4・ 吹き荒れる嵐の如く。
『魔王城内実験店舗です』
給仕長が大真面目な顔をして言いだしました。何だか面倒な方向に話が向かって行きそうです。
『急過ぎませんか?』
『ロキエル様、お言葉を返させて頂きますが、そんな事はありません。赤茄子と赤唐辛子の量産の問題はあるにせよ、私に少々心当たりがありますし、商品はすでに完璧な物が出来上がっているではありませんか』
給仕長はそう言うと、マリに日本語で話しかけます。
「マリサマ、オススメ。アンチョビトニンニクノピザ、イチバン、ウメー! ソーセジトクレソンノピザ、スゲー、ウメー!」
うわ~、マリスペシャルをほめられたのが、よほど嬉しいのでしょうか、マリは大はしゃぎで給仕長のお乳を、つついています。給仕長、すげー楽しそうです。
給仕長は居住いを正して言います。
『「マリスペシャル」二品。後は「マリナーラ」と「マルゲリータ」と、サイドメニューとして、スープとコールスロー、ウルさんが大絶賛していた「マリサマオテセイソーセージ」のグリルがあれば十二分で、おいおい、マリ様の御指導を仰いで、メニューを充実させれば良いと思います。「ピザ」専門店なら調理部のレストランとも競合しませんし、人間界に経済進出するための良いサンプルになります。設置場所は丁度小会議室の修繕に、各部から予算を出さなければなりませんので、私が取りまとめて、改装費用に充てましょう。あそこなら開発室からも近いですし、集客も見込めます。当面はデータ集積のため正規代金で販売するとして、ゆくゆくは、福利厚生施設として格安で提供するようにしたらいかがでしょうか? 店舗運営の人員は給仕部から……いや、いっそ店舗設営から、運営そのものを給仕部で取り仕切らせて頂けませんでしょうか?』
給仕長がたたみかけるように捲くし立てるのに、気圧されてしまいましたが、悪い話ではありません。丸投げされた物を丸投げしてしまうのはアリですね。
『とてもありがたいお申し出だと思います。是非お願いできますでしょうか』
『ご了承頂けまして、ありがとうございます。それと「ピメントオイル」の商品化も、私どもで手掛けさせて頂けますでしょうか? 幸いガラス工芸の職人に知り合いがいますので、秘宝クリスタル・フラコン・ボナールの複製品を作らせます』
と、言って、給仕長はマリに頬ずりしながら尋ね……ちょっとイラッとしました。
「マリサマ、ピメントオイル、イッパイ、ツクレルカ?」
「赤唐辛子があれば作れるよ」
「ワカッター! アリガトウ」
給仕長はマリの返事を理解できたのでしょうか? 言語習得が早すぎませんか? しかも「ワカッター!」の発音がマリそのものです。
『ロキエル様。そうと決まれば、後は行動あるのみです。さっそく私は色々と手配する事がございますので、これにて失礼させて頂きます』
と、言うや否や、
「マリサマ、マタクル!」
「給仕長さま、待ってるー!」
給仕長は風のように去って行きました。
ん? おかしいですね。嫌な予感は外れたのでしょうか?