第六十九夜 ハンヴィル神殿 破
ジェンが負ける訳には行かないと叫ぶと、彼女とナイトが握る剣の光は剣士が放つ闇を切り裂いて行った。その出来事は剣士にとって予想だにしていない物であった。
「負けるのか!この剣が‼」
剣士はそう言うと、光の渦に巻き込まれた。剣士の元に届いた光は砂埃を挙げて行く。ナイトは効いたのかと驚いて何も言えなかったが―
「ジェン‼」
彼女の膝がガクッと落ちてしまったのを見て、彼女の腕を取って支える。ジェンは、これまでにない魔力の消費に息切れが激しかった。だが―
「…っ‼まだ、倒れないのか!」
ナイトはジェンを支えつつ、剣士の方を見たが、奴はまだ倒れていない。しかも、もう一度、あの攻撃を放つと言う様に天へ刃を掲げている。
“死ぬのか?今度こそ…殺られるのか?”
ナイトがそう思っていると、天から光が剣士に向かって降り注ぐ。剣士その攻撃を弾いて―
「誰だ!姿を出しやがれ!」
と言うと―
「聖杯にかける思い……辞めたんじゃ無かったの?」
と声がして、ナイトとジェンの前に一人の少女が降りてきた。
その少女は、騎士の服装をしていて、黒髪で片目が黄色、もう片方は黒だった。そして、左の腰には刀を帯刀している。
少女は二人に言う。
「よく耐えてくれました。後は、私に任せてください。」
ナイトは“貴女は誰だ?何故、助けたのか?”と問う。
「私は、この世界を善悪の天秤を守りし者・勇者です。かつて、世界を巡り、あの剣士を倒した。」
「貴様!俺の前に立つというのか?!」
「勿論だ。善悪に別れたとはいえ、貴方に、この人たちを倒させたくは無い!奥義開放!」
少女…勇者はそう言うと、銀の槍を天へ掲げて詠唱する。銀の槍は光を纏い始め、嵐の様に渦を巻く。
「最果ての輝き、真の光の槍にして、光の嵐。誰も阻むことはできない。……聖槍、発動!」
同時に、剣士は再び剣先を天へ掲げて詠唱していた。黒い炎は刃に纏い、凄まじい勢いで燃える。
「勝利は我が黒き聖剣で!!」
「最果ての聖槍!!」
剣士は勇者に向かって黒い炎を、勇者は剣士に向かって光の嵐を放つ。先程と違って、ナイトたちとの威力に差があり、どちらとも互角であった。
勇者はただ前を向いて、光の嵐を放っていた。アッシュは彼女のことを知っている。
“あの時、離れて戦っていたが、こんな厳しいものだったのか。最初は人を殺める事を躊躇していたが、俺達だけの旅で、変わったんだな”
「はぁぁぁぁぁっ‼」
勇者が声を上げると、槍はまた光で包まれて威力が徐々に上がって行き、赤黒い炎を削って行く。
光の嵐は、闇の炎には負けない。ただ、真っ直ぐに穿って貫くのみ。
そして、光の嵐は闇の炎を打ち破った。
「何故、ここでも‼」
剣士はそう言いながら、光の渦に飲み込まれた。勇者は槍を納めて、刀を手にして剣士へ最接近して止めを刺した。剣士は心臓を刺された為、英雄の体では耐久は無い。
「何故、お前は…。」
「前にも言ったはず。聖杯、願いを叶えるものは、自分で成す。貴方が暴走する限り、私は貴方を止めるだけ。今は、あの人たちを助け、人の時代を築く為だ。」
勇者はそう言って、剣士の心臓から刀を抜いて血を振り払って鞘に納めた。剣士は剣を地面に落とし、涙を流した。
「お前を、また、悲しませた、と言う事になる、のか。」
剣士はそう言って消えて行った。勇者はナイトとジェンの元へ行き、無事を確認する。ナイトは無事だったが、ジェンは魔力酷使の疲労が出ていた。
「じっとしてください。……不老不死は理想郷の鞘……。」
勇者がそう言うと、ジェンの魔力が回復した。それだけでなく、闘っていた皆の傷なども回復させた。彼女は一体、何者なのだろうか?
勇者は言う。
「さぁ、急いで神殿の中に。復活は近いです。手遅れになる前に。」
「あ、は、はい!……行くぞ!」
ナイトは勇者の言葉を信じて、神殿へと向かった。勇者はアッシュとさいかいする。
「元気で何より、アッシュ。」
「ま、まぁな。主も、元気で良かった。……英雄となったお前が来るって事は非常事態なんだろ?」
「うん。だから、あの人たちと戦う。獣の残留思念を消す為に。」
勇者はそう言い、アッシュと共にナイトたちが向かった神殿へ走って行く。
神殿の中へ入ったナイトたちは祭壇にいるヴィズロルの元へと着いた。
「ヴィズロル‼」
「思いのほか、早かったな。だが、儀式は間もなく終えるだろう。」
ヴィズロルがそう言うと、ナイトとジェンはシーガやリティたちと切り離される。ヴィズロルは魔力で出来た壁は、いくら魔法をぶつけようと壊れないと言う。ナイトはジェンに言う。
「行くぞ、ジェン。奴を止めて奪い返せば、世界は救える。奴を倒して外にいる皆を助けるぞ!」
「えぇ‼勿論よ、ナイト。負けてはいられないわ!」
「我らの神・ハンヴィル様の復活は近い。そこで、大人しく復活の時を見るがよい!」
謎の男は当然だとでも言う様に二人の前に立ちはだかる。
「そうはさせない‼俺たちがお前を止めて見せる。」
「そうよ、お前は私たちが止めて見せるわ‼」
「…小癪な…。一生、抗えぬようにしてやる‼…はぁ‼」
ヴィズロルは、二人に向けて闇魔法弾
を放つ。二人は避けて、ナイトは右側から回って奴と接戦に入り、ジェンは左側から回りタイミングを計って宝剣から魔法を放ちナイトを援護する。
奴は、強力な闇の魔法を用いて攻撃を仕掛けて来る。ナイトは王剣で攻撃するが、奴は避けてジェンに闇刃で攻撃する。
彼女は、光防御で守り、水刃で攻撃するが奴は姿を消し、瞬間移動してしまう。その時‼
「うわぁ‼」
「ナイト‼」
ナイトは、奴が瞬間移動した場所で放った闇魔法弾を受け、壁に打ち付けられ立ち上がるのに必死である。ジェンは助けるべく必死に彼の元へ走って行くと、奴は次に闇光線を彼に放つ。
ジェンは走りながら、身に付けているペンダントの金剛を光らせ、宝剣を前に突き出して、光魔法弾を放ち闇光線とぶつけ、攻撃を阻止する。
「ナイト、大丈夫?」
ジェンは、治癒の魔法で彼が負った傷を癒す。ナイトはお礼を言い立ち上がり、再び王剣を構え再び戦闘を開始する。奴は闇魔法弾、闇刃、闇光線を仕掛けるが、二人に防御で守り避けられ、攻撃ができず焦り始める。
接戦で戦うナイトと同じ様にジェンも接戦に挑み奴の体に刃を刻む。
「おのれぇぇ‼」
奴は力、体力を奪われ瀕死状態に陥る。自分と彼はチャンスと見込み一斉に攻撃を仕掛ける。
「終わりよ‼」
「絶対に負けん‼」
自分は身に付けていたペンダントと宝剣を、ナイトは王剣を青白く光らせ―
『おぉぉぉぉぉぉ‼』
自分たちは叫びながら奴の体に刃を思いっきり刻み込んだ。血飛沫が舞い、奴は悲鳴を上げて倒れ禍々しいオーラを放ちながら塵一つ残らず消えた。
魔法で出来た壁が消えたのを確認したナイトは聖剣を鞘に納めた、が―
「ハッハハハ!」
と言って、再びヴィズロルが二人の前に現れた。そして、ジェンを捕らえてヴィズロルは彼女に言う。
「さぁ、殺すんだ。我が神の生贄にして、化身となる者よ。」
「うぅぅぅ‼」
ジェンはヴィズロルから魔法による干渉をされて、苦しむ。彼女は苦しみながら、彼へと一歩…歩み出すが―
「……っ‼」
「がはっ!」
ジェンは、ヴィズロルに向けて攻撃を放った。予想だにしなかった奴は、腹に一撃を受けた。ヴィズロルは「何故だ!」と言う。
「前世から見続けていた夢だ。」
そう言ったのは勇者であった。ヴィズロルは勇者を初めて見て、驚きを隠せなかった。
「何故、勇者が……抑止力の奴が!」
「抑止力と言えど、私は常に駆り出される訳ではない。聖人の方たちすら太刀打ちできない事のみ、世界に降りるだけだ。」
勇者はそう言ってヴィズロルへ抜刀術をするが、奴は避けて別の場所へと移動する。ナイトたちは態勢を整えて、戦いに挑む。
「ここで見逃す訳には行かない!行くぞ!」
「おう!」
皆はナイトの指示に答えて、陣形を整える。ヴィズロルは地下に待機していた兵士たちを呼び、構えを取る。これが、最後の戦い。
“運命を変えて、未来を光あるものに!”
ナイトたちは、それぞれの武器を手にヴィズロルら…敵に立ち向かう。ナイトとジェンはヴィズロルを撃破するべく、共に互いの背中を合わせて先陣を切るのであった。
勇者とアッシュはそれを見て、再び参戦する事を決めた。
「アッシュ。行こう。私達の役目を果たすために。」
「あぁ。ここで、負ける訳には行かない。お前だって、あの戦いを乗り越えた。なら、行ける。そう、信じてる。」
「ありがとう。」
“ここからが本番……。でも、なんでだろう。嫌な予感がする。けど、まずはここを超えなくちゃ!”
勇者は、白銀竜となったアッシュの背中に乗って、敵の陣へと入って行った。
ヴィズロルは怪我を負ったせいか、苦しい状態である。それどころか、魔法での回復すら行っていない。
「何故、ここに及んで、追い詰められる!何故、貴様らは神を捨てようとするんだ!」
叫びたいが、それは鋼がぶつかり合う音や戦士たちの声で遮断される。ヴィズロルは思う。
“神は、哀れんでいる。悲しんでいる。お前たちが、自分を見捨てた事を!何故、気づかない!”




