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第3話 作戦A 買い物

 次の日。入学して間もない一年生は午前中で学校が終わった。まだ浮き足立った様子の学生達はこれから何をするか決めかねているらしく、辺りの様子を伺っている様だった。


「創! 電車の時間は1時20分だ。昇降口で待っているから、急いできてくれ」

「わ、分かった」


 バッグを肩にからった麗奈はそう言い残すと威風堂々と教室の外に出て行った。

 やれやれ、いくら予定が決まっているとは言え、もう少しゆっくりしてもいいと思うのだが。


「おい、加治川。お前いつの間に杉琴と仲良くなったんだ?」

「それに電車の時間とかなんとか。もしかしてこれからデート?」


 屍に群がるハイエナの様に俺を取り囲んだのは隣の席の仲村と二個後ろの席の須藤。

 誤魔化そうとした俺を許さず、半ば羽交い締めの様に俺を尋問する。


「言え!どうやって仲良くなりやがった。俺なんか女子と話してさえいないのに……」

「もしかして、杉琴さんの言ってた世界征服と何か関係があるのかい?」


 ほら、すぐ尻尾を掴まれた。俺が返答に困っていると、思わぬ声がかかった。


「加治川君は杉琴さんと一緒に部活作ったんだよね」


 不意に話しかけてきたのはクラスの女子、逸ノ城(いつのじょう)春音(はるね)さんだった。

 逸ノ城さんは入学2日目にしてクラスのアイドルの地位を確立した少女だ。目立つピンク色の髪をした彼女は屈託のない笑顔を見せる。どこかのご令嬢とは違い、愛想も良く仕草も可愛らしい。


「い、逸ノ城さん!?」


 シャキン、と音が出そうなほど仲村が背筋を正す。


「へぇ、部活を作るなんてアクティブな事をしてるね。なんて部活?」

「え、えっと……ぼ、ボランティア部だ」


 嘘ではない。実際、麗奈は創部の際にはボランティア部として申請したそうだ。活動内容は世界征服になるわけだが。


「なんだ、案外まともな部活じゃねーか」


 面白くなさそうに仲村腕を組む。チラチラと逸ノ城さんに目を向けているあたりわかりやすい男だ。


「ちなみに、逸ノ城さんは何部に入るの?」

「私は園芸部に入ろうと思ってるんだ」


 逸ノ城さんはそう言うと楽しそうに園芸部のことを話し始めた。はやくも夏に向けてひまわりの種を植えるのだとか。期待を裏切らない部活選びだ。


「じゃあ、俺もう行くわ」


 話の腰をなるべく折らないように素早くそう言って、話の輪から外れる。


「ばいばい、加治川君」


 手を振る逸ノ城さんに軽く会釈して俺は麗奈の元へ急いだ。




●◯



「それでは、今日買うものを発表する。心して聞くように」


 平日の昼ということもあり、ガラガラの電車。俺の向かいの席に座った麗奈は懐から四つ折りにしたメモを取り出した。


「まず、世界地図」

「世界地図?」

「ああ。世界地図だ」

「なんのために買うんだ?」

「なんのためにって……決まっているだろう。壁に飾るためだ」


 麗奈曰く、世界征服を目論む組織である以上壁に世界地図が飾ってあるのは当然だとか。言いたいことはわからんでもないが、どうやらこの女、形から入るタイプらしい。


「次に、マントと軍帽」

「ちょっと待て」

「なんだ?」

「なんて言った?マントと軍帽?」

「ああ、そうだ。いちいち確かめないでくれ。ここが戦場なら死んでるぞ」


 鬼軍曹かお前は。


「いやいや、マントと軍帽こそ何に使うんだよ?」

「着るためだ。お前は軍帽をフリスビーにでもするのか?」

「そう言うことじゃなくて……。それを着てなんになるのかって話」

「決まっているだろう。秘密組織感が増す。世界征服を目論む組織のリーダーがセーラー服では締まらんからな」


 思わず椅子からずり落ちそうになる。


「そう焦るな。もちろん君の分もあるぞ」


 麗奈は手元のメモに目を落とした。


「創。君は我が組織の機械工だからな。それっぽいゴーグルを常につけてもらおうか。それから、大きめのスパナを常備してもらいたい」

「………………」

「……なんだ、不満か。仕方ない年中ツナギ姿は勘弁してやろう。メカニックっぽいが、着替えがめんどくさそうだからな」


◯●



 電車に揺られること1時間。平日にもかかわらず賑わいを見せる都心部に訪れた。


「ここなら買うものに困ることはないだろう」

「とりあえず家具屋から行くか」

「そうだな、本棚に机、椅子、あとゴミ箱も欲しい」


 麗奈は部室にあった家具をほとんど一新するようだ。確かにボロボロなのも多かったが、買い直すとなるとかなり高くつくだろう。


「そう言えば、お金は大丈夫なのか?」

「金?」

「ああ、悪いが俺の財布の中は1万と65円しかないぞ」

「ひもじい奴だな……。まあ、全ての言い出しっぺは私だ。初期投資くらい私が負担しよう」


 麗奈は通学用かばんに手を突っ込んだ。


「これだけあれば足りるだろう?」


 麗奈の手に握られていたのは100人一括りにされた諭吉。しかもそれが三束。俺の頭の中に計算式が浮かぶ。


1万×100×3=300万


「あばばばば!?」

「さて、家具屋はどっちだ?」


 目を白黒させる俺を差し置いて、麗奈はバッグに金をしまうと、人混みの中をスタスタと歩き始めた。


●◯


「麗奈!しっかり両手でかばんを持て!!」

「麗奈!チャックが少し空いてるぞ!!」

「麗奈! よそ見をするな! 人を見たら泥棒と思え!!」


 300万円の入ったバッグを持つ麗奈に俺は何度も注意をしながら家具屋に向かう。俺が8回目の注意をした時、麗奈は俺に自分のかばんを差し出した。


「そんなに不安なら君が持て」

「そうさせてもらう!!」


 俺はバッグを首にかけ、体の目の前に垂らすと両腕でしっかりと抱きしめた。麗奈は哀れむような視線を俺に向けたのだった。


ジュゲム

加治川創が小学6年生から中学二年生にかけて着手していた二足歩行ロボ。8号まで存在。中学生が開発した自立型二足歩行ロボとして当時メディアで大きく取り上げられた。

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