第七十一夜 化身の元へ
ラーフが付いて来た事によって加護が備わったナイトたちはハンヴィルの元へと急いで向かっていた。
「あの、勇者さん。ラーフ様は、勇者さんが昔、神殺しをしたって言ってましたけど…。」
オリバーは勇者に尋ねると―
「ラーフ様が言っている事は、本当よ。人の時代を築かせる為、ハンヴィルの主な怨念となっている原初の女神にして竜と言う獣を消滅させた。でも、今は、貴方たちの手でやるの。」
と言う。「……世界を、変えるのは今生きる人だけって事ですよね…。」とオリバーが話すと、勇者は頷いた。未来では成し得なかった事を、過去で成す。今この時は、自分はまだ幼い少年で王子であった。
でも、ラーフ様の力で過去に飛び…今や、殺される運命から逃れた両親と共に戦っている。ネアも同じである。母親や父親と会い、こうして共に戦っている。
「ネア。大丈夫か?」
シーガは未来から来た娘たちの姉であるネアに尋ねる。彼女は「お父さん?」と訪ねた意図が分からなかったようだ。
「ごめん。未来で、お前の事、辛い目に合わせていると思うと…。」
「お父さんのせいじゃ無いよ。……過去に来て、元凶が分かったし…こうしているのも…。」
ネアはそう言う。だが、彼女の中には惑いもあった。元凶は発見したものの、その正体が父親の恩人にして母の親友であった事。
しかし、それはあくまでジェン自身ではなく、憑依して覚醒したハンヴィルの化身に過ぎない。
「そうだな。だけど、本場は油断大敵だよ。」
シーガはそう言い、「絶対に平和を取り戻そう」とネアに言った。
そして、ナイトたちは南西にある赤き山の近くに到達した。山は昼夜を問わずに、河口から火を噴いているが、空が雲に包まれており、危険な雰囲気をより印象付けさせている。
彼らに加護を与え続けているラーフは「あの山の上空に、ハンヴィルはいます。私が、ハンヴィルの背中へ運びましょう」と言う。
だが、ナイトたちをそう易々と上手くいかせない者たちが正面に立つ。
「ナイト、ハンヴィルの手下よ。」
ジェンは彼に言う。ナイトは致し方ないと判断し、皆に言う。
「武器を取れ!ここを突破して、奴の背中へと移るぞ!」
『おう‼』
ナイトたちは武器を手に、迫りくるハンヴィルが生み出した魔物やその信者へ反撃を始める。王剣を手に、ナイトは天馬となったジェンに跨って敵へ先陣を切って進み、刃を振るう。シーガ、リアフとジャド、ニック、ペラリとフーティ、ツキノとリティ、メイダ、フウカ、ウルフィ、オリバーとネア、アッシュと勇者…それぞれ戦う。
ここまで来たのなら、立ち止まれない。例え、どんなに苦渋な道であったとしても。
「てやぁっ‼」
ナイトはジェンと息を合わせて、敵に刃を振るう。一刻も、早く、化身の元へ行かなけばならない。ナイトは愛しい人の体をハンヴィルが化身として扱う事へ、激しい怒りを持っていたのは当然であったが、「その感情を表には出す事はご法度だ」とオリバーが助言してくれたために、今は目の前のことに集中している。
“ぜってぇ、取り戻す‼許さねぇ‼”
ナイトは心の底にある怒りを胸に刻み、剣を振るう。彼の持つ鋼は純白にしてラーフから授かった力で神秘を解き放つも、鋼は彼が斬り倒した者の血が剣先へと伝って地に落ち、土を赤く染めている。彼は鋼に着いた血を払い、ジェンと共に前へと進む。
「王家・ラーフ・大炎‼」
ナイトは、立ちはだかる大勢の敵へラーフの力を宿した炎を放って蹴散らす。
「マード・ラーフ・三叉槍!」
とメイダ、
「ヴァンア・ラーフ・大鎌‼」
とシーガ、
『子爵炎‼』
とリアフとニック、
「螺旋突風刃‼」
とペラリ、
「螺旋大波!」
とフーティ。それぞれ、奥義を放って、前進する。
「四神乱舞!荒れ狂え‼」
ツキノは刀を抜き、四神と呼ばれる東西南北を守護する精霊たちを呼んで敵へ攻撃する。
「光よ、我が道を照らし給え!」
フウカは、鏡を宙に浮かべて邪を祓う光を放つ。
「人狼の意地、見せてやろうじゃない!」
ウルフィは仲間たちと共に、狼の姿となって敵へ噛みつきにかかる。
「アッシュ!」
勇者はアッシュと連携を取る。アッシュは水の息吹で、敵を勢いよく流していき、勇者は皆の道を開くべく、自分から離れる様に言う。
「使わせてもらうよ…。彼の槍、光の頂点にあり。何者も阻めず、光は嵐となり、闇を打ち砕く……放て!最果ての聖なる槍‼」
勇者は光に包まれた槍を手に呪文を唱えて、敵陣へ光の嵐を解き放つ。凄まじい風がナイトたちにも感じ、彼らは倒れない様に必死に立っている。
嵐が止むと、敵は全て倒されていた。最初から使用して欲しいものだが、その槍はとある一人の王のみが完全な制御ができ、他人には大きな負担がかかるのだ。使い時が重要だと言う事だ。
「行って‼私は、もう少ししてから行くから。」
「お前たちは、今やるべき使命を果たせ。」
勇者とアッシュはそう言った。ナイトは「ありがとう。すまない」と言い、皆を率いて走る。勇者は走って行く彼らに呟く。
「懐かしいな。私も、あんな頃があった。でも、大昔に起きた事は衝撃だったけどね。」
「?」
「アッシュには分からなくて良いよ。いずれ、この世界の未来で分かる。」
勇者は謎の言葉を言い、槍を亜空間へとしまってゆっくりと立ち上がるが、体勢を崩しそうになる所をアッシュに助けてもらう。すると、上空からヴィマナが降りて来た。
「心配したぞ。下手すれば、やられている所だったが。」
そう言ったのはエルアドだ。
「ったく、王様ったら…相変わらず不器用ですね。」
「お前に言われたく……なくはない!」
と勇者の言葉に詰まらせる。勇者は「相変わらず、ですね」と言う。それは、まるで知り合いの様であった…否、かつて知り合った仲であるからこそ言える事。
ビルガメシュ四世はその会話を聞いて微笑ましいと思うが、今はそれ所では無いと言い聞かせて―
「さぁ、行くぞ!私たちには、最後の仕事がある。」
と言う。
「…そうですね。…私は、役目を終えたら、消えてしまいますが…それでも戦い抜く!」
勇者の言葉に、ビルは「よい、心がけだ。いくぞ」と言い、彼女らを乗せて空へと飛ぶのであった。
そして、ナイトたちはラーフの援護によってハンヴィルの背中へ到着する事が出来た。しかし、背中にも魔法陣で転送された信者がおり、奴の首元には化身と化して闇を纏ったジェン(肉体のみ)の姿があった。
ジェンは、魂の状態でそれを見据え―
“止めなくては、ビルやラーフ様が言っていた、あの方法で”
と強く思った。ナイトたちはハンヴィルの化身へ向かおうとした時―
「ぐっ‼」
とジェンを除いて、ナイトたちは突如地面から現れた棘と闇の魔法によって怪我を負って膝をつく。もう少しで致命傷と言う所だった。ジェンは化身となった自分を見る。
「な、何だ‼これは!」
「クソっ!ここまで、やりやがって…。」
「私たち、は、ここまで、来た、のに…。」
「未来は、闇、なの?お父、さん…。」
ナイト、シーガ、オリバー、ネアはそれぞれ言う。それを見ていた化身は、ナイトたちを嘲笑って―
「お終いだな…もう一人の我よ。貴様が信じたもの全て、脆くて、儚い。我には向かおうなど、結果は同じ。未来は混沌に満ちる。」
「ふざけないで‼私は、諦めない‼」
魂のジェンは化身のジェンに言う。
「貴様が、諦めなかろうと、我は貴様の仲間を殺めるが?」
化身はニッと笑ってそう言う。ジェンは「やめてっ‼」と叫び、ナイトたちの前に立つ。
「なら、選ぶのだ。我と同化し、この星を呪い、新たな時代を築くならば、貴様の仲間を救ってやろう。」
「だ、駄目だ‼ジェン、お前は…。」
「そんな、言葉、信じちゃ、駄目‼」
選択を迫られたジェンに、ナイトとリティは同化してはいけないと叫ぶ。化身は「仲間を捨てて、我と共に神となり果てるか?」と言う。ジェンは選択を迫られた。彼女は—
「………貴方の言葉、信じないわ。この星は、貴様らの様な異星生物の勝手にさせるものですか!」
と答えた。化身は拒絶の言葉を受けた為、顔をしかめる。
「我を、拒むか。ならば、力づくで‼」
「ぐっ‼」
ジェンは化身の魔法によって異空間へと引きずり込まれて行き、ナイトは彼女の名を呼んで手を伸ばすが、届かず、彼女は異空間へと取り込まれた。
異空間へと取り込まれたジェンは、正面にいる化身の自身と対面する。辺りは、真っ暗で何も見えない。
「ここは…⁈」
「よくぞ、参った。もう一人の我を得て、我は…。コノ 星ヲ、ジュウリン スル‼」
「嫌よ。そんなの、誰が許せるの‼」
「まだ、抗う気か?先に消えてしまうか?」
化身はそう言い、ジェンに向けて闇魔法弾を放つ。ジェンは防ぐ事ができず、正面から受け止めてしまい、飛ばされて倒れる。
全身に痺れが走り、立ち上がる事が出来ない。彼女は―
「闇……大きな闇……深淵。このままで、終わるわけには…。いや、せいいっぱい、やってきた。どうしようもないの?……何も、見えない…聞こえない。何も、伝わってこない。」
と。彼女は、誰もいないこの空間、見渡す限りの闇に心を打ち砕かれそうになっていた。
いよいよ、決戦の時‼
しかし、絶望に浸るジェン……一体どうなる⁈
第六十九.五夜にての【変更点!】
『第一の原罪・更高慢/憐憫の獣』→『第一の原罪・高慢の獣』、
『第二の原罪・愛憎/帰納の獣』→『第二の原罪・嫉妬の獣』、
『第七の原罪・復讐の獣』→『第五の原罪・憤怒の獣』、
『第五の原罪・色欲の獣』→『第七の原罪・色欲の獣』が変更されました。
『第六の原罪・貪食の獣』が追加されました。
変更や追加など……色々、すみません!




