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『フルーツバスケット』

作者: everyday



好きなひとが 嬉しそうに話している。

映画のこと、服のこと、音楽のこと、テレビのこと、失敗のこと

その何れもに赤い温もりや紫色をした切なさが詰まっている。

一つ一つが耳から心臓を通っていくのがわかる。

早く通り過ぎてくれればいいのに中々に留まる。

残り少ないままだったアルコールを飲み干す。


この人の心は、きっと現在ここにはなく

過去にて摩擦熱を起こしながら巡っているのだろう。

その塊の横に居る私の「現在」とは一体何なんだろうか。


「ねぇ、聞いてる?」

幾千光年振りのボールだったので

取り損ねて返球は活気を失った。

彼は現在という星にようやく帰ってきたみたいだ。

「聞いてるよ、今度一緒に動物園行くんでしょ。」

「そう、何着て行ったら良いと思う?」

知らない。本当にどうでもいい、知らない。

「その人、古着とか好きだからなぁ。そういう系でいこうか

でも、気合い入れすぎて変な格好になったら嫌だしなあ」

極めて変質的になればいい。最悪な一日になれ。

檻の向こうのゴリラにも笑われろ。ライオンはお前らなんか二度と来るなと叫べ。


だんだんだんと、また彼の現在は掠れていき

今度は未来の方へ疾走、加速。熱を帯びる。

それと同時に置き去りにされる私の恋と現在。

進むアルコール。









「あなたが好きだ」

自分の気持ちを素直に伝えられた人同士は結ばれて

そうでない人たちは一人立ち尽くしたままだ。

素直な人が悪いのでない。素直であることは紛れも無く良いことだ。

臆病なことが必ずしも悪くはない。臆病とは知性だ。

誰が正解で 誰が不正解でもなく。不誠実が不幸とは限らない。


二人が楽しげに座る

その椅子に私は座れない。

願わくば座りたい。あなたと笑いたい、

一つの椅子の上であなたと抱き合いたい。



「唐揚げ(遠慮のカタマリ)食べていい?」

あ、現在に帰ってきたのね、おかえり。

「いいよ。」

「動物園の日ね?お弁当作ってくれるらしくて唐揚げ入れてって

お願いしちゃった」

不快に上擦った声が聞こえる。

灯台は足元の港を照らさないのかと悟る。

今テーブルを共にする光源は明らかに遠くに光を飛ばし

それにより私は影になる。影にも意思がある。

気づかない彼は馬鹿だ。気づかせることのできず様々思考する私は間抜けだ。


「………やっぱり唐揚げ食べる。」


好物を奪う小さな反乱は成功。



私はあなたが好きだ。 椅子に深く座り直す。


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