第七夜 慣れて来た学校生活
ジェン、アンネ、ソルは、仲間として学校生活を楽しく送っていたが、悪の手が次々と襲い掛かる⁈
三人は、悪の手を鎮める為に騎士としての志を持って、挑む!
リティが学校を訪れてからその日の放課後……ジェン、アンネ、ソルは一〇三号室で話をしていた。ソルは、二人の部屋に入って三度目だが、まだ少し女子の部屋になれない様子だ。
「それで、ジェン。何を話すの?」
「リティ王女からの話なんですけど…彼女の身内に助けて欲しい人物がいるそうです。」
「リティ王女が?」
アンネとソルは首を傾げると、ジェンは説明する。
「はい。彼女のお兄様でして…。」
「ナイト王子か?」
ソルは、王子の名前を挙げる。ジェンは頷いて、こう言う。
「それで、彼は何らかの事情があると。」
「それで、何とかしたいと言う思いでリティ王女は、ジェンに協力を依頼したのね。」
アンネの言う通りである。ジェンは、アンネとソルに詳細を話して、外部には漏らさぬ様にお願いした。
「なるほどね。ナイト王子の様子がおかしい…か。嫌な予感がするよ…。」
「俺もだ。しかし、王子が大変じゃ…この先、どうなるんだよ?」
「でも、会える方法は一つだけあります。……年末大会です。騎士学校と対戦し、どちらかの学校の一チームのみ、彼と一戦を交える事ができるんです。リティ王女が言うには、今年が最大のチャンスであると。」
「分かったが…。大会で話しながらの決着は、難しくないか?」
ソルの言う事も一理ある。万が一、失敗した場合…只ではすまされないだろう。勿論、ジェンも分かっていた。
「リティ王女だけでなく、母親であるナシィー女王様も彼の様子がおかしいと申していました。」
「女王様まで…。何で?」
アンネがそう言うと、ジェンは腕を組んでこう話す。
「彼から悪の気配を感じていると…。それも、ただの悪ではないと言っています。私たちは、善と悪の心を持つのが、当たり前です。心の悪とかでは、無い何かがあると…。」
「マジか…。アンネの言う通り、嫌な予感だな。」
ソルは言う。アンネも彼の言葉に頷く。ジェンは、考えて述べた。
「年末大会に向けて、鍛錬を重ねるしかありませんね。……ところで、アンネ。自警団のアジトへ潜入した調査はどうでした?」
「ちょっと、待ってて。……これなんだけど。」
アンネが取り出したのは、彼女自身で執筆したメモであった。ジェンの記憶の手がかりが無いかと、休日に自警団のアジトへ潜入し、調査していたのだ。透明魔法(以後、透明)を使ったおかげで見つからずに済んだ。
「何だ、これ?」
「自警団が話していた一部に不思議な絵を見つけたから、帰って描いてみたわ。知性のある異獣に刻まれていたみたい。」
「知性のある異獣、ですか…。厄介な敵が出て来たようですね。」
「なぁ、ジェン。お前の左鎖骨にあるやつと同じじゃ、ないよな?」
ソルがそう言う様に、ジェンと資料に書かれている物が似ている。アンネもそう思っていた。ジェンの聖痕の事は二人は知っているが、どうして異獣に刻まれているのと同じなのか疑問に思う。
「そうですね。最初は驚きました。ですが、どうしてこうなったのか見当もつきません。……でも、こうしている場合ではありません。今、目の前にある課題をクリアするのみです。現在、それしか私たちにはできませんから。」
「そうね。でも、いつか参考になる時が来るわ。とっておいた方が良いよね?」
「あぁ。絶対に必要な時が来るかもな。」
「ソルがそこまで言うなら、とっておくね。」
三人は話題を変えて、中間試験に向けて話を始める。
「試験って、ただ魔法を的に当てるとかじゃないのか?」
ソルは余裕ぶっているが、アンネは彼の背中を「ビシっ」と叩く。
「あんたね…。技術と機動、臨機応変な対応が問われているのよ。」
「そうですね。アンネの言った通り、三つに一つは難題を出すでしょうね。」
「そう、だったな。いてぇ……。まぁ、俺たちには相当難しいのを出してくるだろうな。」
「確かに。言われてみれば、そうね。」
「努力を積んで行けば、必ず力になると言いますし、練習を少しでもコツコツと頑張りましょう。」
数時間後、夕食になると学校の鐘が鳴る。三人は食堂へ向かい、食べ始める。
「うん。やっぱ、旨いな‼」
「ソルは、スタミナ食をよく食べるわね。」
「勿論さ。そうしないと、体が元気にならないんだ。」
「元気なのは良い事ですが、早食いは禁物ですよ。気を付けてください。」
ジェンがそう言うと、早速…ソルは早食いで咽てしまう。アンネは、ジェンにこう質問する。
「そう言えば…、年末大会は私たちの学校と騎士学校のそれぞれの学年の代表が競い合うんだよね?」
「はい。魔導騎士は短剣と魔導書、杖騎士は杖で個人にあった武器を応用して戦う。騎士学校は、自分で鎧を製作したり、厳しい訓練を受けて精神をも鍛えて戦うと言います。」
ジェンはそう説明した。彼女の言う通り、学校が異なれば、学ぶ内容も異なる。魔導・杖騎士学校は、主に魔法を身に付けて武術を取得する。騎士学校は、武術や体力づくりを終えた後、魔法を学ぶ。
どちらも実績は素晴らしいが、最近は騎士学校が年末大会で連覇を飾っている。
一〇三号室。ジェンは風呂終えて、パジャマ姿で教科書を読んでいた。アンネは、髪を熱魔法で乾かし終えて、洗面所から出て来た。
「アンネ、少しお話しても良いですか?」
「?どうしたの?」
「その、アンネが時々食堂で窓の外をよく見ている様ですが…。すみません。理由が無いのに、こんな質問をしてしまって。」
ジェンはそう言うが、アンネは慌てて言う。
「いや、ジェンは悪くないよ。ちゃんと理由はあるもの。……実は、六年前から行方が分からない子がいて。私たちと同い年で男子なの。」
「なるほど…。それで心配をしていたのですね。無理もありません。…アンネ、その人の特徴とかありますか?」
「えっと…吸血鬼の一族って言っていたわ。あ、でも、これはあまり口外しない方が良いみたいで。」
「吸血鬼……思い出しました!八年前から行方知らずと言われる一族です。……アンネ、その人の事を話してくれませんか?」
アンネはジェンの願いを聞き入れ、吸血鬼である少年について話を始めた。
春のある日、六歳のアンネは母・ヘンリと共に買い物に出かけていたその帰りの事…。アンネは、狭い街路で一人の少年が倒れているのを見つけた。
「お母さん。倒れている子がいる!」
アンネはヘンリにそう伝えると、一緒に少年の元へ行く。倒れていた少年は、酷いけがを負っていた。ヘンリは急いで少年を抱え、アンネは荷物をできる限りもって、家へと向かった。
アンネの父・ロッソニは少年の体についた汚れを落とし、ヘンリは怪我の手当てをした。アンネは様子を見るなど、看病に努めた。少年は、金色でちょっと癖のある髪の毛をしていた。
数分後、アンネが様子を見ていると、治療を受けた少年が紅玉の様な美しい色の瞳をゆっくりと開く。
「…!気が付いた?」
「‼…誰だ‼」
少年は上体を勢いよく起こすが、傷が少し痛む様で少し苦しい様子だ。
「待って。まだ、治っていないし。いきなり動いちゃ駄目!」
アンネは少年にそう言うも、敵意むき出しの少年は鋭い眼差しで彼女を見る。
「お前、何もんなんだ?ここはどこだ?」
すると、丁度そこへアンネの母・ヘンリが来た。少年は警戒をする。
「お目覚めになりましたか?大丈夫ですよ。ここは安全です。」
「も、もしや、あんたは⁈」
少年はヘンリに「ある事」を尋ねた。アンネは当初、よく分からなかったそうだ。ヘンリは、彼に助けた張本人はアンネである事を紹介した。
「よ、よろしくね。名前は何て言うの?」
「僕は、シグアーガ・ヴァンア。…シーガと呼んでください。」
「シーガ君、よろしくね。」
「じゃぁ、私は夕食の支度をするわね。アンネ、シーガ君の事お願いね。」
「はーい!」
ヘンリは、アンネの部屋を出て下の階へと向かった。アンネは、ごく普通の一軒家で暮らしている。
シーガは、アンネにこう話して来た。
「ねぇ、君はいくつなの?僕は、七歳だけど。」
「あ!同じだ!」
「良かった。アンネちゃんと同じで。」
ちゃん付けで呼ばれた彼女は、少々驚いたが、彼をみてふと疑問が浮かんだ。アンネは、緊張をしつつも話をする。
「シーガ君って、私よりも肌が白いね。羨ましいなぁ。」
すると、七歳とは思えない程の大人な目付きになり彼はアンネを見る。
「あれ、知らないの?僕は…これだよ。」
シーガは口を薄く開き、とても鋭い犬歯をアンネに見せる。まるで、噛み付かれたら痛そうなものである。
「え?」
「これを見ても分かんないか…。僕は、吸血鬼だよ。」
アンネは、友人から聞いたことがあった。吸血鬼は、人間の血を喰らって生きる者。男性は女性、女性は男性の血を喰らう。そして、特徴なのは日焼けもしない真っ白な肌に、犬歯がとても鋭い事と紅玉の様な美しい瞳である。
シーガは怖がるアンネを見て、大人な目付きから七歳の無邪気な目線になる。
「大丈夫だよ。噛み付いたりしないって。むしろ、怖がらないで欲しいかな。僕の家族、全員死んじゃってさ。」
「そう、なの?」
「うん。吸血鬼の住んでいた里は、誰かによって無くなってしまったんだ。吸血鬼の一族は何もしていないのに…。僕は、必死に逃げて来たけど…この首の痣は残ったまま…。」
酷い‼シーガ君たちが何もしていないのに。…あの痣、何とかならないかな?
と思いながら、ある事を思いついたアンネは、机にあるアクセサリーケースの中から、紅玉の宝石がついた首飾り(チョーカー)を取り出して彼に言う。
「ねぇ、これはどうかな?痣、見えていたら大変かなって思って。」
「あ、良いね。それ!……でも、いいのアンネちゃんのを借りて?」
「良いよ。と言うより、貰ってよ!友達の証!」
シーガは、紅玉のチョーカーを身に付けた。彼はアンネを初め、ヘンリとロッソニにも心を開き、家族の様に生活を送っていた。
しかし、その年の夏にアンネは「事件」に遭遇した。同時にシーガは行方知らずとなり、以来七年…再会がないまま時が過ぎた。
「そうなんですね。六年前、確か謎の集団によって里が滅んだと聞きました。良かったです…、生き残りがいて…。」
ジェンの言葉にアンネは「いつか、また会いたいと思っている」と言い、窓から満月の夜空を眺めた。
その同時刻。月明かりが王都を照らす中、魔導・杖騎士学校の屋根上に癖っ毛の金髪に紅玉色の瞳を持った少年がいた。ベルトの後ろには、二本の手軽な鎌が装備されていた。
「やっと、見つけたよ。…今まで、寂しくさせてごめんね。でも、君を守ってあげる。この俺がね。」