外伝Ⅺ 白銀竜とジェン
ナイトたちに合流する数時間前、メイダは竜が住まうとされる山へと来ていた。
“白銀の竜が住まうって来たけど、小型の魔獣が多いわね”
メイダは止む終えないと思い、三叉槍を構えて戦闘に挑んだ。多くいなかったのか、戦闘は直ぐに終了した。
メイダは息を整えて、山へと進む。神聖な空気が漂うのか、魔獣は一匹もいなかった。さらに進むと、そこには大きな湖があり、そこに根を張った大木が聳えていた。
“あの大木の上に…”
メイダは歩いて大木の上へと向かう。大木の中の螺旋状の階段を抜けていき、出て来たのは神殿の様な場所であった。彼女は進んで行くと、丸い石畳の所へ来た。そこにに刻まれた竜の紋章を見て、確信する。
「ここだわ。」
すると、彼女の訪れを知らせるかのように石畳に刻まれた紋章が光り出した。そして―
「汝、何用か?」
メイダに問う声が聞こえた。彼女は“ここに住まう竜の力を借りたいと所存で参りました”と伝えると、聲は“良かろう。事情は分かっている”と言うと、神殿の建物の中から一つの光が現れた。
メイダは神殿らしき建物の前に来ると、光が治まる。そして、建物から姿を現したのは白銀の瞳と白銀の髪を持ち、腕には龍の鱗を身に纏った青年が来た。
「お前。人魚族の末裔だな。俺の事は聞いているか?」
「えっと……ラーフ様に仕える一族の末裔と…。」
「うむ。貴公の言う通りだ。俺はラーフ様に仕える一族最後の末裔だ。」
彼の言う事に疑問を持っていると、それを察した彼はこう言った。
「五〇〇年程前、人は神々との袂を分かった。しかし、その代償として、最期の神秘を二つの島に残した。一つは遥か西に浮かぶ島と、もう一つはここ…ラフィンナ大陸島だ。」
「えぇ⁈そんな!」
「もしやと思うが、口伝の影響が出ている様だな。この大陸の誕生は、人を滅ぼそうとする女神を人が打ち破った際に、現れたのが真実だ。しかし、いずれ神秘は消え去ると同時に、この島は沈む。」
彼の言う事にメイダは衝撃を受ける。彼は続ける。
「だが、今ではない。最期の神秘が終わる時、神々は人を見守る事しかできぬ存在となり、幻想と謳われる俺たちは一族生存が出来るか否かという瀬戸際になろう。……遅くなった。名乗りを上げていなかった。俺の名はアッシュと言う。」
「……アッシュさん。その事は、長も言っておられました。いつか、幻想と謳われる日が来ると…。」
メイダは思い出した。一族の長は、いや、人魚は長寿の一族。一時期、長寿の謎や女性である事で人間の乱獲によって大変な目に遭った事は聞いている。
それでも、それを救ってくれた英雄たちがいたという。おかげで、人嫌いは避けられた。
話を終えると、アッシュは―
「さて、行くぞ。このままでは、いつ邪竜が復活するか分からぬ。それと、合わなければいけない人物がいる故、急がねばならぬ。さぁ、俺の背に乗れ。」
と言って竜の姿になる。メイダはそっと背中に乗ると、彼は空へと舞いあがった。メイダは向かう場所をナイツァノ王国の方角と言い、彼はその助言に従う。
そして、ナイトたちと初めて会ったアッシュは、オリバーとの一件を終えたナイトとジェンに話しをしていた。
「そう言えばだが、覚醒の宝玉はここにあるのか?」
アッシュの問いに、ナイトはそれを見せる。彼は宝玉を見て、ちゃんと受け継がれていたことに安心した。そして、アッシュは説明した。
「今更行っても何だが、お前の王剣に、フィーメルの宝剣。そして、ウルフ族に吸血鬼一族、人魚族、ナイツァノ王国のそれぞれの聖なる武器をその宝玉に集めれば、宝玉は使命を果たす事になる。」
「どういう事?」
「以前、ビルガメシュ四世とやらに会っただろう。人は、神々との袂を分かった。だが、続きがある。最期の神秘として残されたのは西の果てにある島とここ、ラフィンナ大陸島だ。覚醒の宝玉は神秘の最期の証として示されている。全ての力を集め、邪竜を倒せば、この星の東の神代の幕を閉じる。」
「……っ!そんな目的があったのか。何故?」
ナイトの言う通りだ。アッシュは、神々が徐々に消え去って行くも、神秘は一度に消えず、最期の神秘として、絶対悪を滅ぼす使命を受け入れる魂を選び、その者たちに宝玉を与えたと話す。
「じゃぁ、俺たちが使命を果たせば!」
「あぁ。真の平和が来る。」
ジェンはその言葉に、亡き祖父の事を思い出した。見たかったと言っていた夢、それが本当に来ると言うのだ。その為には、自分たちは戦わなければいけないと言う事も示していた。
「それに、復活が近い。かつて、殺された原初の女神の残留思念を主とした邪竜・ハンヴィルが。どこでかは分からぬが、その時は近い。」
「そうなのね…。」
ジェンがそう言うと、アッシュは彼女にこう言う。
「お前から力を感じる。フィーメ家とは違う、何かだ。オリバーから聞いたが、お前は一つの油断が運命を絶望に変えてしまう事になる。気をつけろ。」
「あ、は、はい。善処します。」
ナイトは、アッシュによろしく頼むと改めて言って握手をした。こうして、新たにアッシュが迎えられ、明日に執り行われる条約の制定に向けて準備が進められた。
その日の夜。ジェンは一人で、テントの外に出て星空を眺めていると、アッシュが隣に来た。
「眠らないとは、何か迷いがあるのか?」
「いえ、その。実は、幼い時からずっとある夢を見続けているの。時々、見るという感じだけど。ナイトと一緒に、ヴィズロルを倒すけど、その後よく分からない状態だった。」
「なるほど。お前の迷いはその夢が現実になったらと言う事だな。」
「はい。」
ジェンはその通りだと話した。アッシュは不安を抱える彼女に、自分の過去を打ち明けた。
「八〇〇年もの昔だが、一人の王様に力を貸してやった事がある。大王国を築いたが、王があと数日死ぬと思っていた時に、俺は人間によって怪我を負った。まだ子供だったし、人の姿になる事もできなかった。王は、この国だけでなく、世界の平和を目指し、まだ死ねないと言っていた。俺はその力を王に渡すと、王は青年の姿になった。」
彼は話を続けた。
―自分は王に竜の力を与え、子供である自分を依り代としたらしい。王は死なければいけないが、依り代としての適性が良かった為に若返ってしまった事で民や貴族の混乱を避けられないと知り、遺書を残して、城を去って行った。
混乱はしたが、王の遺書通りに王国は存続していった。王は、自分の名を借りて、村・郊外の町を転々しながら、三〇〇年という月日が流れ、最期には城下町での暮らしをして再び人を守る騎士の道を選んだ。
そして、一人の少女と出会い、自分の竜の力が発動した。白銀竜として、冒険を重ねるも、はじまりの大地と呼ばれた場所に現れた異空間により、自分の代償がついに来てしまった。
依り代ではなく、竜として生きる事になった自分は一人の少女と赤竜と共に旅を続け、闘い抜き、今の場所に至る―
「そんな事が。」
「だから、俺の様な過ちはするな。運命は変えられないが、神々の神秘は断ち切り、終わらせなくてはいけない。それが、お前たちの真の目的で邪竜討伐だ。」
アッシュはそう言った。ジェンは彼の話で、そんな辛い事でも切り抜けたという人生に魅了され、“悪に屈しはしない”と再び強く思った。




