２９・ 黙って喰らいやがれ！
「いや、マリさん、しかしですね……」
「だめ、です！」
いいぞ、いいぞ！
マリはぶれません。たとえ相手が魔王様でもです。
マリの中に「賄いを食べる人」の明確な線引きがあって、本来はラビちゃんとウルちゃん「調理に携わる仕事仲間の為の食事」であって、勇者はお手伝いをしてくれるから、その権利は当然あるそうです。
そりゃあもう、私は泡を食って言いましたよ。
「マリ、私は今日、総料理長たちに、お料理の説明をするのですよ。通訳は必要でしょ？ 立派な「調理に携わる仕事」よね？」
「う～ん……いいよー」
危ないところでした。マリは小首を傾げて渋々といった様子でしたが了解してくれました。しかし今後の対応策が必要ですね。
「マリさん、では何故ココ様は賄いが食べられるのですか？」
「おなかペコペコて、かわいそーだから」
「私だってペコペコですよ」
「あとで、おいしーお料理作ります！」
「え～、でも」
魔王様まるで駄々っ子です。マリが珍しく苛立たしそうに、眉間に皺を寄せています。
ココ様はそんな様子にも我関せず、涼しい顔をして賄いを口にしています。見かけによらず肉食系女子ですから、ウルちゃん特製のソーセージの生ハム巻き、ボロネーズソース掛け「ホット・ニクマミレ・ドッグ」に頬を緩ませていました。
さすがに朝から肉だらけは遠慮して、ラビちゃん作のサンドウィッチに手を伸ばすと、考える事は同じなようで、勇者に横から掠め取られてしまいました。睨みつけてやりましたが、無論そんな事で動揺するような勇者ではありません。
『ん～旨い。定番のＢＬＴ、野菜多めと言ったところだな。塩味の効いたベーコンを瑞々しいレタスと、旨味の強いトマトが優しく包み込んで、ピリッと辛いエシャロットのスライスがアクセントになって良い塩梅だ。それがまた全粒粉パンのしっかりとした風味と食感によく合うな』
誰も解説しろなんて言ってねー！
お！ 何でしょうあの黄色いのは？ オムレツですね。これまたラビちゃん作に違いない、野菜たっぷりオムレツサンドを手にします。
ん～美味しい！
どうやらピザソースに手を加えて、より濃厚な、トマトケチャップのような味わいにした物がかけられています。先ほどマリがホットドッグにかけろと言っていたトマトソースですね。それがまたオムレツに、何より全粒粉のパンによく合います。トレビスにルッコラ、バターソテーしたケールとポロ葱に、ほんの少しだけ柑橘系の果物の汁が掛けられていて、すっきりとして食べやすく、何だか余計にお腹が空いて来てしまった気がします。次は，サニーレタスがたっぷりと挟んであるホットドッグに手を伸ばすと、またもや横合いから勇者が掠め取って行くではありませんか。
コイツ、わざとか！？
『おー！ これも旨いな。パッと見で分かるサニーだけではなく、ソーセジの下に酸味の効いたレリッシュが隠れていて、ちょっとしたサプライズなんだが、それがまた良い味出しているな』
だから、そんな事、聞いてねー！
