆さんの分もお作りして差し上げましょう。氷入りのグラスにドライジンと炭酸水を注いでいると、給仕長が尋ねて来ます。
『ロキエル様、それは、何と言うお酒ですか?』
『「ジンリッキー」です』
嬉々として答えると酒管長が、
『お! ロキエル、その呼び名カッコいいな。貰っても構わねぇか?』
『えぇ、もちろんです』
「ロキ、ライムいる?」
さすがマリ。「ジンリッキー」と聞いて、すかさずカットライムを用意してくれます。マドラー代わりにナイフを差し入れて軽くステアして、
『はい、どうぞ、お試しあれ』
皆さんにグラスを差し出しました。
私もグラスを手にして、涼やかな氷の音を耳にしながら傾けます。
く~! 効きます。
のど越しの清涼感がたまりません。ピザを食べた後の口の中の脂っぽさを綺麗に洗い流してスッキリとさせ、つい、また、ピザへと手を伸ばしてしまいます。キンキンに冷やしたエールも美味しいですが、本来は常温で、その香りとコクの拡がりを楽しむものですから、ラガーの代用品の感は拭えません。
やはり”本物”は違います。