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第2話 秘密基地

 この高校の特徴として、文化部がかなり多い。吹奏楽部や写真部のようなメジャーなものから、ロボット研究会やオカルト部のようなマイナーなものまで。さらには遊部(あそぶ)やらお悩み解決部の様なわけの分からん部活が当然のように並んでいる。


 にも関わらず、3階建ての文化部棟にはまだまだ空き部室がある様だった。人気のない文化部棟の3階を杉琴麗奈は肩で風を切る様に歩いていた。


「なあ、杉琴……さん」

「麗奈でいい」

「……麗奈」

「なんだ」

「世界征服を志すのはいいとして、でも、どうしてわざわざ部室を作るんだ?」

「……どういう意味だ?」

「ほら、とりあえずのところ秘密結社の構成員は麗奈と俺だけなんだろ? そんな慌てて基地を用意する必要ないんじゃないか? むしろ、世界征服を宣言した麗奈とそこそこ顔の知られた俺が部活を作ったとなったら……」


 相当怪しまれることになる、そう言おうとした俺を麗奈の高笑いが遮った。


「はっはっはっ!愚問だな」


 麗奈は俺の方を振り返る。人形の様に整った顔立ちが夕焼けに照らされている。


「秘密結社たるもの、秘密基地は必須だろう」

「え……。秘密? 学校公認なのに?」

「やかましい」


 押し切りやがった。







 三階の一番奥の部屋。そこが麗奈の言う秘密基地らしい。隣の部室には「漫画研究部」と書かれていた。

 麗奈は懐から古臭い型の鍵を取り出すとドアノブについた鍵に差し込んだ。ガチャリと小気味のいい音を立てて扉が開く。


 薄暗く殺風景な部室だった。ドア付近にあるスイッチをつけると数秒立って電灯が点滅した。部屋は明るくなったが、やはり、オンボロな部室なのは変わらない。

 窓は木製でネジ式。ガラスも少しの衝撃で割れそうなほど薄く、脆い。部屋の隅に鎮座する鉄製の本棚はメッキが剥げ錆びていた。部屋の中心に位置する机も汚れが目立つ。


「これでも、掃除はしたんだ。最初なんか埃まみれで大変だったんだぞ」


 麗奈が俺の心を呼んだかの様に言った。机の横にバックを置くと、椅子に座った。


「まあ、座ってくれ。少し話したいことがある」

「何でしょう」


 麗奈と向かい合う位置に座る。麗奈は足を組み背もたれにもたれかけながらこう語った。


「世界征服を達成するにはどうしたらいいと思う?」

「…………」


 不躾な質問に少し押し黙った後、俺は答えた。


「世界に存在するすべての国を屈服させる」

「そうだな。悪くないが、私は侵略者を目指しているのではない。屈服というより協力の方が正しい」


 意外に現実的な様だ。世界と戦うより、世界を味方にするという感じか。


「世界の国々を仲間にするにはどうしたらいい?」


 難しい質問だ。俺が口ごもると麗奈は深くため息をついた。


「いくつも方法はある。が、私が思うに現実的な方法は、私が日本国の総理大臣となり、日本国が各国と同盟を組むことだ。190ヶ国全てとな」

「現実的……なのか?」

「核爆弾をぶっ放し、他国を従属させるより現実的だろう」


 麗奈が足を組み替えた。


「では、私が内閣総理大臣となるにはどうしたらいい?」

「政党でも作って選挙で勝つ?」

「その通り。さらに言えば、国民の2人に1人が私を支持すれば良いのさ」


 麗奈は両手を机につき、身を乗り出した。


「私は高校在学中に日本征服を達成するのが目標だ! それ即ち、高校3年生の9月に行われる選挙において与党第1党となることが求められる!」

「あと3年もないのか……」

「案ずるな。私は有言実行の女だ」


 麗奈は立ち上がって熱弁する。頼むから座ってくれ。


「その為に、私はここに来たのだ。中枢都市に全てを吸い上げられ、人口も経済力も年々低下しているこの地にな」


 故郷を馬鹿にされた様だが、あながち間違いではない。俺が生まれ育った句流目(くるめ)市は年々人口を減らしている。かつては賑わっていたという商店街も鳴りを潜め、都心部との格差は開く一方だ。


「手始めに私はこの市を征服しよう。それも、一年以内にな」


 世界を手中に収める為、日本を。日本を手中に収める為に句流目市を。

 安直だが分かりやすい。


「私は一学期中に3つの事を達成する。1つ商店街の復興。まずは目に見える成果が必要だ」


 シャッター通りとなった地元の商店街を思い出す。あそこを再び活気付かせる事が出来たらさぞ大きな栄光だろう。


「2つ。会社の設立。ダークロストの隠れ蓑として、また、安定した経済基盤を手にする為だ」


 地元にベンチャー企業が出来たら、しかもそれが成功を収めたなら、句流目市の支配の追い風となることは間違いない。


「そして3つ。治安維持の強化! 暴力団、暴走族、あらゆる悪を一掃する!!」


 この市にはいくつもの暴力団事務所が存在する。さらに時代遅れの暴走族グループも存在しており治安はかなり悪いのだ。自警団でも奴らを排除すれば地域住民から信頼される事だろう。


「さらに、質問だ。その為に私達は何をすべきだ?」

「……人材?」

「その通り! 人材を集めるには何をする?」


 俺はしばし考え込んだあと、答えた。


「部室の清掃だな」


 麗奈は力強く頷いた。


「明日の放課後、デパートに行くぞ。必要な道具を揃える」


【ケーパン】

創が小学校4年生9月から小学校6年生11月まで開発に着手したロボット。1号から31号まで存在する。25号は夏休みの自由研究として提出された。文部科学大臣賞を受賞。

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