42・ 厄介なのが増えそうです。
続けざまに、マリがパーティサイズのピザを運んできました。
『コレ、ピザノミセノ、テーバン』
そう言って給仕長の前に置きましたが、今一つ浮かない顔です。
皆さん、そのマリの浮かない表情を見て取って、気が気では無いのか、私に怪訝な表情を投げかけます。私に代表して尋ねろという事ですね。
「マリ、如何したの? 浮かない顔で?」
「う~ん、ピーマンがないの」
「園芸課に無かったの? トマトや赤トウガラシと原産地は一緒のお野菜よね?」
「なかった。ピーマンの苦いのがないと、いまいちかなあ~?」
「大丈夫よ、マリが作ったお料理だもの。みんなに食べてみてもらおう、ね」
「うん」
マリの自信なさげな返事を聞いて、振り返ると……ピザがねぇ!
しかも、いつの間にか、みんなジョッキを手にしているし!
「マリ、旨いぞ、コレも。ピーマンが無いのは残念だが、サラミににトマト、玉葱、オリーブの塩漬け。正に安心の定番だな」
「……ホント?」
「マリさん、もちろんです! 最高です!」
魔王様が本心で言っているのは伝わってきますが、何処かぎこちなさがあるのは否めません。意外と不器用なのです。
「えへへ~」
「スゲーウメー! ゼッテーピザノミセノメニューニイレル!」
「給仕長さま! どーん!」
マリは口々に褒めそやされて、最後には給仕長に飛びついて行きやがりました……イラッ!
「ロキ? ピーマンって『甘唐辛子』の事かしら?」
ウルスペシャルを一人で抱え込みながらも、サラミのピザに齧りついているココ様が尋ねてきました。
「ポワブロン? 名称は知りませんが赤唐辛子と種類は同じで、辛く無くて、緑色で、五倍ぐらいに膨らませた形状で、苦みのあるお野菜ですが、ココ様。ご存知ですか?」
「ふんっ!」
あ! この女、鼻で笑って顔を背けやがりました。
「マリ、こちらに」
うわ~、打って変わって眩しい位の笑みをたたえて、マリに呼びかけました。
「はい、ココ様お呼びですか」
マリは魅入られたようにココ様の許へと向かいます。
いい加減、この女の本性に気付いて欲しいです。
「マリはピーマンが欲しいのですか?」
「はい、ココ様」
「では、わたくしが後程ご用意いたしましょう」
「あ! ありがとうございます!」
「礼には及びません。マリは先程のパンも経木もそうでしたが、その植物の持つ本来の力を見極め、最大限に活かしてくれています。緑を司る、わたくしとしては、これ以上の喜びはありません。マリが欲しいと思うお野菜、例え如何なるものといえど、わたくしにお任せあれ。極上の物をご用意いたしますわ」
あ~、そういやぁあ、ココ様が緑ノ大精霊だってことを忘れていました。野菜の事で、知らぬ事など有る筈もありません。
「その代わりと言っては何なのですが……」
あーもう、ココ様の言おうとしている事が手に取るように分かります。
「また、わたくしに賄いを頂けますか?」
え! 今、ココ様「賄い」と言いました!?「お料理」ではなく「賄い」と。
まさか、この女、魔王城に居座る気でいます!?