アンティルイットウィルビーザッツ
今日私は好きな人に告白をする!
その好きな人は同学年で、小さい頃から隣の家同士で育った。いわゆる幼馴染というやつだ。
彼への気持ちに気付いたのは早かった。
小学5年生ぐらいからであろうか。彼のことばかり目で追うようになった。
彼が話しかけると緊張してしまう。けれど嬉しい。
彼が他の女の子に話しかけると妬ましい。そんな自分が情けない。
気づけば彼を愛し、彼しか愛せない。
彼は私を見ると近づいてきてからかうように話しかける。
でもそれは本当の目的ではなくて、私の感情や体調を気遣うように話をかけてくれている。
そんな事がくみ取れるようになり、もうたまらなく好きだ。
時に、元気で私に明るく、はつらつと喋ってくれる。
時に、気だるそうに、私などどうでもいいように喋る。
その代わる代わるの彼の表情1つ1つが愛おしい。
できるなら、叶うなら彼の指先を絡めとりたい。
できるなら、叶うなら彼の影に私の影を擦りよせたい。
できるなら、叶うなら彼の喋る単語を全て聞きたい。聴きたい。
できるなら、叶うなら彼の知る知識を、私の持てる知識全てと交換し合いたい。
できるなら。
叶うなら。ーーーー
そんな事ばかりを思って。胸が苦しくて。痛くて。冷たくて。あったかくて。破れそうで。気持ちよくて。
硬くなって。柔らかくなる。
彼を思うのは辛い。苦しい。なのに……
彼を思わないのはもっと辛い。思いたい。想いたい。
重いたい。念いたい。
ーー告白しよう。ーー
その結果、2人の仲がどんなものになろうと受け入れよう。
そう。失敗したら元のように仲のいい幼馴染ではいられないのだろうな。
2人の距離はどんどんと離れ、距離は無かったようになるのだろう。
今までの思い出は廃屋のようなものになり、形をなさなくなるのだろう。
失敗してしまったら……
けど!成功したらどうだろうか!
デートをするのか!2人でカフェに行ってみたりするのか!
彼の選んだ映画を観たりするのか……そこで私はホラー物なんかを観て、怖がって彼の腕にしがみついたりするのだろうか。
はたまた彼が怖がった私に気付いて手をそっと重ねてくれるのだろうか。
いや、彼の事だ。何も言わずに私の目をそっと隠してくれるのだろうな……
映画を観た後はふざけ合いながらも買い物なんかをして、2人の距離を詰めていく。
そして2年経ったらお互い受験生。
どの大学に行くのか。2人で話したりして。結局2人は同じところに行きたくて。
2人で同じ勉強をして。家で電話し合いながら励まし合う、、、
あぁ……考えるだけで何と心が弾むことか!
たとえ2人の仲が裂けようと。たとえ2人の距離がゼロになろうと。
素晴らしい未来になる可能性が少しでもあるのだ。
私はそれに手を伸ばさずにはいられない!
そう思うと私の身体はすぐに動いていた。
彼の元へと急ぎ足で向かう。
時間はPM1:27真夜中だ。
迷惑になるな。ひょっとしたら怒られるかな。
でもちょっと喜ばれるかも……
色々な感情を渦めかせ、彼の家に向かった。
期待のこもる未来へ向けて……
そう…この前までの私は確かこんな風だった。
結局私は彼に気持ちを伝える事はできなかった。
緊張してとか、怖気付いてとかではない。
物理的に告白をする事を断念させられた。
ーーあの夜。
彼に私は想いを伝えようと、彼の家の前まで行く事はできた。
ーーけど。
彼を呼び出そうと非常識にも真夜中にインターホンを鳴らした。
するとすぐに彼の母親が出てきた。そして何も言わず泣き出した。
後から聞けば彼は麻薬の中毒者だったらしい。
警察に道を聞かれただけのに逃げて、あやしいと思った警察に追われた。
彼は何を見たのか崖の先へ逃げ崖から墜落してそのまま死んだらしい。
彼の部屋からは数種類の薬物が発見されたらしい。
他にも注射器や、炙るために使われたらしい網なども残っていた。
なぜ気付かなかったのだろう。
私が気づいて止めていれば。
ーーいや……
本当は気づいていたのかもしれない。
彼が気だるそうにしている日、心配して家に行ってみれば驚くほど元気な彼がいたり。
いつも学校で胃薬と言って飲み物に溶かして飲んでいた粉薬があった。
普通気づくはずだ。
私も気づいていたのだけれど……
好きな人が薬をやっているなんて気付きたくもなく、思いたくもなかった。
彼と共に歩いた道路。この道路は明日から私1人で歩くのだ。
この交差点。私が転んで擦りむいてしまった膝を彼は優しく手当てしてくれた。たとえ次に転んで骨折をしても彼は手当てしてくれない。
あの場所、あの時、あの瞬間。
彼は確かにいた。
けれど今、これから彼はいない。
私の生きる意味とは。
けれど今これ程までに悲しいこの感情さえも、彼のことさえもいずれは傷口は塞がるように忘れていってしまうのだろう。
それだけが怖い。
私にとってあれ程までに核として存在していた彼があっさりと何もなかったように消えていく。
ーーあ、そういえば彼が辛そうにしてる時、薬でも飲めばと勧めたの私だったけ?