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僕、魔導技士ですから。  作者: 芳蓮蔵
エピソード2
10/19

旅の始まり④


「なんとかならないんですか? スオウは無敵なんでしょう?」



「だからそりゃ前にも言ったろ。俺がどれだけ強かろうが意味は無えんだよ。それにもし俺が護ってやったとして、俺がいなくなったらどーすんだよ? 結局殺られちまうだろうが」



「それは……」と言葉に詰まるレニン。



「俺がモンスターを倒せば、奴らはそれに負けじと進化する。逆に人間は護られてりゃ、その間にどんどん平和ボケしていきやがる。だから人間は自分たちの力でなんとかするしかねえんだよ。……お前も自分で『世界を救う』とかぬかしてたじゃねえか。あの大口はどこいったんだ?」



「言いましたけど……やっぱり僕たちはスオウのように強くはなれないです」



「……じゃあ諦めんのか?」



「そんなつもりはありません!」とキッパリ言いいながら上体を起こすと、レニンの頭が天井にぶつかった。



痛ったぁ(スリスリ)……。――でも人間はモンスターのように進化もできませんし、どうすればいいんでしょうか?」



「知るか。そこを頭使ってなんとかするのが人間だろ。足りない部分は持ってるモンの積み重ねで補う。――少なくとも俺がいた世界じゃ、人間はそうやって進歩していったんだ」



「進歩……頭を使って――?」



 自分の頭をさすりながら、レニンは枕元に重ねてある本の中から、スオウにしか読めぬ文字で書いてある本――『科学の変遷と兵器の歴史』を取り出した。



「スオウ。ゲンダイヘーキっていうのは、僕たちの使う武器よりも強いんですよね?」



 レニンは2段ベッドの上から身を乗り出して、下のスオウを逆さまに覗き込んだ。



「あん? 現代兵器? ああ例の本のやつか――。それなら比べ物になんねえよ。一発で街ごと吹き飛ばすようなモンまであるからな」



「そんなにッ?! ――っ!?」



 驚いた拍子に手を滑らせベッドから「うわぁ!」と落っこちたレニンを、スオウは片手で優しく(フンワリ)受け止めた。



「あ、ありがとうございます……。――それは誰でも使えるものなんですか?」



「まあミサイルや戦闘機ってなると話は別だが、銃ぐらいなら誰でも扱える」



 スオウがそう言うと、レニンはいそいそと本をめくってライフルなどが載っているページを指差して見せた。



「銃ってこれですよね? これもそんなに威力があるんですか?」



「まあ種類にもよるが、弓矢なんかとは比較にならねえな」



「そうですか――」と言って、レニンは改めてそのページをまじまじと見つめる。



 その様子から察して、スオウがたしなめるように言った。



「言っとくがお前、そりゃそんな簡単に作れるもんじゃねえぞ? この世界は魔法に頼りきりで、科学の下地が無さ過ぎるからな」




「カガク?」



「数学、物理、化学から始まって、熱力学、材料学、構造学、設計工学とか、いろいろだよ。そういう下地があるから物が作れるんだ。それに物を作る技術もな」



「技術と下地――ですか。ドワーフの技術は優れてると思いますけど?」



「まあたしかにドワーフは少し工学的ではあるか。技術だけなら現代の職人にも負けねえような奴もいるしな。――そういやお前もドワーフの血が入ってるんだったな?」



「はい。トルドおじいちゃんはドワーフの里でも随一の腕前だったそうです」



「あのジジイがかよ……」と、スオウは部屋の隅に立て掛けてある黒い鞘の剣を見る。それはトルドから餞別(せんべつ)にと受け取ったオリハルコンの剣である。



(つってもアレを作れるんだから、並の職人じゃねえか)



「僕も小さい頃からおじいちゃんの仕事の手伝いをしてましたから、腕には結構自信があるんですよ」と、自慢げに胸を張るレニン。



「ガキの自由工作じゃねえんだ。仮にお前に相応の技術があったところで、下地になる知識がなきゃどうしようもねえだろ」



 そう突っぱねたスオウだったが、しかしレニンの反応は彼の予想とは逆であった。


 彼女は「あ……」と何かに気づいたように呟いてからニヤリと微笑んだ。



「でしたら、魔法を下地にしてみてはどうでしょう!」



「は――?」



「足りない部分は持ってるもので補う、さっきスオウもそう言ってたじゃないですか」



「たしかに言ったが――どうやって使うんだよ。魔法ありきの武器なら、結局魔法使いしか扱えねえじゃねえか。それじゃ意味ねえだろ」



「それなら僕に良い考えがあります」



 自信ありげなレニンの視線は、部屋の隅に置いてある二人の荷物に注がれていた。



 その視線をベッドに座ったままスオウが追うと、レニンは麻袋を開いて中を物色する(ガサゴソ…)

 そして取り出したのは大きめの革の袋。



「じゃーん! これですよ、これ」



 見せつけるように袋を掲げる。



「あ? そりゃ賢――」と言いかけて、スオウは慌てて声を潜めて言い直す。



「――賢者の石じゃねえか」



「そうですよ。これこそ究極の魔法の結晶です。これを使えばいいんです!」



「使うったって、どう使うんだよ? そいつは魔法に反応するんだぞ?」



 するとレニンは袋から一粒取り出した。

 石は部屋の灯りを受けて虹色に光る。



「たしかにこの石は魔力を吸収しますが、取り込んだ魔力を放つのには、なにも魔法でなくてもいいんです」



「そりゃ初耳だな」と感心するスオウ。



「まあ見ていてください。えっと――」



 レニンは周りを見回してから、立て掛けてあるスオウの剣を手に取った。



「これでいいかな」



 そして賢者の石を床に置くと、手の平から小さな魔法陣を出現させ、そこから指先ほどの炎を石に向かって飛ばした。


 ――炎は賢者の石に近づいた瞬間に、吸い込まれるようにして消えた。



「今この石に炎の魔法を取り込ませました。これに術者である僕が再び魔法を当てれば、この石から今の魔法が発動します」



「ああ。そりゃ知ってるよ」



「ですが――」とレニンは掴んだ剣の鞘――それに施された竜の装飾の部分で、思い切り石を叩く。

 すると石から小さな炎が上がった(ボフンッ!)



「おっ?」と小さく驚くスオウ。



「実はその発動は特定の金属――金がいちばん良いみたいですが、その金属で衝撃を与えるだけでも可能なんです」



「ほーぅ、なるほどな。……ってゆーかお前、よくそんなの知ってるな」



「昔家の蔵で遊んでるときに偶然見つけただけですよ。……とにかくこの原理を活かせば、魔力を持たない人でも魔法が使えるんです! どうですか?」



 レニンは金色の前髪の隙間から、大きなと翡翠(ひすい)の瞳をキラキラと輝かせながら言った。


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