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第1話 公園

第1話 公園



宅急便の箱を開けると黒いトイプードルが出てきた。本物の犬じゃなくてロボット。


毛並みが本物そっくりでかわいい。父が市販されている犬のロボットを作り直して送ってくれたのだ。

 

去年の冬は護身用の催涙スプレーを送ってくれた。一人暮しの娘をだいぶ心配している。



父は高校の理科の先生でロボット製作が趣味。おもちゃのロボットを作るのが楽しいらしい。


しかし今回のは全く何と言うんだろう。先週、電話で聞いて驚いた。

「はるちゃん、ガードマン・ロボットを送るから」と言ったのだ。


かみついてスタンガン並みの高電圧をかけ、熊撃退用の催涙スプレーを鼻から出すと言う。何てことを考えるんだろう。



しかし最近、凶悪な事件が確かにあちこちで起きている。こういうことを考えつく親が現れてもしょうがないのかもしれない。


近くの街でもこの前、若い女性が人前で見知らぬ男に刺し殺された。


でも、私は大学3年生。もう少しここでがんばるしかない。



旅行中の友人の犬を預かっている。茶色と白のキャバリアで名前はコリン。


ロボット犬にどう反応するか心配したが、近づいてちょっとじゃれると、すぐに興味を示さなくなった。


ロボット犬は真っ黒なので、スミオと呼ぶことにする。



スミオは今、話題の『散歩するロボット犬』を作り直したもので、本物の犬並みに動く。


ケータイ型のリモコンでも操縦できるし、簡単なことなら口で言っても命令できる。


部屋の中で少し動かしてみたが、熊よけスプレーの練習はさすがに無理だ。一度、広いところで練習してみよう。


スミオは市販のロボット犬を無許可で改造してあるので、人前に出す時は注意しなければならない。


普通のお散歩ロボットに見せなければならない。絶対に危険なロボットと思わせてはいけない。



休日の早朝。コリンとスミオをリードにつないで、近くの公園に行く。


まだ人は少ない。ピンクと白のコスモスの花壇がきれいだ。


コリンはあちこち臭いをかぎながら元気に散歩する。スミオは私の横をちょこちょこ礼儀正しくまっすぐ歩く。


誰もいない芝生の広場でリードをはずし、2匹を自由に遊ばせる。


と言っても、コリンは走って行ったが、スミオはおとなしくすわって命令を待っている。


スミオに「走れ」と言って、コリンの後を追わせる。遠くに離れて声が届きにくくなると、リモコンのマイクを通して命令する。



リモコンのボタン操作も練習する。


マルチガイドボタンを使うと、走る方向が簡単に変えられる。スピード調整もボタンでできる。


液晶画面には走るるコリンの後ろ姿が映っている。スミオの目がとらえているのだ。


遠くに人影が見えたので、2匹を呼び戻してリードにつなぐ。



コリンはハッハッと言いながら舌を出している。スミオは何もなかったような顔。


ミニチュアダックスフントを連れた女性がニコニコ顔で近づいてくる。


「まあ、かわいい。2匹ともまだ若いんですか?」


茶色のダックスはコリンに興味しんしん。コリンもしっぽを振りながら近づいて行く。スミオはだまってすわっている。


「この子はロボット犬なんです」


「ええっ!わからなかった。ケイタはわかった?」

犬に聞いている。


微笑み返して、その場をそっと離れる。


コリンはケイタの歩いた跡が気になるらしく、熱心にかぎまわる。


「ワン」とスミオに吠えさせて、先へ行こうとするが無視される。


しょうがないのでリードをひっぱり、ねばるコリンをあきらめさせる。さっきのご婦人は笑いながら眺めている。



人通りの少ないところに向かい、スプレー練習ができそうな場所を探す。


スミオのリードをはずして距離をとり、さあ始めようとしたその時、自転車に乗った男が突然現れ、スミオを抱きかかえて走り去る。



自転車は木々をかわして逃げて行く。


猛ダッシュで後を追うが、あっという間に走り去る。


リモコンの画面には、自転車のハンドルが映っている。右腕で抱かれているようだ。


マルチガイドボタンで左を向かせ、「スプレー、スタート」と言ったとたん、映像が激しく乱れ、突然、静止画像になる。


上半分が地面。さかさま画面だ。


スプレーを止め、マルチガイドボタンの中心を何回も押す。ジャンプさせる時に使うボタン。


画面が揺れて下に地面がきた…が、誰もいない。スミオの向きを変える。


しゃがんだ男が見えた。頭を抱えている。



コリンと自転車が消えた方向に向かう。どの辺にいるんだろう。


と、その時急にひらめいて、リモコンに向かって「ワン!」と言う。


遠くの方で犬の吠える声がする。走る。



4、50歳ぐらいの男がすわり込んで苦しそうに咳き込んでいた。


倒れた自転車のそばにいるスミオがたくましく見える。



辺りには、ほかに誰もいない。


コリンは離れたところで待っている。


スミオに駆け寄り、抱きかかえる。顔の周りは刺激臭がまだ少しする。


スプレーを使ったので逃げなきゃならない。変なロボット犬だと騒がれる前に。



男の自転車はまだ使えそうだ。急いで前籠にスミオを入れ、走り出す。


コリンは自転車から距離をとりたがる。あちこち走って遠くに行く。



公園の入り口近くの茂みに自転車を隠し、歩道を歩く。


いつも通りに人が歩いているのを見て、ほっとする。



スミオは壊れてないようだ。私の横をちょこちょこ元気に歩いている。


コリンは相変わらずスミオに近づかない。先へ先へと急いだり、逆方向に走ったり…。


この状況、一体どんな風に見えるんだろう?

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