23・ お色気だったら負けません!
酒管長ったら顔を赤くしています。
強面で短気な乱暴者というのは、酒管長の持つ一面でしかありません。
仕事柄か虚勢を張らざるを得ませんが、その実、
『女性には、とびっきり優しいです』『あの厳つい顔が、男らしくて素敵です』『あの惚れ惚れする肉体美』『純情なんですよ、ギャップ萌えですね』
と、女性人気は高いのです。
怒りの興奮が冷め、会話が途切れたら、私と二人っきりで差し向いになっている状況に照れてしまっているのか、腰が落ち着かなくなっています。
しかし、このまま、じゃあねバイバイでは面白くありません。
魔王城内勤の各部署には予算が振り分けられていますが、基本的に各部署ごとの独立採算制なのです。酒管長が率いる酒類管理部は非営利ではありますが、取扱高によって予算が増減しますから、ピザ専門店を出店する事による、酒類管理部が受ける恩恵は計り知れないものがあるに違いありませんので、その見返りが欲しいところです。とは言っても、商品開発部の予算は潤沢にあります。そして私は特に物欲も無ければ金銭欲もありませんし、マリは私に輪をかけて物欲というものがありません。
ただただマリは美味しいお料理を作る事、私は、その美味しいお料理を食べる事にしか興味が無いのです。
藪蛇になるといけませんので尋ねませんが、あの赤ワインもブランデーも眼の玉飛び出るようなお値段に違いありません。お金を払って手に入れられる物なら問題ないのですが、宮中行事や迎賓晩餐会に提供するためのお酒など、希少性が高く値がつけられず、売買できないような逸品も手に入れたいものです。
さーて、如何しましょう。
酒管長も押しも押されもせぬ大幹部ですが、先だっての試食会には所用が合って、出席しませんでした。要は総料理長の時と同じで、マリの力量を酒管長にも知ってもらえれば、ピザ専門店の成功の信憑性を確信してもらえ、今後、希少な調理酒が必要な時に色々と便宜を図って頂けるでしょう。
『酒管長、よろしければ、この後、開発室で、その「ピザ」の試食会があるのですが、是非お越し頂けませんでしょうか?』
『試食会? 「ピザ」って料理の?』
『えぇ、開発部の料理人が腕によりをかけ、魔王様がお認めになって専門店出店をお決めになって、その権利をめぐって給仕長と総料理長が争い、給仕長が強奪したという……』
え~と、確か給仕長は一度言葉を切り、チロッと舌なめずりをし、上目遣いで凄みのある色気を醸し出していましたよね。
『逸品ですわ』
『お、おう、わ、分かった。良い酒を見繕ってから、寄らせてもらうわ』
真似してみたら効果てきめんでした。