外伝Ⅰ ナイツァノ王国にて
ジェンたちが活躍するエルシィーダン王国の隣国、ナイツァノ王国。そこに二人の王子と王女がいた。彼らは、この世界の異変に備えて…。
エルシィーダンの隣国のナイツァノ王国にての出来事…。
ナイツァノ王国と現在はそう呼ばれているが、正式は「倭武の国」と言う。
その国の王城では、二人の王子と王女がいた。王子の名はツキノ、王女の名はフウカと言う。二人は兄妹で、ツキノが兄である。とある部屋でツキノは、倭武の王である父と話をしていた。
「父上。最近、空がおかしいのですが……。」
「ツキノも分かるのか?」
「?」
ツキノは首を傾げると、父はこう言う。
「実は、エルシィーダン王国で異獣と呼ばれる不気味な化け物が現れ、それと同時に、都の空も徐々に雲行きが怪しくなったそうだ。」
「そうなんだ。……何か、嫌な事が起こるのでしょうか?」
「おそらくな。……そう言えば、今年は四大神の元へ行かなければいかんな。」
「父上、俺も付いて行っていいか?」
「そうだな。もう十四になったお前も、この国と世界を知って良い時期だ。行ってみるか。」
「はい。」
ツキノは支度を整えた後に父と合流して、まずは東にいる青龍の元へ向かった。青龍とは都の東の守り神で、姿は青の鱗の体の龍だ。馬で駆け抜け、二人は青龍が祀られている神社へ辿り着く。
神社の境内に入ると、上から青龍が現れた。ツキノは初めて見るので驚いたが、青龍は彼を見て「良い心を持っているな」と言った。
「青龍様。今、国外で異獣と言う化け物が現れているとの事でございます。ラフィンナ運河にも、時々現れる事も。」
ツキノの父は青龍にそう言うと、青龍は答える。
「我が国には被害はない。だが、友好を築いている国が助けを求めた時には力を貸してやるのだぞ。」
「助言、ありがとうございます。」
次に、北の神社に祀られている玄武の元へ行く。玄武は都の北の守り神であり、亀と蛇が共にいると言う。挨拶をすると、「今の所、問題は無い」と言う。
そして、次は西に祀られている白虎の元へ。白虎は、文字通りの白き虎。隣国と運河は、西にある為、ツキノは心配していたが元気な姿だった。異獣や敵が都へ入らぬ様にいつも守ってくれているのだ。ツキノは「ありがとうございます」と礼を言う。白虎は、照れくさい反応をした。
最後に、南に祀られている朱雀の元へ向かった。朱雀は、赤い鳥でとても美しいと称されている。参拝すると、「海を越えた場所で異変が起きている。」と言っていた。朱雀曰く、「その異変は今、行ったとしても危険に過ぎない」と言う事だった。
参拝を終えて城に戻ったツキノは、部屋でゆっくりしていた。すると―
「兄さん、入って良い?」
「大丈夫だ。…どうしたんだ?フウカ。」
「いや、その、四大神の元に行ったって聞いて。どうだった?」
「あぁ、とても良い神様だった。」
「僕も、見たかったなぁ~。」
フウカは、頬を膨らませて拗ねる。ツキノは笑って「今度、一緒に行こうな。」と言い彼女を和ます。
フウカは自分の事を「僕」と呼んでいて、物心がついた時はすでにそう喋っていたらしい。それに気付いた時は、少々コンプレックスを感じた様だが、ツキノに「フウカらしくて良いよ。」と言われた事により前向きに考える様になったのだ。
「フウカ。もしかしたら、伝説がまたこの世で現実になるかもしれない。」
「伝説って…。確か、ガイフが聖なる剣で邪悪な竜を倒したって言う話?」
「あぁ。四大神の古株の青龍様が言っているくらいだ。それに、ナシィー様からの手紙であの貴族の生き残りがいるって来た。」
「貴族って、六歳の時から来なかったあの……。」
「あぁ。しかし、あの貴族の町は六年前に全て破壊されてしまって、生き残りはいないと聞いた。」
「……で、でも、もし、本当に生き残っていたのなら笑顔で迎えてあげよう。ね?兄さん。」
「そうだな。暗いのは、俺も嫌だしな。」
ツキノとフウカは伝説の厄災が起こる備えにそれぞれ鍛錬や周辺に異変が無いか情報収集へ取り組んだ。
これはジェンたちが十三歳の時、楽しい夏を迎えていた頃の事だった。
※誤字、脱字はすみません。