続いている
齧られた様に欠けた月に照らされ夜道を歩く。
青白く輝き積る雪を踏む度にざくざくと自分の足音が聞こえる。
「今日も本当に冷えるな……本当に五月かよ……」
途中で見つけた自販機に小銭を投入し温かい飲み物を手に取る。この自販機特有の『飲むにはいささか熱すぎやしないか? 』と感じる温度が実は好きだ。
「それにしても、昔はこんなの全部百円だったのにいつの間にか値上がりしたよなぁ。今じゃ百二十円が普通だよ」
寒さで思考が廻らない事や誰もいない夜道と言う事もあって独り言が多くなる。今日は二十二時を回ってから誰にも会っていない。
それもそうだろう。先の『齧られたように欠けた月』は比喩ではなく本当に、そう物理的に月が欠けているからだ。その所為で寒波によりもう5月だと言うのに雪も積り、心なしか人々の元気が数年前に比べて失われている気がする。まあ、自分もそうなんだが。
仕方がない、仕方がない……自分よりはるか年上の所謂立場ある大人は皆口をそろえてそう言っている。そしてそれを誰も責められはしなかった。
三年前に突如として発生した世界規模による同時多発テロ。
その影響で地図上から日本国内でいえば東京とその近隣都道府県の一部が、世界で言えばアメリカ、ロンドン、南アフリカ方面、モンゴル、オーストラリアの半分が地図から消え思い出したかのように海が顔を出した。
多くの人類や国を失ったが、きっとこれが最善だったのだろう。膨大な被害ではあるがそれで止まったと言う事はそれが一番いいエンディングだったんだろう。
そう言う映画の世界だったんだ。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
この同時多発テロをなんとか食い止めた英雄が世界各国にもいる。だが、そういう連中は事件が終わるや否や急に姿を消した。
なのにメディアはテロ終結、世界で協力して世界を復興させようと唱えるばかりで英雄達の話は一切なかった。
自分も最初は復興の為に齷齪と働いていたが、ある日リラックスする為に借りた映画のDVD を観て気が付いた。この映画、今の自分たちと似ているなぁと。
好奇心で映画の一部に出ていた電話番号にかけてみると、何故か東京と共に消えた筈の政治家と電話がつながった。
慌てて切って数日間は警察が来るんじゃないかと怯えていたがそんな事はなく、あとは純粋な好奇心で他に借りた映画に出てくる連絡先に片っ端から電話やメール等でコンタクトを取ってみる事にした。
意外な事に借りてきたすべてに繋がり、ある世界では壮大な親子喧嘩の末アメリカとブラジル国内数か所で大規模な爆発が起きた。ある世界では世界全土が凍り付き、今は中枢国のみライフラインが回復している。ある世界では大規模な謎の感染症が拡大し世界の半分が機能を停止していた。ある世界では神話に出てくるような化け物が出てきて海が汚染されていた。なんて並行宇宙ってやつだ。
解った事は共通して世界規模の事件が起き、それを解決した英雄達関係者がこぞって姿を消している事。あとここ最近感染症の世界の奴と連絡がつかなくなった。おそらく感染してしまったのだろう。
「ぶぇっくし!」
考え事をしている間に缶のおしるこもすっかりいい温度。
例え世界が並行宇宙規模で何度も滅びかけていても、自分は今寒さに耐えつつお汁粉を啜ってその時が来るまで……。
続く。
どうも夏花粉症に苦しむ人、牛蒡野時雨煮、です。とても久しぶりの投稿なので実質初投稿ですね。
今作品は金曜ロードショーや以前銀幕で見た作品(特に洋画)って、例えどれだけ街を壊滅させても主人公周辺が無事だった或は家族は救えた良かったね、めでたしめでたし……。で終わるの多いなぁと思って、そのめでたしのしわ寄せを背負わされる側を想像してかいています。
モブの田中君と言い主人公サイドじゃない側に注目するなぁ。
これまた次がいつになるか解りませんが、もしよろしければその時よろしくお願いします。