13・ えぇ、そりゃあ、もう。
執務室にいます。
魔王様と総料理長は大満足でお帰りになられ、勇者は叩き出しました。
中途半端にラビちゃんとウルちゃんの事が話題に出てしまったので、口頭ではありますが、改めて正式な辞令として、給仕長が二人に役職を伝えました。
『畏まりました! 誠心誠意務めさせて頂きます!』
『光栄ッス! 精いっぱい努力しまっス!』
二人ともガチガチに緊張して、耳まで真っ赤です。
『ほら、二人とも、そんなに固くなって、畏まらないで』
『でも、ロキエル様、何だか夢のようで信じられないです』
『嘘じゃないわよ。確かめてみても良いわよ』
ラビちゃんが上気した頬を抑えて言うのを、私がおどけて、頬を突き出して答えると、
『では、失礼します』『失礼するっス』
って、二人して私を無視して、マリをペロペロなめ回しやがった。
『本当でした』『本当っス』
二人して声を揃えやがりました。だから、それで、何が、分かるっーの!?
「マリサマ、ヨロシクオネガイシマス」「マリサマ、ヨロシクオネガイスルッす」
『ヨカロウ、マリニツイテマイレ、テシタ、ソノイチ、コブン、ソノニ』
二人が声を揃えて会釈するのを、マリは無い胸を反らして尊大な態度で応じますが、何という言い様でしょう。意味も良く分からず言っているに違いありませんが、さすがに看過できません。しっかりお仕置きしてやろうと、手を伸ばすと横合いから一瞬早く、給仕長の手が伸びます。
「あ゛ばばば」
「マリサマ、イマナンテイッタ? コノコタチガ、テシタ? コブン? ソノイチ? ソノニ? ダト!」
給仕長は辺りを凍り付かせるかのような、青白きオーラを体中から滲ませながら、マリの頬を、千切れちゃわないかと心配になるぐらい、思いっ切りつねり上げます。
「あ゛ば、あ゛ばばば」
ラビちゃんとウルちゃんは給仕長の余りの剣幕に、声も出せずに二人して抱き合ってガクブルです。ここは私が間を取り持ってあげなければ、と、思いきや。
給仕長は手を離し、ひざまずき、マリを優しく抱きしめて、つねっていたマリの頬に自らの頬をあてがい呟きます。
「……ナカマ」
マリは茫然自失として、力無くその場に立ち竦みます。
「テシタデモ、コブンデモ、ソノイチデモ、ソノニデモ、ナイ。ダイジナ、ナカマ」
「……なかま?」
「ソウ、ダイジナ、ダイジナ、ナカマ」
「……なかま、なかま、仲間。大事な仲間。大事な、大事な仲間」
マリは、虚ろな瞳で、その言葉を口に馴染ませるように、確かめるように、何度も、何度も繰り返しました。
『……マリト、ラビト、ウルハ……ナカマ?』
マリが給仕長の肩を力強く掴み、身体を引き離し、ジッと給仕長を見詰めて尋ねました。
『えぇ、そうです』
給仕長はそれは、それは優しい笑みをたたえて答えました。
マリの瞳に生気が戻り、煌めくように輝きだすと、つねられ赤くなっていた頬が瞬く間に紅潮していきます。
『ラビ! ウル! ナカマー!』
「マリサマ!」「ッす!」
マリが声を限りに叫び、勢いよく二人に飛びつくと、二人はしっかりとマリを受け止め、そのまま床を転げ回って大はしゃぎです。その愛らしい姿に目を奪われそうになりましたが、私は横目でチラリと彼女たちの様子を見ただけで、視線を動かすことができませんでした。
給仕長の彼女たちを見詰める、淡く、柔らかく光り輝く、今にも消え入りそうな嫋やかな美しい笑顔から、目が離せなかったのです。




