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10・ 何が言いたいのですか!?

  

『筋違いですな』


 総料理長が怒りも露わに、憮然とした表情で言いました。


『それは如何いう意味でございますか?』


 給仕長は平然とした顔で言い返しました。


『マリ様がお作りになった「コンフィ」とはいえ、あくまでも商品開発部という組織として開発した商品ですから、マリ様が何と仰ろうと、個人に所有権のあるものではありません。魔王様直属の商品開発部の下部組織である、調理部に優先的な選択権があるに決まっています』

『それこそ筋違いです! 私は給仕部の長としてではなく、商品開発部、開発室マリ室長付「ピザ」出店準備室ラビ室長、並びにウル副室長の後見人としての発言でございますから、当然、優先順位は調理部より上ですわ』

『いつ発足したかも知れぬ、何の実績もない準備室にそこまでの権限があるとも思えませぬし、飲食店の実験店舗出店に給仕部が携わるというのも解せませんな。あからさまな越権行為ではありませんか。その「ピザ」なる料理、マリ様がお作りになられ、魔王様が専門店出店お決めになられたというなら、さぞかし素晴らしい物に違いありません。是非にも調理部で取りまとめさせて頂きたいですな』

『いいえ、魔王様の御指示を受け、ロキエル様より承諾を頂いて事業計画はもう既に、給仕部主体で動き始めています。あ! 丁度都合が宜しいですわ。コレ、調理部宛の請求書です』

『何ですか?』

『小会議室の改修予算書です』

『な、何ですか! この金額は!?』

『事の発端は、調理部の料理長が()()()()()()()を働いた事ですから、当然その責は重大でございますわ』

『礼儀知らずに制裁を加えたまでの事。それにしても、この金額は無いでしょう』

『実験店舗は福利厚生施設として運営していきますので、その協賛金も含めての金額だと思って頂ければ』

『何の説明もなしに、協賛金ですと!?『良いから、黙って金を出せ!』とでも言いたいのですか。横暴にも限度がありますぞ』

『あら? 許せないと仰りますの?』

『ほほう、面白いですな』


 い、いけません。険悪通り越して殺伐な雰囲気になって来ました。ラビちゃん、ウルちゃん、自分たちの名前が出て来たけど事態が飲み込めていないようで、始めはキョトンとしていましたが、異様な雰囲気にオドオドしてしまっています。せっかくの美味しいお料理が台無しになってしまいます。ここは私が、と、思いきや。


『ケンカシチャ、ヤー!、コレ、クライヤガレ!』


 マリがテーブルの真ん中に、大皿に山盛りの、鴨の赤ワイン煮、カナールドブルギニヨンをデンと置きました。赤ワインをとことん煮詰めた、実に美味しそうな艶々と輝くソースに、ほのかに鼻腔をくすぐる果実香に、皆さん我を忘れて魅入られしまいます。えぇ、私もなのですが。それにしてもマリが珍しく声を荒げた……って、マリの頬を大粒の涙が!?


「マ、マリ! 如何しました!?」

 大慌てでマリに駆け寄り、ひざまずいて肩を握り締め、真正面からマリの頬を伝う雫を拭います。

「……ケンカは、や」


 マリは一言つぶやいた途端、(せき)を切ったように、次から次へと大粒の涙をこぼしました。あれほど殴り合いの大喧嘩を、大喜びで見ている、あの、マリが、です!


「ううん、マリ。別に喧嘩している訳じゃないのよ。ただ、コンフィをレストランとピザ専門店のどちらでメニューに加えるか、話し合っていただけなの」

「……ホント?」


 皆さん固唾を飲んで私とマリのやり取りを見詰めていましたが、給仕長が私の隣でひざまずき、マリの頬に手を添えて、口を開きます。


「マリサマ、ホントヨ、ワタシモ、ソウリョウリチョウモ、ソレワ、ソレワ、モノスゴ-クオイシイ、コンフィヲ、メニューニイレタイダケナノ」

「てへへ~」


 マリが急に上機嫌で、照れ笑いを浮かべます。何だか勇者にしろ、給仕長にしろ、マリの扱い方が、私より遥かに上手な気がします。

 すっかり気を良くしたマリが、手早く赤ワイン煮を取り分けてくれました。


 早速、頂こうとした……その時です。

 私が手にした皿を、マリが急に取り上げたのです。

 何という悪逆非道!


「ちょっと、マリ、何するの!」

「おや? マリさんどうされました」


 今までの成り行きを黙って見守っていた魔王様が尋ねるも、マリは返事をしません。

 すると、突然、何のためにか良く分かりませんが、マリは椅子の上に、


「うんしょ!」


 立ち上がり、腰に手を当てがい、ふんぞり返って私を指差し言ったのです。


『ロキニハ、クワセン!』

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