外伝Ⅹ ビルとエルの秘密
ビルとエルと卑弥呼がやって来た日の夜。ナイトはジェンと共に部屋でゆっくり話をしていた所、ノック音が聞こえた。彼が誰かと尋ねると、ビルとエルの声であった。彼は二人を招き入れ、ジェンは二人分のお茶を用意した。
「すまぬ。少し話があってな。」
そう言ったビルはエルと共に椅子に座り、茶を少し飲んでから話を始めた。
「急に来て悪かったが、二人には話さなければいけない事がある。」
「話さなければ、行けない事ですか?」
ジェンがそう言うと、「うむ」とビルは頷いてから「これは我らたちだけの秘密だ」と言って話を持ち出す。
「貴方がたは、フィーメ町でヴィズロルと言う輩と戦ったそうだな?」
「は、はい…。確かに、私たちはヴィル……ヴィスロル・ヴィルハンを倒しましたが、どうしてその事を?」
「千里眼、と言うヤツだ。千里眼は、遠くのものを見る事ができる能力だが、稀に未来や過去を覗き見る事が可能だ。我は未来を見通す目を持っており、貴方がたが騎士として戦う事や戦った敵の事を視た。」
「そうだったんですね。」
「それでなんだが、まだヴィルと同じ魂を持った輩が生きていると……我の千里眼で視えた。」
『……っ‼』
ビルの言う事にナイトとジェンは驚いた。と言うより、何故、アイツが生きているのだと言う。ナイトは「奴の居場所はどこなんですか」と尋ねたが、ビルは「すまぬ。そこまで視えなかった」と申し訳なさそうに言い、続ける。
「だが、奴らは夏王国に何らかの異変を齎した。本来なら、殷に滅びる過程だが、大帝国を築く程の力は有していない。と言うよりも、我らの国まで押し寄せる程ではない。……エル。」
彼女がそう言うと、エルは「あぁ」と返事をして召喚術で世界地図をテーブルに広げた。
「……この地図を見て欲しい。俺たちがいるのは、この纓那国。そこから北西の方角に行けば、半島があり、そしてほぼ西に行けば玄帝国と言う国がある。規模は、世界から見ても巨大なのは一目瞭然、なのが……。」
世界地図に魔術によって記された玄帝国の規模が示されるが、あまりにも巨大だ。と言うよりも、賢者がこれほどの威力は無いと言うのに、どうしてだろうと疑問を持つのは当然だ。
実際に軍勢や国内を見たエルによれば、あり得ない程の魔獣や合成獣を引き連れており、国内でも混沌した状況が続いていると言う。
「キメラ?それは一体、何ですか?」
ジェンはそう質問した。
キメラとは「合成獣」のことで、主にライオンの頭・山羊の胴・蛇の尾を持ち、口から火を吐く怪獣である。また、生物の個体に別の生物の特徴部分が合わさったものも存在しており、魔術によって作られる。
魔術で作るには、キメラと同じ体を持つ生き物か二体以上のの動物を用意して「合成魔術」と言う方法で作られる。が、それ即ち、生き物を利用して傷付けている事と同じである。
「なっ!それは、許されません‼」
「ジェ、ジェン!気持ちは分かるけど、話を聞こうぜ。な?」
「あ、ご、ごめん…。」
ジェンは怒りを抑えて、話を聞く方へ戻る。
「それに、国内で反乱軍が奇襲機会を待っていた。俺たちが交渉し、さらに貴様らの援護も加えると伝えた。合流し、敵の動き次第で一気に攻め入る。」
「なるほど……。ですが、その軍勢を指揮しているのは一体…。」
ジェンがそう質問する。
「本来、その国を治めるべき王である者だ。軍勢の中には、支配された地域にいる王も、俺たちで救い出した。……それに、国名は玄ではなく、殷と言う国だ。」
エルはそう説明した。ジェンは、二人の話に危機感もあったが、助けを求める人々がいると知り、二人は大陸へ向かう事をナイトと改めて決意した。
しかし、ジェンは何か疑問を感じた為、ビルに質問する。
「話が別になっちゃうんですけど、ビルさんって会った時は王様っぽい感じでしたが、今……何か、姫様らしいと言うか…。な、何か、すみません‼」
「良いって!これも、貴方たちだけに話さなくちゃいけない事だから。」
ビルはそう言って話を始めるが、彼女の話は驚くべき事実であった。
彼女の話によれば、前世ではエルの前世の妻である。それだけでなく「本来の賢者はエルだ」と話す。
彼らは転生後に再会した時、前世の記憶を取り戻したと言う。彼の前世は、賢王または大英雄と称されし偉大な王であった。
ビルは「口調からして、本当はエルが王って感じがあるんだけど。今は、言えない訳あって役割交代に入っている」と話す。
口調は本来転生後の方を主に使うが、時々、王の生前の方が出る事もあると言う。ビルのやや高笑いは生前の王だった者の影響があるらしい……。
そして、ビルの本名はビルガメシュではない。
「あたしの本名は、メシュアン。で、こっちが賢王と言われるビルガメシュ本人、今はエルアドって名前の少年に転生しているの。あたしは、ビルガメシュ四世と言う名で即位した。ややこしいよね…。……でも、今まで通り我の事はビル、彼の事をエルと読んで欲しい。それと、敬語は無用だ。同じ歳くらいだし、遠慮はいらないぞ。」
女帝・メシュアンはそう言った。
彼らは「驚いた」と言うよりも、何となく違和感があった。エルが何で「貴様ら」とか…時々偉そうな口調をしているのだろうと思っていたからだ。
また、彼らは昔から深い絆で結ばれているのを感じる。初めて会った時も、食事の時も言い合いになっては喧嘩している位だから、長い付き合いなのだろう。「喧嘩する程、仲が良い」とはこの事だろう。
「と言っても、時間が流れれば流れる程、前世の記憶は、魂に封印されるようにだから……。いつそうなるかは、分からないけどね。……さて、そろそろご飯の時間かな?」
「全く、貴様は相変わらず飯の時間には鋭いよな。」
「う、うるさいわね!し、仕方ないでしょ!」
「そう言う仕草も変わらぬな。愛い奴め。」
「それは、言うな‼」
二人がそう言い合っているのを見て、ナイトとジェンは微笑んだ。そして、この二人みたいにずっと絆で結ばれる事を互いの心の中で思った。
「じゃぁ、よろしくな。ビル、エル。俺の事はナイトと呼んでくれ。」
「私の事は、ジェンと呼んで。」
ナイトとジェン、ビルとエルは互いに握手を交わした。また、メシュアン(=ビルガメシュ四世)とビルガメシュ(=エルアド)の様にややこしく訳アリな関係である事は誰にも言わなかった。
さらに、知ったのは一つ。この島は、かつて原初の女神を倒した際の影響で地形が変化したという。
また、ナイトたちが立ち向かう悪は、「原罪の獣」と称された者の残留思念で、特に「原初の女神」の思念が強いだろうと話した。
どんな姿で表れて来るかは不明でも、それは明確だと話された。
――かつて、人は神々を捨てた……神代の終焉を打ち、人の時代への一歩を踏み出した。
その為、太古の神々は徐々に姿を消し始めているという。幻想種は生き残るもいずれ、神々は人の目に映らず、物理的影響を及ぼさなくなると言う。例え、神が現れたとしても、助言や悪への力の行使のみである。




