第七十三夜 平和の幕開けと決意
ハンヴィルは、跡形もなく消滅した。ナイトたちは、それを見届けたが、それよりも辛い思いを背負っていた。
「……戦いは終わった。ハンヴィルも、この世から消滅した事で脅かされる事は無い。ここまで、皆、よく頑張ってくれた。感謝しても、足りないくらいだ。…ジェン。君が、この世界を、救ってくれた。俺たちの為に、自分の命を、犠牲に…して。」
と、ナイトはそう言うも、瞳には涙が溜まっていた。
「ひくっ!ひくっ!……ジェンさん。」
と、涙をこぼすリティ。ナイトは彼女を宥めて「ジェンは、必ず戻って来る。ラーフ様が言っていた、意志を強く持てば、呪縛から解放されると。絶対に、俺は探し出してやるからな‼」と言った。
リティは兄の言葉を聴き、絶対に帰って来る、ナイトと一緒に探す…と。
「私も、リティと同じ気持ちだ。どうか、我が友の為、友の国の民の為にも、ご帰還なさることを祈る。」
とツキノは強い信念をもって言った。
「……ジェン。お願い、皆の為にも、子供の為にも、早く戻ってきて。」
と、アンネは空を見上げて言う。
「ジェンちゃん。戻ってきて、また楽しい日を過ごしたい。だから、早く……。」
と、拳を握り締めて涙をそっと零すシーガ。
「姉さん。どうして……。姉さんがいない毎日だなんて……正直、嫌だ。」
と、泣くのに堪えているクラッドはそう言う。
「ジェン様……。どうか、民の為にもお早く……。私たちだけでも、貴女が帰ってくるまでの平穏を、お守りします。」
「俺も、貴女の帰りを待っています。リアフさんと、皆さんと一緒に。」
と、リアフとジャドは言う。
「ジェンちゃん。早く帰って来て欲しいよ…。」
「僕も、ニックと同じだよ。あんな邪竜に負けたりしない。僕も、立派になって素晴らしい魔鏡師になるよ。」
と、男涙を流すニックと彼を宥めるフウカは言う。
「うぅっ…。な、なんで、逝ってしまうの‼絶対に、帰って来てよね!」
「俺は信じている。お前が帰って来る。その日まで、出来る事をする。」
と、泣いてしまうペラリと彼女をそっと抱きしめたフーティは言った。
「貴女は、私たち人魚族の誇りです。帰ってきてください。いつか、貴女とナイト様、皆さんを海の国へ招待をしたいものです。」
「メイダの言う通り。貴女は、人狼の誇りでもあり、皆の誇りよ。だから、貴女はまだ、死んでは駄目よ。」
と、メイダとウルフィは言う。そして、勇者を救出し、彼女とヒミコ、ビルとエルを見送ったアッシュが降り—
「自分よりも、皆の為に…そう言う人だったな。でも、ここに戻ってこなくてはいけない人だ。……誰かが、死ぬのは、もうごめんだよ。」
と言った。
「未来は、救われた。……でも、母さんの犠牲で成り立つなんて…。どうか、この世界にいる幼い僕の為にも、帰って来てくれると、信じていたいです。」
「私も、ジェン様が失うのは怖いです。貴女様がいないと、母様も父様も、皆も不安です。」
未来からやって来たオリバーとネアはそう言う。しかし、彼らも帰らなくてはいけなかった為、彼らの姿が消えかかっていた。それを見た皆は、彼らに別れを告げる。
「俺たちの、未来を、頼んだぞ。オリバー。」
「どうか、未来にいる私たちを頼んだよ。ネア。」
「未来で、頑張ってな。」
ナイト、アンネ、シーガの言葉を受け、オリバーとネアは頷いて姿を消して行き、未来へと戻った。ナイトは、再び黄昏に染まって夜を迎えようとする空を見上げて言う。
「俺は、戦災の復興に、全力を尽くす。エルシィーダンだけじゃなく、ナイツァノ、ヴィルハンも。ジェンが遺してくれた、平和を、守り抜いて見せる‼……帰って来た時は、笑顔で迎えたい。……なぁ、ジェン。どこかで、聞いているか?」
こうして、ラフィンナ大陸島の脅威と共に、世界は永きに渡る秩序の安定期へと突入した。同時に、神々は姿を見せなくなって神器の殆どは力を失い、幻想種は生を終えたら徐々に物語上だけの存在へとなって行く。
ナイトたちの武器は、力を失って只の鋼の武器へとなった。神如きの力を持つ者も、徐々に力を失って人として暮らす事になった。その証拠に、フィーメ家一族が受け継いでいた天馬の力は失われたのだ。
『これも人類の定めだ。神代は終わり、魔術は徐々に消え去り、科学が征する人の世が来るのだ』
と、エルはナイトへ密かに言っていた。なら、受け入れよう。例え、神々が人の目に映らなくなったとしても、彼らが存在のは、書物や絵画などに記される事となるだろう。そして、彼らはいつまでも人類を見守っていてくれることを。
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どこかの理想郷。ヒミコは、塔に住み続けるある男と話をする。
「うんうん。神代は幕を閉じる。私は、物語の中で語られるだけの男だな。」
「全く。千里眼所有者として言いますが、物語を読んだ人でも、貴公と言う者は勇者が辛辣に発言をしたのと同じであると思いますけど。」
「ヒミコくんったら、君も相変わらず厳しいなぁ。まぁ、それでも、私は見守り続けるさ。この星が、滅ぶまではね。」
「私も、見守り続けますよ。」
ヒミコはそう言い、塔を後にする。男は、その塔を出られなくとも、星の運命を見続ける。
そして、勇者は理想郷のとある小屋でのんびりと暮らす。その小屋には、もう一人の青年がいた。勇者は青年と共に、この地で安息の暮らしを続ける。
そして、魔術が存在する時代にて、その時代の者の手によって召喚される事もあろう。
理想郷は、もう二度と大地と繋がる事は無い。繋がる場所があれど、そこは英雄と言う数多の人々の精神が暮らす無限の空間。その場所は、黄金の光に照らされた草原であった。
そこに、一人の人間が佇んでいた。姿は朧気で誰なのかは見えないが、正面にはラーフがいた。
「いいのですね。前世の貴女は受け入れるのですね。」
「はい。もう、ここまで来れて、今更、蘇ることはできません。」
「良い、決断です。では、貴女に、もう一度の祝福を。」
エピローグは短めですが、二話でお届けします!あと、一話……ラストです!




