第六十六夜 決戦Ⅱ ―真なる王と未来の王―
目を開けると、そこはナイトたちが見た事も無い景色だった。荒野が広がる中、一方は森…もう一方は神殿の様な建物と町があった。しかし、それは空間・結界魔術である為、人はいない。
これは?とナイトたちは固有結界を見るが、これが初めてだ。
何がどうなっているかと周囲を見渡す。ヌトアは慌てているのか、周囲を見渡している。
「何だ?固有結界か?……っ‼…貴様、何をした‼」
ヌトアは何か負担を感じたのか、少し苦しみながらエルに問いながら弧を描き、剣撃を放つ。エルは、複数の光の矢を放ち、剣撃にぶつけて意図的に爆発させ、こう言う。
「……そうだ。だが、ただの固有結界ではない。悪封じのものだ‼貴様はこの時代を治める王ではない。俺たちの手で、還らせてもらう。……立て、同士‼これが、この国の最後の戦いだ‼」
『おぉ‼』
ナイトたちは態勢を整え、剣を構える。ヌトアは全身に膨大な魔力を纏い始め、剣を構えて幾つもの剣撃を繰り出す。一つ、二つ、三つ、四つと次々に放たれる剣撃をナイトたちは避けて、攻撃を開始する。
同時刻。湯は敵兵力を押し切り、都にいる民を保護した。敵を捕虜にし、味方軍に民へ食料などの支給活動を命じた。しかし、王宮ではまだ戦いが続いているかと心配する。
「頼む。無事でいてくれ。」
そう呟くと、ヴィマナに乗っているビルが来る。彼女は状況を把握しているが、疑問に思う事を湯に尋ねる。
「湯。それでなんだが、敵から何か情報は得られたか?」
「う~ん。それなんだが、見知らぬ男が現れて魔術の事を教えてもらいたいと言ってきて、召喚術を会得した後、英雄を呼びだしたと。それだけじゃなく、英雄召喚には成功したが、男は英雄に邪悪な魔術を掛け、暴走状態にした。自分たちは、その後の記憶は無いってさ。」
「そうか……。やはり、同化魔術での可能性は高いか…。それにしても、英雄召喚を使っての悪事は絶えぬとは…。でも、助かる。情報を得られたのなら、あとは悪の根源のみだ。」
「……ところで、ビル?その格好は?」
湯に姿が少し違う様な姿と指摘され、ビルは「実は―」と言い、訳を話す。湯は複雑な事情である事を知り、「そうか。なら、致し方あるまい」と答えた。ビルは王宮の空の方に目を向けて、心で言う。
……賢王。どうか、貴方に武運がある事を。……もし、本気を出すとしたら、それは雄々しい姿なのでしょうね。あの日、女神から獣へ堕ちたものを消し去った時みたいに……。と彼女は祈っていた。
固有結界内。ヌトアを徐々に追い詰めていき、もう少しの所までやって来たナイトたち。エルとフーティの遠距離攻撃、ナイトとジェンの連携、卑弥呼の近距離攻撃。どれも四方八方から来ている為、ヌトアは苦戦していた。
「おのれぇ‼よくも‼」
「それで苦戦するのか、騎士王‼……そうか。暴走し…挙句、自分の本気も見出せぬか。総員、奴に最大限の攻撃の後、俺の後ろに下がれ‼」
エルは、ナイトたちにそう言う。鴉天狗を憑依させた卑弥呼は剱でヌトアと競り合いをし、その間にフーティは奴に弾を命中させ、卑弥呼はその隙に脇へ刃を入れて離れる。ナイトとジェンは連携を取るべく、ジェンは白馬に変化してナイトは乗馬してヌトアに接近して、剣を振るう。ヌトアは避けようとしたが、頬にかすり傷を負う。
彼らは、エルの言う通りに彼の後ろへと下がる。同時に、ヌトアは膨大な魔力を刃に溜め始めた。
「……よくも……俺の邪魔を‼」
「……っ‼来る!」
「世界は反転する。闇が支配する……光を穿て、勝利は我が黒き聖剣で‼」
ヌトアは刃に溜まった魔力をナイトたちに向かって強烈に放つ。エルはそれに対抗すべく、剣に嵐の風を纏う。
「闇を切り裂け、原初の七嵐‼」
エルは、ヌトアの攻撃に、自分が放つ嵐をぶつけて攻撃を阻む。ナイトたちは、彼の凄まじい力に驚かされる。あれだけの攻撃を一人で阻んでしまうと言うのは、エルの謎はますます深まるばかりだ。嵐は、徐々に闇の攻撃を削って行く。
「ヌトアの攻撃が!」
「削られ、てる。」
カンナギとフーティはそう呟く。そして、エルの嵐は闇を勢い良く追い詰め、ヌトアの元まで迫った。
「馬鹿な‼」
嵐は奴の元に直撃し、砂埃を上げる。エルは「今だ‼ナイト、ジェン‼」と声を掛ける。二人は、奴が次の攻撃をする前にと剣を手に走り出す。ジェンは白馬に変化して、ナイトを乗っける。ナイトは王剣をしっかりと握り、砂埃から姿を現す。
『とどめだぁぁぁ‼』
ナイトとジェンは叫ぶ。ナイトは王剣の刃に光を溜めて―
「せやぁぁっ‼」
と剣を振り降ろした。油断を突かれたヌトアは胴体の右半分にナイトの攻撃が直撃し、重症を負って痛みに苦しい叫びをあげる。同時に、ヌトアは足元から消えかかり、姿を消した。英雄の元の時代への帰還である。
「これで、戦いはひとまず終わり、だな。」
エルがそう言うと、固有結界は解かれ宮廷の中庭に戻る。丁度そこに、湯が駆けつけた。ビルも一緒である。
「皆の者!大丈夫か?」
「湯!無事だったか。敵の大将は撃破した。お前たちの、勝利だ。」
「おぉ!ありがたい‼」
湯はそう言って、高い場所から兵士たちに「皆の者、我々の勝利だ‼」と叫ぶ。兵士たちは歓喜に包まれた。ビルは多少の傷を負ったエルを支えて起こす。
「お疲れ様。」
「些か、久方ぶりとはいえ。やはり、良きライバルという奴だな、騎士王。」
「良いんじゃない。まぁ、あの騎士王じゃない方のね。」
「当り前だ。」
こうして、湯が率いる軍は国に平穏をもたらした。湯は国の名を改めて、町の集合体の国家「殷」と決定した。ビルは政治や経済を整える為、殷にしばらく滞在する事を決意。翌日、エルはヴィマナで彼らを送る為に纓那国へと向かった。
ナイトは、湯との約束を思い出す。いつか、自分たちの戦いが終わった時、共に国同士での交易をしようと、それまでは悪に立ち向かって戦う、と。王になった事を祝えないのは残念だが、湯は「其方らの戦い、しかと受け止めよう。諦めずに突き進むがよい!」と励ました。
あぁ、是非そうさせてもらうぜ。いつか、絶対に。と強く誓った。
ナイトたちが母国へと帰った数日後。湯は都を「殷居」と名付け、国を「殷」とした。この地は永い時を経て、七国が争う時代へと歩む事になる。
エルによって、ナイトたちは纓那国へと帰還した。
「すまない。ここまでしてもらって。」
「いいや。お前たちの協力があってこそだ。あの王は、かつての王でも苦戦させたライバルだからな。」
「そうか。良い、ライバルか…。俺も、そう言うのが欲しいなぁ。」
「ナイト~!」
ジェンに声を掛けられ、ナイトは「今、行く」と言って、最後にエルにこう言う。
「……また、会おうな!エル!いや、偉大なるビルガメシュ王!」
「……っ!そうさな。よかろう。またの再会を望もう!」
そう言ってナイトとエルは、手を取った。再会を。また、会う日まで。
久しぶりに帰って来たと言う感覚で、ジェンたちはアンネ達と再会した。ジェンとアンネは互いが無事である事に、笑顔で抱きしめ合った。ナイトはツキノと話をして、事件は解決したと報告した。
ツキノは、その恩返しに宮殿にて祝杯の夕食を用意した。
「ご苦労だった。しかし、まさか、賢者の方が助けを差し伸べてくれた事はありがたい。」
「あぁ。俺も、本当に感謝してもしきれない。一期一会、というヤツだったか?」
「そうだな!出会いは、偶然であっても、人との出会いは一度だけかもしれない。お前に出会えたことも、嬉しい。」
「俺もだ。これからも、王同士で仲良く行こうぜ。」
そう言ってナイトとツキノは盃で乾杯した。
その間、ジェンは風に当たっていた。少し暑くなりすぎたようだ。少し前に、ビルに言われた事が頭の中を過る。
「複雑、だな。でも、覚悟を決めなきゃ。」
そう呟いたときだった。後ろから突然、ジェンに目掛けて斬りかかるフードを被った人らしき者がいた。彼女は気付いて避けようとしたが、遅い。
殺される、と感じてジェンは目を瞑るが――
「母上!」
と深緑の髪に瑠璃色の瞳を持つ青年が剣で敵の攻撃を防いで、カウンターで返した。敵はその場で消え失せていった。青年は剣を鞘に収めて――
「母上。ご無事で何よりです。」
「は、母上?!」
「ごめんなさい。でも、話さなければいけないんです。これを見れば、お分かりになると思います。」
青年は右腕にある包帯を取ってみると、そこには雫型の聖痕が刻まれていた。ジェンはそれを見て、思い出す。
息子のオリバーは、右腕に雫型の聖痕を持ち、深緑の髪と瑠璃色の瞳を持つ。青年とはいえ、酷似していると言うのは。
ジェンは「まさか」と思って言う。
「それは、フィーメルの!……それに、王剣と宝剣…。………ずっと、貴方は戦い続けたのね。」
ジェンがそう言うと、青年は涙を流した。ジェンは彼がここまで戦ってきた事に「辛かっただろうに」と思い、優しく抱きしめた。
「よく頑張りました、オリバー。」
「母上ぇ!」
青年・オリバーは母の再会した喜びからか、涙が溢れてしまった。
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