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Awakening Of Magic  作者: Hanna
第十一章 邪竜・ハンヴィル ―神秘の最期へ―
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第七十夜 ラーフ神殿にて

 原罪の獣の残滓と言われる邪悪な竜・ハンヴィルを倒すべく、ナイトたちはラーフの神殿へと向かっていた。


「あの、母さん。……ごめんなさい。守れなくて。」


 オリバーはジェンにそう言う。彼女を守るのが使命の一つでもあった為、申し訳ないと言う気持ちが溢れていた。ジェンは息子・オリバーに言う。


「謝るのは私の方よ。オリバーやネアちゃん……アッシュさんと勇者さんがいなかったら、今頃、私は敵に回っていたかもしれない。こうしているのも、オリバーのおかげよ。」


「母、さん……。くずっ……。」


 オリバーは涙が出てしまいそうで、顔を俯かせた。どうして、ここまで辛い思いをしているのに、息子である自分の事を許してくれるのだろうか、と彼は思っていた。


「アッシュ、勇者さん。その、お二人は知り合い、なのですか?」


 ナイトはアッシュと勇者に尋ねた。勇者は答えた。


「知り合いと言うか、元主従関係と言った方が正しいかな。」


 勇者は話を続けた。

 今よりもずっと昔に、勇者は世界を股にかける旅に出た。勇者は白銀竜のアッシュとその仲間の騎士たちと共に、駆け抜けていた。

 とある出来事をきっかけに、アッシュは竜の姿のまま戦ってきた。


「会った時から、意気投合していたね。…でも、アッシュは子供の頃は甘えん坊だったから。」


「なっ!余計な事を言うな!」


 アッシュは頬を赤らめてそう言う。勇者によれば、事情は深く、あまり詳細に話せない事らしいが、まだ子供だったことには間違いないようだ。


「そうだったのか。でも、アッシュの事、勇者の事、少し知る事ができて良かった。」


 ナイトはアッシュの事について、彼の事を少しだけ知れて良かった。勇者と昔、主従を築いてその使命を果たした。それからは、後の厄災…今に備えて眠っていたのだ。


「ありがとう。随分と、寂しい思いをさせて心配はしたけど、仲良くしていて安心したわ。」


 勇者はそう言った。アッシュは頬を赤らめたままで、そっぽを向く。

 ナイトはそんな二人を見て、昔の事を思い出す。あの頃から、随分と時が経ってしまっているのに、離れる事無く傍にいてくれている人たちがいる。


「……。」


 ナイトはジェンの事についてショックは隠せなかった。それでも、前に進まなければいけない。


 “絶対に、お前を助けてやる!”


 ナイトはそう思って、右手を拳にして強く握り締めた。



 そして、急行して数十分。ナイトたちは、ラーフ神殿に辿り着いた。そこは、かつてメイダが訪れた場所である。


「アッシュ……ここ、貴方が眠っていた……。」


「あぁ。メイダの言う通り、ここは俺が寝ていた場所だが、ラーフ神殿が建てられている。神殿はあの奥だ。」


 アッシュはそう言い、彼らに案内をする。そこは、彼が昔に訪れ、一時の眠りについた場所であり、大きな木の上に建てられた神殿。その地下に、祭壇があり、ラーフが眠る場所と言われている。


「でも、ラーフ様の姿はいくつも逸話があるって聞いたけど?」


「確かに、リアフの言う通りだ。」


 リアフの言う事に、ジャドは同意見だと答えて考える。ペラリはその逸話の一つを言う。


「私の家には、月と太陽を現わす様に、二人で一体と書かれた本があるわ。」


「そうなのか?俺の家は、竜の力を持った女性と聞く。」


 フーティは驚いて、逸話の一つを話す。ペラリは逸話が異なる為に、「うっそ!」と驚いている。ウルフィーとメイダは三大貴族の伝承の違いに、疑問を持つ。


「どうして、三大貴族と言うのに、逸話が…。」


「分からないわ。でも、私の一族には、時代によって姿は異なるとは聞いていたけど…。真実は、未知のまま、なのかもね。」


 二人はそう話していると、アッシュは祭壇がある部屋に着いたと報告する。彼の言う通り、神殿の奥深くに泉がある大きな祭壇があり、供え物を置く場所には宝玉を置けるほどの大きさの器があり、その手前には、様々な武器が刺し込める穴がいくつもあった。


「……ここが、祭壇だ。覚醒の宝玉をあの祭壇の泉の真ん中に置き、お前の剣を刺せば、儀式が始まる。宝玉を置き、皆の神器をそれぞれの鍵穴や器にはめ込めば、その力に応えてラーフは目を覚まし、なすすべを助言する。」


「最後の切り札、なのね。……いくら、英雄となったとはいえ、時代に深く干渉はできません。未来を変える、いえ、未来を築けるのは今を生きる貴方たちです。おそらく、ラーフ様も…。」


「はい。ありがとうございます。……皆、それぞれ配置についてくれ。」


 勇者に礼を言い、ナイトは指示を出す。神器を持つ者たちはそれぞれの鍵穴と器の前に立つ。オリバーはジェンに変わって代行し、宝剣(クラ・ソラウ)を鍵穴に差し込む。ナイト、リティ、シーガ、リアフ、ペラリ、フーティ、ツキノは神器を鍵穴に刺し込み、メイダ、フウカ、ウルフィ、アッシュはそれぞれの力が宿る石を器に置く。

 ナイトは祭壇へ向かい、泉の中へと足を踏み入れて宝玉を泉の真ん中にある器に置き、王剣(イーリス)を鍵穴に差し込んだ。

 全ての神器が揃い、ジェンたちのいる場所にある神器から光が発せられ、地面の鍵穴から泉の方へと魔力が電子回路のように走る。


「全ての神器が集まる時、太陽と月を司る神…ラーフは目を覚ます。王剣(イーリス)(あるじ)は真の持ち主である事を問う炎の試練に挑む。それに打ち勝った時、神の目覚めと共に王剣(イーリス)の真の姿を解放する。」


 勇者、ジャド、ネアと共に見守っていたアッシュがそう呟いた後、泉が徐々に光り出し、宝玉に力が溜まる。


「この大地を守る神、ラーフよ。我は、汝が授けし剣の主なり。我が声よ、汝に届け。我が祈りに、答え給え。」


 ナイトがそう言うと、覚醒の宝玉は青白い光を放ちながら、空中に上がっていき、光の粒として散った。さらに、正面からナイトに蒼い炎が吹きかかる。


「…っ!」


「ナイト!」

「父上!」


 ジェンとオリバーはナイトの身を案じると、蒼い炎の中から現れたのは幻影ながらも姿を確認でき、中性的な顔立ちをする神であった。ナイトは泉のおかげで、火傷はしなかったが、オリバーの助けによって祭壇から降ろされる。また、剣の姿が変わっていた。王剣(イーリス)棟区(むねまち)に穴が空き、その空間には青白い光が宿っていた。

 現れた神は瞳を開いて、ナイトたちを見下ろす。瞳は太陽と月を示すかのように、オッドアイであった。


「我が名はラーフ。太陽と月を司り、この地を守護する者。覚醒の宝玉を捧げし人の子よ…我が炎を乗り越えた事、真に見事である。そして、その者の願いは、ハンヴィル討伐の意を示す……。」


「俺に、奴を消滅をさせる力を授けるのか?」


 ラーフの言葉にナイトはそう問うと、ラーフは「はい、力を授けましょう」と言い―


「しかし、私は守護者に過ぎません。つまり、神ではありませぬ。」


 と衝撃の言葉を述べた。オリバーは驚いて何も言えなかったが、ネアは「でも、貴方はこの大地の神・ラーフ様なのでは?」と言う。ラーフは彼女の問いに、親切に答える。


「我は、そこにいる勇者と世界の創造神によって、守護を任された者。神と同等にして、魔族の血を持つ者の一角に過ぎない。…あの、ハンヴィルは魔族と言うべき存在でもあります。しかし、我には滅ぼす力は無い。」


「何だって!それじゃ、完全に滅ぼすには…。」


 ナイトは「それでは、何の意味も無いのか」と思う。確かに、大陸の神である者でも倒せないとなれば、なすすべがあるのかと戸惑うのも無理はない。ラーフは続ける。


「時間は稼げる。ただし、それも、遥か昔、軍神が巨大な竜の女神を封印した時のように。」


「……完全な消滅は、訪れないんですか?」


 リティはそう尋ねると、ラーフは彼女の問いに答える。


「神々の手では封印しかできなかったと言う。しかし、人の手であれば、別だ。かつて、勇者が原初の女神…私の故郷にて堕落の獣を討ち取ったように。だが、あの怨念の塊では難しい。……おそらくは、自分自身の手だろう。」


「…つまり、自殺?」


 ジェンはそう呟く。勇者とアッシュは「やはり、そうしかないのか」と察している。彼らはかつて、共に戦った身であり、神殺しをも行った故だろう。ラーフは言う。


「はい。ですが、ハンヴィルは怨念を晴らすために、世界を滅ぼし、最悪の場合は他世界への干渉をするでしょう。もう、一刻の猶予はありません。」


「ハンヴィルは、どこに?」


 ラーフの言葉にナイトは尋ねると、「ここから、南東にある“赤き山”と言われる場所にいる」と話した。

 赤き山とは火山の事で、れっきとした活火山として記録されている。当然、人の立ち入りは危険である。しかし、今は立ち止まっている訳には行かない。

 ナイトは態勢を整えて、王剣(イーリス)を鞘に納め、「最後の戦いだ。行くぞ」と言った。ジェンたちも武器を鞘などに納め、祭壇を後にした。ラーフは彼らを守る為、祭壇から降りて付いて行く事にした。


「勇者、我が島を助ける為にわざわざ来てくれて、嬉しい。」


「いいえ。ラーフ様が親切に受け入れてくれたからこそです。私は、善悪の均衡を取る為だけに召喚され、あとは精神だけが理想郷(アヴァロン)にいますから。」


 勇者はラーフに感謝を述べ、自分は必要とされる時に召喚されるだけと言う。


「そうか。だが、お前も、戦うのだろう。…それに、あの者たちも、最後の片づけとして務めを果たすようだ。」


 ラーフはそう言うと、勇者は「はい」と答えた。勇者はかつて、冒険した日々を思い出しながら、ナイトたちの後を歩いて行った。

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