24・ 大精霊様!
扉を叩く微かな音が……聞こえました?
酒管長を見送って執務席に着いた途端です。耳を澄ますと確かに扉を叩くかすかな音がします。
『どうぞ』
と、声を掛けても返事がありません。また誰ぞ、協賛金に関してのクレームでもつけに来たのかと思い、扉に向かうと、
『ロキちゃ~ん』
え!? この声は! 大慌てで扉を開けました。
『ココ様! お久しぶりでございます。お元気……』
じゃないです! ヘロヘロのヨレヨレです。
『ロキちゃん、ちょっと休ませてぇ~』
と、言うなりココ様は、はだけたままの私のお乳の谷間に飛び込んできて、
『ふ~、癒されますぅ』
お寛ぎのご様子です。
ヴェール・ココ・グラン・レセプト様。
この世界の総ての植物を司る『緑ノ大精霊』様です。
『如何なされたのですか、急に? 仰っていただければ、お迎えに参りましたのに』
『どうも、こうも無いですぅ。お寝坊していたら突然叩き起こされて、カゴの中に閉じ込められて、有無を言わさず連れてこられましたぁ』
『え~!』
『ロキちゃん、ひどすぎると思いません? カゴですよ、カゴ。ココを虫だとでも思っているのですかぁ~?』
『あ! そっちですか? 無理やり連れてこられて、お怒りになっているのではと思いましたが?』
まあ、口には出しませんが、遠目に見たら大きな緑色の蝶にしか見えません。
『う~ん、それは良いですぅ。久々にロキちゃんや、魔王ちゃんとも会いたいなぁ~と思っていましたから。ココは出不精ですから、転移魔法でビューって連れてこられて楽ちんでしたぁ』
誰にと問うまでもありません。そんな事をするというか、出来るというか、一人しか居ません。そして、ココ様を無理やり拉致してきた理由も明白です。
『ココ様、ひょっとして魔王城の給仕長に赤茄子と赤唐辛子を作らされました?』
『そうですよ~、さてはロキちゃんもグルですか?』
『いえ、いえ、私も確かに関わってはいますが、ココ様をお連れするなど、私はあずかり知らぬ事です!』
酒管長の場合とは違って、全力で否定しました。
何せ、こんな蝶みたいな可愛らしい姿ではありますが、魔族と言うより神に近い存在で、怒らせて、本気で争うようなことになれば、それ相応の覚悟をしなければなりません。
『まぁ、給仕長ちゃんに頼まれたら嫌とは言えないのですが、精霊使いが荒すぎますぅ。そもそも南国のお野菜で、こちらで育成するには気候的に無理がありますから、特殊な透光結界を張り巡らせた上に、筒状の結界に温水循環までさせて作ったので魔素がカラカラなのですぅ~』
あ! ビニールハウスの温室栽培って事ですね。