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ゴリラと視察

 午前11時。一台のトラックが校門から入ってきた。カラモチ11号達の力によって空っぽになった部室に業者の皆さんが家具を運び込む。

 校舎の端にある部室なので流石に大変そうだからカラモチ11号を手伝わせた。バイトのおにーさんや責任者のおっさんは目を見張った。


「凄いね……。こんなロボットがあるなんておっさん知らなかったな」

「まあ、俺の自作ですから」

「じ、自作!? 」

「ええ、一台1600万円です。三台セットなら4800万円のところを4500万円。保証は10年。いかがです?」

「い、いや私の判断ではとても……」


 ロボットの製作には金がいる。時たまこうして業者に声をかけるが実際に売れることは少ない。

 まあ、取引相手は海外の人間がほとんどだ。どうやら日本人は初期投資を必要以上に忌避する節がある。


「コラァァァ!」


 と、そこに怒鳴り込んできたのはジャージを着たゴリラ。ではなく、生徒指導部の清水。竹刀を握りしめたゴリラ清水は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「誰だ無許可で学校に部外者を呼んだのは!!」


麗奈……許可取らなかったのか……。


「私です」


 業者のおっさん達もあまりのど迫力に凍りつく中、麗奈は胸を張ってゴリラに答えた。


「杉琴、お前か!」


 あ入学して一週間もたっていないのに名前を覚えているとは、今時珍しい熱い先生である。


「ええ、部室の備品に破損汚損があったため、新しいものを購入したんです」

「そんなことは聞いちゃいない!部外者を校内に入れるとは何事だ! 校則違反だっ!」

「お言葉ですが、彼らと私は客と店員です。部外者ではなく関係者と言えるでしょう」

「屁理屈を言うな! 大企業のお嬢様だがなんだか知らないが、俺は生徒を特別扱いしないからな!生徒指導室に来い!」


ゴリラの手が麗奈の腕を掴む。


「加治川、お前もだ!」

「うそーん……」


麗奈が言い争っている間に、じわじわと移動しておっさんの後ろに隠れた俺だったが、無駄だったようだ。


「清水先生」


怒り狂ったゴリラに対して臆することなく麗奈は立ち向かった。


「清水先生は息子さんがいらっしゃいますよね?」

「なんだ? 話をそらすつもりか?」


 麗奈がゴリラの側ににじり寄る。そしてゴリラの耳元でボソボソと呟いた。あいにく俺はその内容を聞き取ることができなかった。


「な、なぜっ……それを……」


 が、ゴリラの顔が青くなったところを見るととてつもない爆弾だったらしい。


「先生、私が悪かったです。二度としませんので今回は見逃してくれませんか?」

「スーーーーッ……分かった……。分かった。次からは事務室を通しておくように」

「かしこまりました」


 ゴリラは筋骨隆々とした体を丸めて足早に去っていった。


「……何を言ったんだ?」

「私はこう見えて顔が広いと言うことを教えてあげたのだよ」

「……へぇ。ゴリラ清水まで相手にならないとはな」

「なぁに、ゴリラ清水は生徒指導部四天王の中でも最弱。ヤクザ船山、家庭科の杉本、愛妻家下川はもっと手強い。そんな奴らのトップである教頭はもっと手強いぞ」


 なんだそのRPGみたいな設定は。


「さて、他の四天王が出てくる前に終わらせよう。午後からやりたいこともあるからな」




 2時間後。全ての家具が部室に運搬された。5つの机が部室の中央に鎮座しており、部長である麗奈は上座に当然のように座った。


「あー、やっぱりこの椅子はいいな。気に入った。実に気に入った」


 麗奈はくるくると椅子ごと回っている。椅子の回転が止まったかと思うと、壁に貼られた世界地図を見て恍惚な表情を浮かべた。


「……麗奈」

「どうした?」

「午後からやることがあるって言ってたが何がしたいんだ?」


 麗奈が椅子を回転させ、俺の方を向く。軍帽の鍔に手をかけ、ニヤリと笑った。


「視察だ。第一の目的である商店街の復興のためのな」






 高校から歩くこと20分。久しぶりに通った地元の商店街は想像以上に廃れていた。500メートルほどある巨大な商店街のほとんどの店は固くシャッターを閉じ、明かりがついている店も閑古鳥が鳴いている状態だ。


「ふむ、思ったよりひどいな。営業している店は1割2割ってところか」


 セーラー服に軍帽とマントを着た麗奈は冷静にそう言った。対して俺は知り合いが通りかからないことを切に願っていた。


「ストロー現象ってヤツだな」

「よく知ってるな、創」


 ストロー現象とは、いわゆる大都市への客の流出を意味する。高速道路や新幹線などの交通機関が発達し、より魅力的な娯楽や品揃えを求め人々は都市圏に出かける。残された地元の商店街は悲鳴を上げながら倒れていくという寸法だ。


「しかし、そう考えると再開発ってのは中々に大変そうだ。ここまで発達した交通網を無に帰すわけには行かないし……」


 俺が不安げにそう言った所で思わぬ横槍が入った。


「よっ! そこのお似合いのお二人さん! 良かったら寄って行ってよ!」


 声の主は初老の男。年季の入った作業着に、昔ながらの前掛けをつけたオヤジは、満面の笑みを浮かべた。


「うちの商品は日本一だよ! もちろん、べっぴんさんにはお安くするよー!」


 オヤジはクイッと店の看板を指差す。そこには『八百屋』と書かれていた。

 オヤジの誘いに乗るべきか否か。俺が麗奈の顔色を伺おうとしたその瞬間。


「まあ素敵! 加治川さん、折角だから寄って行きましょうよ!」


 麗奈が俺の腕を引っ張りずんずんとオヤジの方に歩いて行く。誰だお前。

ゴリラ

本名清水大介。体育科の教師で生徒指導部四天王の一人。ハンドボール部の顧問をしている。

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