第六十九.五夜 ハンヴィル神殿 禍
“お前たちが、神を見捨てた事……何故、気づかない!”
ヴィズロルはそう思うが、声には出なかった。
「逃げられないぞ!」
ナイトは白馬のジェンに跨って、一撃を入れる。ヴィズロルは防御魔法で攻撃を止めようとするが、そんな力はもう僅かであり、罅が入り込んで彼の一撃が直撃する。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ‼」
ヴィズロルは叫ぶ。ナイトはジェンから降りて、彼女は白馬から人の姿へと戻る。奴は地面に倒れ、ナイトとジェンに向けて―
「私を、倒した所で勝ったと思うなよ?ここからが、本当の復活の…。」
と言い、奴は息途絶えた。ナイトは血を振り払って鞘に剣を納めた。ジェンは奴の言葉を聞いて、何か忘れている様な気がした。シーガたちは既に敵を討伐し終えていた。
ナイトとジェン、オリバーとネア、勇者は祭壇へ到着すると、彼らの背後に現れた一つの影があった。彼らが振り返ると、そこに立っていたのは―
「どうも、初めまして。もう一人の私。」
「…っ‼」
もう一人のジェンであった。しかし、瞳の色は赤の様な紫の様な…綺麗な色をしている。神殿にいたシーガたちも驚きを隠せないが、一番困惑したのはジェンである。瞳の色が違えど、瓜二つの容姿…どう見てもジェンにしか思えない。
「魔法で、だましているのか!」
ナイトはそう言うと、もう一人のジェンは答える。
「魔法で、だと?…フフ、笑わせるな。正真正銘の、ジェンレヴィ・フィーメだ。正確に言えば、そこの王子と吸血鬼の娘を追ってこの地へ来た……いや、未来から来たと言うべきか。」
「未来から、来た⁈どういう事なの?」
ジェンは戸惑いを隠せなかった。当然だ。もう一人のジェンは微笑んで話を始めた。
「決まっているわ。この世界で、私の復活を遂げる為…。忌々しい人間を全てのみ込んで、母である私に返り咲く為。」
その言葉に「まさか、嫉妬の獣か‼」と勇者は反応する。もう一人のジェンは勇者を見て目を見開く。
「貴様‼あの時は、よくも!……でも、違うわ。細かい事を言うと、獣の残滓とでも結論付けましょうか。」
「獣の残滓?どういう事ですか、勇者。」
ネアは勇者に尋ねると、彼女は話す。
以前、今から数百年近く前。勇者は一人の騎士として、仲間と友に戦い抜いてきた。国を越えての旅を続け―
『第四の原罪・堕落の獣』、『第三の原罪・物欲の獣』と『第二の原罪・嫉妬の獣』、『第六の原罪・貪食の獣』、『第一の原罪・高慢の獣』、『第七の原罪・色欲の獣』、最後に『第五の原罪・憤怒の獣』
を倒した。元々倒された獣はいるが、その残滓となると、「一番は第二の獣が強い」と言った。
「話はお終いです。今すぐ、祭壇や神殿に捧げられた力を頂きます……ハハハハ!私は再び蘇る、獣たちの残滓と言えど、偉大なる母竜……大母神として‼」
もう一人のジェンはそう言い、力を溜め始めた。オリバー、ネア、アッシュ、勇者は危険だと判断して、皆の安全を優先するべく、神殿の外へ出る様に指示する。しかし、ジェンは急いで祭壇の方へ何かを取りに行った。
皆は神殿から退却する。すると、ナイトとオリバーが出て行くと、神殿が光って天へと稲妻が伸びて行った。周囲に落雷が落ち、オリバーにも直撃すると直感したナイトは彼を守るために飛びついて共に回避すると、間一髪で回避した。
だが、その時、鳴き声が轟き、二人が空を見上げていると、神殿の真上には黒い鱗を纏い、赤紫の輝かしい瞳を持つ巨大な竜がいた。
「これが、ハンヴィル……。」
「変えられ、ない、のか?」
竜は鳴き声を上げて、神殿から飛び立つ。シーガはナイトとオリバーの元へ駆けつける。
「大丈夫か?」
「あぁ、無事だ。シーガ、皆は?」
ナイトはシーガに確認すると、彼は「皆、無事だ」と言った。しかし、オリバーは母の姿が見えない事に気が付いて「母さん!」と呼ぶ。すると―
「オリバー。私は無事よ。」
「……っ!母さん、脚が……。」
オリバーはジェンの姿を見て、驚いた。ナイトも、シーガもだ。彼女は脚が透明がかったような状態だったが、彼女の手には覚醒の宝玉があった。
「大丈夫。宝玉を取りに行った時、体はハンヴィルに乗っ取られて引き離されたわ。けど、完全な復活ではなかった。」
「で、でも、母さん……。」
オリバーは母親が魂だけの状態である事に、衝撃を受けてしまい、動揺を隠せない。そして、参戦したメンバーが駆けつけるが、ジェンの姿を見て混乱する。彼女は説明をした。
ナイトは、めそめそする訳には行かないと思い―
「急ごう。復活が完全じゃなければ、ラーフ様の復活も出来る。だが、場所が分からないとなると…。」
「ラーフの神殿なら、俺に任せろ。」
そう言ったのはアッシュである。彼は神殿に参拝しに行った事があるようだ。ナイトは早速、ラーフの神殿へと出発した。




