プロローグ 天才メカニック
子供の頃から機械いじりが好きだった。
小学4年生のクリスマス。俺の枕元に置いてあったラジコンカー。箱から取り出すや否や、すぐさま解体。お小遣いで買った高馬力のモーターを付け替えた。
その日の昼。時速50キロで爆走する俺の愛車は公園を飛び出し、停まっていた黒塗りの高級車に激突した。あの時の両親の真っ青な顔と、妹の無邪気な笑い声は生涯忘れまい。
小学6年生の秋。ついに自作のロボットが完成した。その名も【ケーパン25号】。
説明しよう!ケーパン25号は全長30センチの二足歩行ロボットである! さらに、操縦者の指示により右フックと左ストレートを撃つことができるのである!(左ストレートを撃つとバランスを崩し転倒するのはご愛嬌である!)
さらに、中学2年生の春。俺は【ジュゲム5号】を作り上げた。ジュゲム5号はメディアに取り上げられるほど素晴らしい出来栄えだった。
説明しよう! ジュゲム5号は自動戦闘用ロボットなのである。相手の位置を分析し、右フック、左ストレート、右アッパー、逆水平チョップのいずれかを繰り出す!まさに、鋼鉄の戦士である!(逆水平チョップはよく分からないけどはつどうしないのである!)
なぜ俺は機械いじりが好きなのか……。考えてみると子供の頃見ていたガンダムの影響だろう。鉄のロボット達が肉弾戦を繰り広げる様は、アニメの中とはいえ圧巻だった。
もっと言えば俺の家業も影響を与えているはずだろう。そう、俺は「扇風機から戦車まで」のキャッチコピーで有名な世界的企業【杉琴インダストリー】の御曹司なのだ!
ごめん、嘘ついたわ。俺の家業は杉琴インダストリーの下請けの下請けの下請け。掃除機の部品を作る小さな会社なのである。名前は【加治川工場】だ。知らんと思うけど。
まあ、どちらにせよ工場を営む我が家で育った俺が、機械いじりを趣味とする事は自然だったのかもしれない。
しかし、中学3年生の時、事件は起きた。俺の作り上げた戦闘用ロボット【アシュラ1号】にテレビが取材しに来た時のことだった。
リポーターはクソくだらない一発芸でブレイクしたお笑い芸人だった。馬鹿で無能で阿呆で間抜けであんぽんたんなお笑い芸人はアシュラ1号の頭部をポカリと叩いたのである。
聡明な諸君なら1号、と言う名前から察してくれると思うが、アシュラ1号はまだまだロボットとしては未完成なのである。試作機の次の段階なのだから。ちなみに、アポロ1号は予行演習で不備が起き、乗組員3人の命を奪っている!!
野生のトラに抱きつくバカはいないだろう。と、思っていた。この愚かでグズでおたんこなすなお笑い芸人は満面の笑みで抱きつくのだろう。
御察しの通り、アシュラ1号は暴走。頭の悪いお笑い芸人に見事に全治半年の怪我を負わせた。あのままでは殺しかねないので(それでも良かったが)俺は泣く泣く業務用スタンガンをアシュラ1号に向けたのである。
理解に苦しむ事だが、世間は俺をバッシングした。進学がほぼ確定していた工業高校には入校拒否され、徐々に集まっていたスポンサーは皆手のひら返しだ。
結局、俺は一人で黙々とロボット製作を続けることになった。いつの日か、俺のロボットたちが日の目をみることを期待しながら。
桜舞い散る入学式……とはいかなかった。気の早い低気圧が上空を覆い尽くす土砂降りの中の入学式。煩わしそうに傘を持った父兄が平然と並んでいる。
校長の話を聞き流しながら、俺はキョロキョロと目だけを動かして周囲を伺う。隣の席に座る女を横目で見た。
赤みがかった黒髪は頭の高いところで結ばれている。筋の通った鼻と大きな瞳は横顔からでも美人なことがわかった。
(へぇ……。クラスのヒロイン候補だな)
よっっっぽど性格に難がない限り、クラスの中心人物になる事は間違いあるまい。
その後、教室で各自で自己紹介の時間が設けられた。
「私の名前は杉琴麗奈だ。将来の夢は世界征服。高校生活での目標は日本征服。私の下で働きたい者は放課後教室に残れ。以上!」
残念。性格に難があったようだ。
加治川 創
好きなもの ロボット メカ
嫌いなもの 花粉 水泳
幼い頃から天才メカニックとして持て囃された。あらゆる機械に精通しているが、特にロボットに関心がある。