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僕、魔導技士ですから。  作者: 芳蓮蔵
エピソード2
9/19

旅の始まり③


 モンスターへと足を進めるスオウ。


「お、おい――」と声をかける傭兵剣士に、スオウを見送りながらレニンが言った。



「大丈夫ですよ、任せておいて。うちの雑用係は無敵ですから。――それよりじっとしていてください。貴方がたの怪我を治します」



 脇腹から血を流している魔法使いにレニンが手を翳すと、彼女の手の平の前に緑色の魔法陣が出現した。


 魔法陣がぼんやりと光ると、その怪我が徐々に癒やされていく。



「君も魔法使いなのか――スゴいな、その若さで治癒魔法を使えるなんて……」



「独学なのであまり期待しないでくださいね」と苦笑いするレニンだったが、その効果は抜群であった。



 一方、闖入者(ちんにゅうしゃ)に警戒するオークとケルピーの威嚇(いかく)もなんのその、スオウは迷いなくモンスターの前へと突き進む。


 ケルピーは魔力のこもった高圧の水弾を放つが(ドシュ!)、しかしそれがスオウに与えるダメージはゼロ。



「水遊びにゃまだ早えよ」とスオウ。



 彼は水弾の連射(ドドシュドシュ)の中をゆったりと歩いてゆくが、ケルピーが危険を察知して離れようとした刹那――。


「おっと」と瞬間移動のような踏み込みで取り抑えた。


 暴れながらケルピーは大きな水球を作り出し、それをスオウの頭部にすっぽりと纏わりつかせる。


 普通の人間であれば溺れ苦しむはずのその攻撃にも構わず、スオウは水のヘルメットを付けられたままケルピーを高々と持ち上げた。



とっとと帰んな(ボッゴボガボゴボ)



 水中で喋るスオウ。そして彼が砲丸投げの要領で手を突き出すと、ケルピーはカタパルトで射出されたかのように一直線に遠くの空へと消えていった。


 ケルピーが退場するとスオウに纏わりついた水球が流れ落ちる(ザバァァァン…)


 水も滴るなんとやら、濡れた銀髪をかき上げたスオウが今度はオークに顔を向けて鋭い目つきで睨む。


 するとオークはさっきまでの威勢を完全に失って、瞳に恐怖の色を浮かべて後ずさった。



「おいクソゴリラ、テメェもいっぺん飛んでみるか? 着地の保障はしねえがな」



 その言葉を理解したのか、あるいは本能的に危険を感じ取ったのか、オークは粗末な鎧を鳴らして(ガチャガチャ)脱兎の如く逃げ出した。




 ***




 レニンとスオウは宿屋の主人や村人たちに、感謝や賞賛の言葉を散々浴びせられた後、宿代をまけるどころか傭兵達が使っていた最も上等な部屋をタダで充てがわれた。


 剣士とその相棒の魔法使いは、傭兵としての面目をすっかり潰される形になったが、スオウの圧倒的な強さに感服し、またレニンの治癒魔法のおかげで命を救われたため、喜んで部屋を明け渡した。



 ――澄んだ月夜。



 レニンとスオウは豪華な夕飯を食べ終え、久々のまともな寝床に満足そうに横になった。


 二段ベッドの上で小さな魔法の光を灯しながら、スオウから借りた本を読むレニン。



「ねえ、スオウ」



「――あん? なんだ?」



 その下で目を瞑ったまま寝転がるスオウ。



「モンスターたちは、なぜ人を襲うのでしょうか?」



 本を開いたまま腹の上に置くと、レニンは天井を見上げながら、昼間のモンスターのことを思い出した。



(もしスオウがいなかったら、あのモンスターたちにこの村の人たちは殺されていたかもしれない……)



 スオウは「そうだな――」と、静かに目を開ける。



「モンスターの行動原理ってのは基本的に普通の動物と大差ねえ。人を襲うのは喰うためか、縄張りを守るためか……昔はそのどっちかだったな。ただカザルウォードの支配を受けていた奴は違った」



「カザルウォード?」



「俺が倒した魔王の名前だ。カザルウォードはモンスターを操って人を襲わせていた。まあだから倒したんだが――今となっちゃそれが正しかったとは言い切れねえな」



「なんでですか?」



「今思えばアイツは……人間もモンスターも引っくるめて、バランスを取ってた――そんな気がする」



「バランスって? 何のバランスですか?」



「生態系だ。食物連鎖とかあんだろ。カザルウォードはあらゆる種族がそれぞれ適切に繁栄できるよう、数が増え過ぎた種族を減らしてたんだ、多分な。人間の増加が速過ぎるせいでほとんど人間狩りみてえになってたが、アイツはモンスターも殺してた。――つまり魔王ってのは、この星の管理者だったのかもしれねえ」



「管理者――でもそれは、星霊イェル様がなされるべきことなのでは?」



「創星の精霊イェル・リマ・エニュカか……。会ったことはねえが、そんな奴が本当にいるなら、この現状にもう少し対処してくれても良さそうなモンだがな」



 スオウは小馬鹿にするように笑う。



「――なんにせよ、カザルウォードを倒してからモンスターは凶暴化した。ひょっとしたらアイツは、爆発的な人口増加を見越して、自分がくたばる前に全てのモンスターに人間への攻撃意識を植え付けたのかもしれねえ」



「だからモンスターは、人間ばかりを無闇に襲うんですか?」



「確証は無えがな――。だがオークはともかく、精霊の亜種であるケルピーまでがあんなに攻撃的になってんのは異常だ。進化の速さもな」



「モンスターの進化……」



 レニンはしばらくの間、黙って考え込む。

 その彼女の回想には、昼間のオーク。


 あれは粗末ながらも鎧らしき物を着ていた。平均的なサイズでも2メートルを上回るオークには、当然人間の鎧など合うはずもない。つまり自分たちで作ったのだ。言語を解さず、獣程度の知能しかなかったはずの彼らが。


 宿屋の主人の驚きようから考えて、それがここ数年の発達ならば、それは恐るべき進化の速さといえた。


 進化の行き着く先を想像して思わず身震いをしたレニンは、独り言のように再び口を開いた。



「もしこのままモンスターたちがどんどん強くなって、数も増えていったら、僕ら人間はどうなるんでしょう……?」



 するとスオウは「そりゃまあ絶滅するだろうな」と、あっさり言ってのけた。



「そんな……」



 レニンの頭の中にはこの村の人々や、馴染みの深いタルトスの街の住人たち、そして祖父トルドの顔が浮かんだ。


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