２８・ また、訳の分からない事を。
『キョウ、イソガシイ、ハライッペェ、メシ、クライヤガレ！』
マリが何はともあれ、賄いを食べろと言いました。
今日は忙しいから、合間を見て手軽に食べられるよう、
「あまり物でいろいろ作ったー！」
との事です。
マリは余り物と言いましたが、とんでもありません。
焼き立ての芳ばしい香りを辺り一面に漂わせ、半分ほど油紙で包まれた合間から覗くパンに、色とりどりのバリエーション豊富な具材が、これでもかと、あふれんばかりに挟み込まれたサンドウィッチに、様々な色合い、形のソーセージが挟まれたホットドッグが大皿に山積みになっていて、それはもう、どれを食べようか目移りしてしまいます。
「しかし、朝からこんな贅沢して良いのか？」
勇者の言う通り実に豪華なのですが、なぜ！？ 図々しくも賄いを食べようとしているのでしょう。
「マリサマ、スープガ……！？」
どのパンを選ぶかに目を泳がせて、気を取られて、何気なくスープを口に含んで絶句してしまったのはラビちゃんです。
「かくしあじ、いれちゃいました」
マリが悪戯を成功させた子供のような含み笑いをして言いました。昨日のブランデーのアルコールを飛ばして、軽く煮詰めて肉汁のスープストックに一たらししたそうです。
「マリサマ、コレ、ナンテ、イウ、リョウリッす？」
「ホットドッグ」
真っ先にシンプルなホットドックを手にしたウルちゃんが尋ね、マリがゆっくり、はっきりとその名称を言うと、
「ホットドッグ、ホットドッグ、ホットドッグ」
ウルちゃんは脳裏に刻み付けるように繰り返します。
『ロキエル様、この食べる前から間違いなく、すげー美味しい「ホットドッグ」って、どーいう意味なんスか？』
『うん？ それは「ニホンゴ」で『熱き正義の想いを胸に秘めた、寡黙にして英傑なる孤高の狼』って、意味よ。ウルちゃんの為に作られたようなお料理よね』
『カッケーっス！ まさにウルの為の料理っス！』
ウルちゃん大興奮なのですが、ラビちゃんは頬を膨らまして不服顔です。
この二人、大の仲良しなのは論を待たないのですが、お料理に関することになると、ピザの時もそうでしたが、妙に対抗心を剥き出しにするようです。
「いや、どう考えても文字数があっていないだろうが」
勇者も少しは学習している様で、ウルちゃんに分からないよう日本語で呟きましたので、まぁ、許してあげましょう。
「どれも実に、美味しそうですね。では、まずはこれを頂きますか」
と、魔王様がおっしゃって、ウルちゃんが作ったに違いない、ソーセージのベーコン巻きホットドッグに伸ばした手を……何と！ マリが横合いから゛ハッシ”と掴み上げたではありませんか！
「魔王様は、だめ！」
なんですとー！
