43・ 危なーい!
頼もしいです。
ラビちゃんがピザの説明をしているのを、作業台を取り囲んでいる調理部の皆さんが、委細聞き漏らすまいと、真剣な面持ちです。
『マリアージュを知るのも大事な仕事だ』
と、総料理長が仰ってジョッキ片手なのですが、少しも浮ついたところがありません。
それに引き換え、テーブル席の連中ときたら。
能天気ここに極まれりです。
いえ、一人だけ場違いな難しい顔をしています。その顔を見て、慌てて給仕長に耳打ちしました。
『給仕長、酒管部の協賛金の書類、もう財務部に提出しました?』
『えぇ、それが何か?』
『酒管長が怒鳴り込んで来たので『こんなの無効です』と、控えを破り捨てて誤魔化して『是非一度ピザを食べてみて下さい』と、お誘いしたのです』
『あぁ、それでですか……ロキエル様、此処は私にお任せいただけますか?』
ん? 給仕長は何を?
『酒管長、ピザのお味は如何ですか?』
『あ? あぁ、旨いのは勿論なんだが、この「キンキンニヒエタ」エールに素晴らしく合うな』
『さも、ありなん。ピザ店を出店したらエールの取り扱い高が爆発的に増えると思いませんか?』
『あぁ、このピザを食べて確信したよ』
『では、改めて協賛金の件。ご了承頂けますか?』
『あぁ、勿論だ。いつでも書類を持って来てくれ』
えー! 協賛金の二重取りですか!? この女、あくど過ぎます。
『あー、いや、それは結構です』
割って入って来たのは総料理長でした。
『結構とは、どういう意味でぇ?』
酒管長、初っ端からけんか腰です。
『調理部で全額出資するという事ですな』
総料理長、にこやかな顔で言いますが、目が笑っていません。利権に喰いつくスカベンジャーの眼です。各部署で一番取扱高が乱高下する部署だけに、安定した収益が見込めるピザ店は魅力的に映るのでしょう。実際にピザを試食して、その確証を得たのに違いありません。
すかさず料理長を始め、調理部の皆さんが音もなく総料理長の背後に控え、揃って目をすがめます。一様に危険な香りを察知して、気を合わせる呼吸は素晴らしいの一言です。
しかし、そんな事でひるむ様な酒管長ではありません。
『はんっ! 美味しいところは独り占めってか』
酒管長はそう言って、チラリとココ様を見やりますが、無論、ココ様は気にも留めず、ウルスペシャルにかじりついています。
『その通りですが、何かいけませんか?』
冷ややかな口調で総料理長が言うのを、
『ほう、面白ぇ、開き直りやがったか』
もう、どうして美味しいお料理を食べているというのに、喧嘩が始まってしまうのでしょうか?
マリが哀しむといけません……って!?
「何するのマリ! 駄目よ!」
私が止めるいとまもありませんでした。
訳の分からない事を叫びながら、総料理長のお腹に突っ込んでいったのです。
『タゼイニ、ブゼイ、シュカンチョウサマ、スケダチイタス!』