17・ まぁ、見ていて下さい。
「――――――ッ!」
マリを抱え上げたまま、駆け寄る勢いそのままに、前蹴り一閃。
鍵は吹き飛び、鎖は引き千切れ、閂は木っ端微塵に、破片が飛び散り、巻き添いを受け、倒れ込んだ衛兵さんの総ミスリル製の槍を、これ幸いと拾い上げます。扉を蹴破り貯蔵庫の中へ、取っ手に槍を差し込みグチャグチャに捩じり上げます。これで暫く時間が稼げるでしょう。
「さあ、どうマリ」
「よりどり、みどり、だー!」
薄暗い貯蔵庫の内部は、高い天井の上まで棚が何列も設えてあり、幾百、幾千もの酒樽が寝かせられて、連なり佇んでいました。大概、良い物は一番奥にあると相場が決まっているでしょうから、一番奥へ行くと、マリが左側を指さし言います。
「あっち、いいにおい」
さらに左奥へ行くと。
「このへん。ん~、アレかな?」
いちいち味見をする訳にはいきませんから、マリが目星をつけた樽を持ち出そうとすると、
「ロキ、あれ」
マリの指差す近くの柱に、試飲用カンロレードルがぶらさがっていました。
樽の上部にある木栓を引き抜くと、来ました、来ました、ツンと酒精の刺激が鼻をくすぐると甘ったるい絡みつくような芳香と、樽の湿った独特の香りが混ざり合いながら立ち上がってきます。
さっそく、カンロレードルを差し入れそっと引き上げると、
「……マリ、これ、もの凄く良い香りだけど、何か違わない?」
「ブランデー、一番いいかおり」
違うんかい。
後ろ髪を引かれる思いですが目的を見失ってはいけません。扉の方から騒がしい声と打ちつけるような金属音も響きます。
「マリ、目的が違うわよ、赤ワインは何処か分かる?」
「あっち、かな?」
「行くわよ」
「い~や!」
マリはしゃがみこんで首を横に振ります。こうなったマリは始末に負えません。
「マリ、このブランデーが欲しいの?」
「おいしいのが作れる!」
う~ん、その言葉には私も弱いです。機動力は落ちますが、マリを左、樽を右肩に担ぎ上げ赤ワインを目指します。
「このへん」
赤ワインは下に澱が溜まっていますので、そっと通路に引き出します。
多くの足音が響いてきました。急ぎましょう。
樽を二つ並べ、マリの肩を引き寄せしっかりと左手で抱きしめます。右手を天にかざし大きく輪を描き、挙げた手で地を指し示すと七色に彩られた魔法陣が描かれました。
私の自慢の、それは、それは美しい、オリジナル魔法陣です。もっとも、魔王様から緊急避難用だと言って掠め取った、魔結晶の触媒が無いと微調整が上手くいかず、何処に行くのか見当がつきません。何せ、魔素は山ほど持ち合わせていますが、微調整は苦手なのです。
「おー! かっけー!」
マリ、大はしゃぎです。
驚くのはこれからですよ。




