第六十七節 未来の使者 ―最終決戦へ―
ジェンは、オリバーが落ち着いた所で話しかける。
「大丈夫?」
「はい。」
すると、物音がしたせいか、ナイトとシーガが駆けつける。彼らはジェンの傍にいる青年を見て、「誰だ」と問う。ナイトは何故か、背中を向けて何かブツブツ言っている。
ジェンは皆に話さなければいけないと感じて、彼に言う。
「話をしても、良い?オリバー。」
「構いません。」
「オ、オリバー?ジェン、お前、何を言っているんだ?」
ナイトは「は?何言ってるんだ?」と言うかのような口調で言う。誰だってそうだ。自分の息子と同じ名前、しかも、姿も似通っている点が多い青年を素直に信じられない。
オリバーは、ナイトにこう言う。
「ナイト陛下。この紋章を、見てください。」
オリバーはそう言って、右腕を見せる。ナイトは右腕に刻まれた紋章に驚く。自分の息子と同じ位置にある、と。オリバーは、彼を落ち着かせて言う。
「私は、ネアと共にこの時代に来たのです。つまり、未来からです。」
「未来、からだと!」
「はい。苦戦を強いられ、絶望へと染まった未来からです。」
「絶望に染まった未来?」
オリバーの言葉に、シーガはどういう事かと考える。すると――
「希望であった者たちが命を落とし、私達だけでも歯が立たなくなった時代。直ぐそこまで、迫っているんです。」
と別の所から少女が現れて、そう説明する。少女の仮面は既に取れていたので、皆、顔を知っている。あの時の娘だ!
「ネア。無事で何よりだ。」
「心配してくれて、ありがとうございます。……私も、オリバー様と共に未来から来たネルアーガ・ヴァンアです。母はアンネリーカ、父はシグアーガです。」
「俺の娘、なのか?」
シーガは驚く。なんと言っても、吸血鬼の特徴を完全に受け継いでいるからだ。弟のレオンは、人間の血を受け継いでいて吸血鬼ではない、とネアは言う。
「私とオリバー様は、女神の命を受けて、過去へと来ました。未来を変えるために。」
「そして、私達が倒すべき存在は、この世界を滅ぼそうとし、怒りと憎しみに狂い果てた竜を主とする原罪の獣の残留思念です。」
オリバーはそう言い、未来で起こった事を話した。
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オリバーとネアが過去に来る前。未来では街は炎に包まれ、化物の増加に見舞われた。王城にも、化物は侵入し、兵士たちは力の差によって命を落としていった。
オリバーとネアは共に戦い、まだ人は滅びてなど無い!と言う屈服の精神で兵士たちを鼓舞する。
二人は、必死に戦っていると、王城の壁が破壊されて砂埃が舞う。オリバーはネアを守り、王剣を構える。辺りは暗闇に包まれ、周囲の生存者は自分とネアだけであった。
「人は消えるのみ!人は生まれながらにして、ただの獣だ。希望は存在しない!」
周囲を見渡すと、彼らの前に竜の瞳かあった。赤と言ったら良いのか、大きく宝石の様な瞳が間近にあった。
「オリバー!」
「コイツが…。」
「お前たちの父や母は、皆、死んだ!もはや、貴様らの様な虫けら共には何もできぬ。……旧人類は、ここで、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」
邪竜は、大きな口を開けて二人に迫る。二人は、それぞれの武器を構えて叫んだ。
――――――――――――――――
「そんな事が…。」
シーガは驚いて、その言葉しか出ない。勿論、ナイトも、ジェンもだ。オリバーは三人に話す。
「こんなことを聞いても、信じられないかもしれませんが、お願いです。どうか、未来を救う戦いに!」
オリバーの願いに、先に答えたのは父であるナイトだった。
「……あぁ。手伝ってやるさ。お前たちの為だ。手を貸さない訳にはいかない。皆もそうだろ?」
ナイトの問いに、ジェン、シーガは頷いた。オリバーとネアは感謝し、未来からの使者として仲間に加わる事となった。
未来の事を知った皆は、当然受け入れるには時間を要した。まだ未知の世界であり、予測なんてできないのだから。
エルシィーダン王国へ戻る道を進んで行くと、彼らを呼ぶ声が聞こえた。
「お~い!」
その声の正体はメイダであったが、何かに跨っている。白い竜だ。
「メイダ!久しぶり!」
ジェンがそう言うと、メイダは地上に降りて来て皆の無事に喜ぶ。
「……あ、そうだ。紹介するよ。白き竜の一族の未来の長・アッシュよ。」
メイダがそう言うと、竜は人の姿になる。白髪に赤い瞳と端正な顔立ちの青年だった。彼は―
「よろしくお頼みいたす。メイダの頼みにより、推参致した。」
と言った。ナイトたちはよろしくとあいさつした。メイダは彼の挨拶を終えると―
「王国は皆無事よ。一度、帰った方が良いけど、ヴィルハン王国が手紙をよこして来たそうなの。私が訪れた時に、ナイトに渡すように頼まれたの。貴方が行くと言うのなら、仲間たちも駆けつけるよ。」
と言って、ナイトに手紙を渡す。彼が読み上げたのは条約についてであり、向かう場所はヴィルハン王国領域内にある古びた屋敷であった。何かと怪しい場所に指定するのはおかしいと感じたナイトは皆に非常事態時の作戦を取る事にし、急いで王都へと戻った。
民は盛大な歓声で出迎えてくれたが、ナイトはそれに感謝を述べ、しばしの間だけ持ちこたえて欲しい、いつも我慢させてすまないと謝罪した。
そして、その日の夕暮れ。ジェンはオリバーに呼ばれて、誰もいない城の庭に来ていた。
「お母様……その。俺は伝えなくちゃならない事があります。」
「何?」
「実は、未来では父上は何者かによる魔術で致命傷を負って亡くなるのです。」
オリバーの言葉に、ジェンは一言も言えなかった。オリバーは続けて―
「俺が聞いた話では、ヴィズロルとの決着がついたと思われていた矢先に、と聞きました。……だから…っ!」
と言って、未来でも残る王剣を手にして刃をジェンに向けた。ジェンは冷静にいる様にしたが、それでも未来の息子の行動に衝撃を受ける。
オリバーは震えた声で言う。
「実は、ヴィズロルとの決着を着けたのは……父さんと母さんだったのです。確かではありませんが、そうとしか……考えられません。」
涙ながらもオリバーは剣をしっかりと手にしていた。ジェンは、彼自身が未来の為に運命を変えてでも救おうとする使命と意志、自分…母親を殺めるか否かの葛藤がずっとあったのかと思うと、辛く感じてしまう。なら、母親として取るべき行動は…。
「なら、その剣で、止めてあげて。オリバー、使命を果たしてください。私は、それでもあなたを誇りに思うわ。」
と、犠牲にしてもかまわないと言う意味を込めて言った。オリバーは、拒まれるかと予想していた為、彼女の答えは予想外そのものであった。彼はジェンが優しい眼差しで自分を見ている事を視て―
「母さんは、いつも、優しいですね…。いつも、その笑顔で俺とミーアを支えてくれた。」
と剣を降ろしてしまった。彼は情けないと思っていたが―
「オリバー。お前はそれでも、と思って剣を取ったんだろ?」
と彼の父・ナイトはそう言った。彼は二人の会話を耳にしてすまないと言ってす、オリバーに言う。
「お前はここまでよくやってくれた。あの時も、説明してくれなかったら、俺たちは背水の陣だっただろう。お前が忠告してくれただけでも、少しは違うかもしれない。……ジェン。オリバーの言葉は忘れるな。」
「えぇ。覚悟は、出来ているわ。」
ジェンはオリバーの忠告を受け入れる事にした。先程の会話で、彼は葛藤をしていると瞳からも口調からも感じた。母としての務めでもある。それに、ビルとエルが教えてくれた事も、忘れてはいなかった。
翌日。王都を出発して、ナイトはジェン、シーガ、オリバー、ネア、リティ、ツキノ、フウカ、ニック、リアフ、ペラリ、フーティ、ウルフィ、ジャド、メイダ、アッシュ、自警団を連れて条約制定場所へと向かった。
ナイトは一人でその場所に到着すると―
「お待ちしておりました。ナイト王子。」
ヴィズロルとよく似た青年は挨拶をする。用件は何だとナイトは尋ねると、青年はこう言った。
「はい。我が国と貴方方の国での休戦条約を結ぼうと思っている所存です。」
「…それは、嘘ではないでしょうね?ヴィズロル。」
ジェンは物陰から出て来てそう言う。そして、オリバーとネアもいた。
「なっ!何故、貴様らが‼分かっていたと言うのか!」
ヴィズロルはそう言うと、ナイトは当たり前だ‼と言って王剣を手にする。ヴィズロルは―
「…フフ。だが、これはどうだ?」
と言うと―
「うっ‼」
ジェンは頭を抱えて、ナイトの元へ来ると彼が身に付けていたペンダントの覚醒の宝玉を取ってヴィズロルへと渡してしまった。辛い表情をするジェンはナイトに謝罪をした。
「奴らを神殿へ連れて来させるな!皆殺しだ!」
と言って姿を消すと、ヴィルハン王国の兵士たちが入って来た。魔術による催眠は無く、皆、本気で殺しにかかって来る。
四人は突破して外に出ると、作戦通りにアンネとシーガは彼らの馬を持って来てくれた。急いで、ヴィズロルが向かったとされる神殿へと向かう。
しばらくすると、群衆が先に建つ神殿を遠くから見て祈りを捧げている。
『大いなる竜・女神ハンヴィルよ、我らを、女神様の子に!』
と一斉に言っていて、不気味さを感じさせる。
「不気味だ。……仕方ない。馬は城へ戻らせろ!走って、追いつくぞ!」
『はい‼』
付いてきた自警団の隊員に馬と共に引き返す事を命令し、ナイトたちは邪竜を祀るとされている神殿へと急いだ。そして、終盤の幕があがる。
遂に、終章となりました。
ナイトたちは、諸悪の根源の復活を止められるのだろうか?!




