11・ まあ、そこは適当で。
『ロキエルさん、実に羨ましい』
魔王様が言いました。
何が!
『そこまでマリ様に慕われていらっしゃるのですね』
給仕長が言いました。
どうだか!
『素晴らしい。私もロキエル様のように、マリ様に慕われるよう誠心誠意、努力いたしますぞ』
総料理長が言いました。
ご勝手に!
『いや、ロキエル、俺は何も言っていないからな』
あの鈍感な勇者も、さすがに私の顔色を読みましたか。
『……』
ねぇ、ラビちゃん。黙って沈痛な面持ちで私を見ないで! そういう気遣いが一番こたえるの、知っている?
『ふんス!』
うん、ウルちゃん。赤ワイン煮を食べるのに夢中です。私の事は眼中に有りません。とっても癒されます。
マリ、曰く、赤ワイン煮は「まあまあ、おいしい」で「おいしい!」ではないから、私には食べさせられないとの事です。
これ嬉しい事なのか!?
まあ、良いです。
『コンフィハ、ピザノミセ。アカワインニハ、レストラン』
マリの鶴の一声と、ピザ店の協賛金に関しては一度総料理長がピザの試食をした後に改めて、という事で折り合いがついで、殺伐としていた雰囲気は雲散霧消しました。
『しかし、これが『まあまあ、おいしい』ですか』
ねぇ、魔王様、美味しいのですか?
『えぇ、私には完成された極上の一品としか思えませぬ』
総料理長が極上とまで言い切っちゃいました。
『「カスレ」より昨晩お出し頂いた「ピュレ・ド・ポム」が合いそうですね』
とか言いながら、給仕長はすでにワインを赤白二本空けちゃっています。
ラビちゃんは、いそいそとカスレのお代わりをしていますし、勇者とウルちゃんは黙々と赤ワイン煮を頬張って……ウルちゃんの耳がピクピクと揺れ動きました! 急に顔を上げて、作業台の所に居るマリを凝視して、スンスンと小鼻を膨らませます。
『ウルちゃん如何したの?』
私が尋ねると、ウルちゃんは薄っすらと目を閉じて、訝し気に、
『「キタインドチホウフウカレー」の香りがするっス?』
『カレーの香り?』
と、不思議に思う間もありませんでした。油の弾ける音と共に、胃袋をえぐるような香辛料の香りが立ち昇ったのです。
「マリ、何して……」
出かかった言葉を飲み込みました。尋ねるまでもありません。フライドチキンの香りです。
『ロキエル様! これは「キンキンニヒエタ」エールですね!』
給仕長が席を立ち、言いました。確かに仰る通りですが、興奮し過ぎですって。
『ロキエル様、この香りは一体?』
総料理長が色をなして尋ねてきました。
『えぇ、この香りは「ガラムマサラ」と言いまして、様々な香辛料をマリが独自に調合した物です。そのガラムマサラと小麦粉を塗したコンフィを高温の油で揚げるお料理「フライドチキン」ですね』
……チキンじゃないけどね。