1・ 新展開!
魔王城に激震が走りました。
『黒キ支配者、来訪す』の一報が入ったのです。
魔界も一枚岩ではありません。魔王様の絶対的な統率力と、私を! 私を筆頭とする強力な臣下による武力制圧で、支配体制は保たれてはいるものの、いまだに従属しない反抗勢力も健在ですし、『隙あらば寝首掻いてやる』と思っている勢力は数多といます。
領土的野望も政治的野心もない、超然とした存在なのですが、何を企んでいるのか計り知れない所もあります。組織としての臣下の数は、ごく少ないものの、個の力として眷属を召喚する能力に秀でており、その実力は折り紙付きです。
狂乱の試食会の興奮も冷めやらぬまま、一夜明けたばかりだというのに、面倒な事にならなければいいのですが。
マリと一緒に執務室に居ます。当たり前のような顔をして勇者も居ます。何故。
「何をそんなに騒いでいるんだ? 食屍鬼に毛が生えたような雑魚だろ」
「魔界で不始末を犯して、勇者の世界に放逐された出来損ないとは訳が違います」
「強いのか?」
「侮れないですね。組織としてではなく、個人的に一度やり合った事があって、何しろ召喚する眷属の数が凄くて、あらかた片付けたものの、かすり傷を受けたので戦略的撤退をしたのです」
「負けたってこと……ふん゛ごっふ」
「マリ、勲章で遊んでは駄目よ」
マリは綺麗な勲章を貰って大喜びで胸に着けていたのですが、「なんか、じゃま」と、言って、机の上に放り出していたのを、手裏剣のようにして床にはいつくばっている勇者に投げつけています。
総料理長の誇りズタボロです。
噂をすればと言う奴で、総料理長がいらっしゃいました。
昨晩、総料理長の座を返上しようとしましたが、魔王様は認めず、引き続き職務を全うするよう厳命を受けたのです。
『失礼します、ロキエル様、おお! マリ様もいらっしゃいましたか、これは丁度良い、実はご相談がありまして』
総料理長はそう言って、床に転がっている勇者を、しっかりと「ふんげ!」踏みつけて長椅子に腰掛けました。
『ん? あれは』
拙いです。床に転がっている勲章に気付きました。マリが直ぐに拾い上げましたが、ホッとしたのも束の間。
「いらねー!」
な、何しているのですか!
マリは、なんと、拾い上げた勲章を総料理長に向けて投げつけたのです。
『おぅ、これは有難い、お返しいただけるという事ですか、私、マリ様に師事する者として、総料理長の名に恥じない働きをしてみせますぞ』
総料理長、ポジティブ過ぎます。私がマリに通訳してあげました。マリは勇者に言葉を教わっているようで、間違った方向に行かないか不安で仕方ないのですが、
『ヨキ二ハカラエ』
無い胸反らして言いやがりました。
『畏まりました。身命を賭して』
総料理長はそう言って片膝をついて恭しく一礼します。どんな小芝居ですか。
『それで要件の方なのですが、黒キ支配者の件なのです。魔王様より饗応を申し付けられまして、マリ様にご相談せよとの事で』
総料理長の言葉をマリに通訳すると、それはもう満面の笑みで、
『ウムヨカロウ、マリガ、オシエテシンゼヨウ!』
この娘ったら、もう! また安請け合いを。どうせ、また、何も考えていないのに違いありません。
やっぱり、面倒事が増えました。