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22・ チビリそうになったのは内緒です。

  

 執務室の扉を蹴り上げて入室して来たのは……やっべー! 酒管長です。


 顔付が尋常ではありません。ただでさえ、どこぞの来訪神のように子供が泣いて逃げまどうような顔だというのに、今にもこめかみから血が噴き出さんばかりに、怒りで真っ赤にしています。怖すぎます。


『酒管長、御免なさい!』


 思わず謝っちゃいました。


『ロキエル! 謝るって事は、コレは無効という事で良いんだな!』


 酒管長は巨躯を長椅子に投げ出して言いました。


『ふぇ? 無効?』


 まるで、マリのような間の抜けた声を上げてしまいました。酒管長は一体、何の事を言っているのでしょうか? すると手にした羊皮紙をバシバシ叩きながら、


『大体、やり口が気に入らねぇ。俺が席を外しているのを見計らったようにやって来やがって。そりゃあロキエル名義の書類を持って、給仕長に捲くし立てられ、急かされて、あげくに脅されりゃあ、了承印を押しちまうだろうがよ』


 私名義の書類を持って? 給仕長が? 脅す?


『あ! ピザ実験店舗の協賛金ですか?』


『「ピザ」ってえのが、どんなモンかは知らねえが、他に何が有るってんだ?『俺の目の前で、力尽くで奪われた酒を返して下さい』とでも文句をつけにやって来たとでも思っているのか? そんな恥ずかしい事、言える訳ねぇだろうが』


 お! 思惑通り、お酒に関しては不問に付すという事ですね。

 それにしても、やりやがったな、給仕長。


『#交付書類はロキエル様名義__・__#で宜しいでしょうか?』の台詞が伏線ですか。確かにあの時、微妙な違和感を感じたのですが、凄みのある色気に気を取られ過ぎでした。今になって考えてみれば『辞令書類』と言わずに、拡大解釈できるように『交付書類』と言ったのですね。


 ホント、悪い女です。


『ちょっと、その書類、拝見させて頂きますか?』


 酒管長の返事を待たずに奪い取るようにして、書類に目を通すと、確かに私名義です。うわー! 何ですかこの金額は! 酒管長が怒鳴り込んでくるのも無理ありません。しかしここで『知らぬ存ぜぬ、給仕長が勝手にやった事です』と、責任逃れをしていては給仕長に負けた気がします。ここは何とかしのぎ切って……。


『もちろん無効で結構です』


 私はその場で羊皮紙を引き千切りました。


『あ、良いのか?』


 ふふふ。酒管長流です。

 一旦引くと、酒管長は気勢を削がれて、振り上げた拳の落としどころを失くし、毒気を抜かれたように肩を落としました。こんな控えの書類を破ったところで、痛くも痒くもありません。給仕長の事ですから、原紙は既に財務部に回っているに違いありません。


『もちろんです。こんな理不尽な要求がまかり通る筈もありません』


 私はゆっくりと席を立ち、しっかりと胸元をはだけて酒管長の前に腰掛けます。


『お、おう。分かってくれりゃ良いんだよ』

『本当に申し訳ございません。私と給仕長の間に意志疎通の齟齬があったようです。給仕長を責めないでやって下さい』


『あぁ、もちろんだ。いや、俺の方こそ声を荒げて済まなかったな』


 よ~し! 懐柔成功です。

 

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