14・ 何もできません。
『ラビさん、ウルさん、宜しいですか?』
三人の大はしゃぎも一段落したところで、給仕長が口を開きました。
二人は慌てて長椅子にチョコンと座り直します。可愛いです。
『貴女たちに問います。覚悟はおありですか?』
『はい!』『っス!』
二人は声を揃えて、小気味良く即答しました。
すると給仕長は満足気に頷いたかと思うと、スッと目を細め、ほの暗い怪しい輝きを瞳に湛え、腹の底からドス黒い沈殿物を吐き出すかのように言います。
『命を捨てる覚悟ですよ』
え!? 給仕長いくら何でも、言い過ぎでしょう。ピザのお店を出すのになぜ命を? しかし、給仕長の真剣な顔付は嘘や冗談を言っているようには、とても思えません。二人も給仕長が何を伝えたいのか理解ができないようで、言葉が出ません。
『貴女たちは先程『誠心誠意務める』『精いっぱい努力する』と、言いました。大変素晴らしい事です。しかしながら、その必要はありません。マリ様を敬い、マリ様に師事し、教えを守る貴女たちの姿は「ピザ」試食会の時に十二分に示して頂きました。貴女たちはただ楽しんでいれば「ピザ」専門店出店の成功は確約されたも同然です。よしんば、万が一にも失敗したなら、それはすべて私の責任です。では、今後マリ様と共に歩む、貴女たちが命を賭し、投げうってでも守らなければならない、使命とは……』
『マリ様をお守りします!』『マリ様をお守りするっス!』
給仕長の言葉を待たずに二人が揃って答えました。
本当に息の合った二人ですね。
あれ? 何でしょう? 何だか、目が、ぼやけて、はしたない、ですが、鼻水が。
「ねぇ、ねぇ、ロキ?」
マリが不思議そうな顔をして、お乳をつついてきました。
「ラビちゃんと、ウルちゃんがね、マリをね、どんなことが、あっても、命懸けでね、守って、くれるって」
「へ?」
もう~、何という間抜け顔をするんですか。思わず吹き出しそうになってしまったのですが、
「――――ツ!」
突如として、マリが声にならない雄叫びを!
心臓が口から飛び出してしまいそうに驚きました。
時空がねじ曲がってしまうのではないかと思う程に空間が震え、室内にいるというのに大地が張り裂けんばかりの揺れを感じました。他の三人も長椅子から腰を浮かせ、凝り固まり、仮面を張り付けたかのような驚愕の表情を浮かべています。
「やー! いらない!」
マリが慟哭に喉を震わせながら、私に飛びつき、胸に顔をうずめ、幼子が駄々をこねるように滅多矢鱈と腕を振り回してきます。
「そんなの、やー! そんなの、いらない。守られるだけのマリなんかいらないの!」
私はマリをなだめる事もできず、ただ、されるがままにしている事しかできませんでした。
「マリがね……マリが仲間を守るの」
給仕長も、ラビちゃんも、ウルちゃんも、想いは同じのようです。ただ、黙って席を立つと、私とマリ、二人を残し、執務室を後にします。
最後に扉を閉めたラビちゃんが、深々と一礼し、顔を上げた時のとびっきりの笑顔が、今にも泣きだしそうなのですが……。
素敵すぎます。