第六十五夜 決戦! —女帝と騎士の力—
商が集めた兵たちは、ビルが率いて敵の本拠地へと向かう。ビルが操縦するヴィマナには、エルが乗っている。ナイトたちは物陰に隠れつつ、ある程度の近くまで門へと接近している。
「やはり、我の千里眼は当たったか。敵十万は、我らに待ち構えているか。」
「残りの敵は?」
「あの壁の奥に待機しているんだろうね。……全く、予想外な敵がここにおるというのに愚かな。」
ビルはそう言った後、マズいと思ったのか咳払いをする。エルはビルに声を掛ける。
「どうするんだい?あの剣を使うのか?」
「そうね……。そうさな。こんな状況で油断や過信は、許されぬ。作戦通り、まずは我ら二人でありったけの兵士を減らすぞ。」
「わかったよ。僕は壁と門の破壊をすれば良いんだね?」
「あぁ、我が力を使う時はエル、皆を守れよ?」
「言われなくとも、そうするよ。」
二人は頷き、エルはヴィマナに乗って防御魔術を繰り広げ、味方全員を守る。ビルはドレス姿のまま、敵陣の正面に立つ。
ペラリはニックにこれから何が起こるのかと問うが、ニックは分からないと言い、続ける。
「でも、ビルさんが強大な力で敵兵力削り、エルくんは門の破壊をするって言っていたが……。」
彼がそう言うと、遠くからビルの声が響く。決して大声を出していないが、魔術で拡散されているのだ。それはナイトたちにも聞こえていた。
「今、この場にいる全ての者たちに見せてやろう!原初の嵐をその目に焼き付けよ!」
ビルがそう言うと、ドレスから鎧に変わり、ドレス風の戦闘着になる。手には、神々しく刀身に魔術回路の様な模様が施されている剣であった。ビルは空へと飛びあがり、魔力で宙に浮かびながら―
「敵である兵士たちよ。新たな世で新たな道を歩む事を願う!………エヌマエリシュ ラ ナブウ サマム、サプリシュ アンマテュム スマ ラ ザクラト。アメススヌ イステニス イヒクウスウン、ギパラ ラ キイススル スサア ラ シェウウ。エヌマ ディンギルディンギル ラ スプウ マナマ‼」
と剣先を天へと掲げて言ったが、彼女が何かの言語で言ったのは訳すとこうなる。
【上にある天は名を持たず、下にある地も名を持たなかった頃。真水、海水は互いに混ざり合い、野は形がなく、湿った場所もない。神々の中で生まれているのは誰もいなかった。】
「軍神が運びし原初の嵐の力、その身に焼き付くがいい‼いでよ、原初の七嵐‼」
彼女は剣を両手で振り降ろし、敵へ目掛けて強大な力を放った。放たれた嵐は渦を巻きながら敵を巻き上げ、竜巻で一点に集中させる。同時に大地は大きく亀裂が入ったり、崩れたりしている。エルは味方に影響を出さぬ様に、必死に防御魔術を駆使しており、被害はこちらまで及んでいない。
そして、嵐は敵を全て巻き込むと一点から爆発が起き、敵を焼き尽くした。爆発の威力は、放射能は出ないものの、凄まじく爆弾の勢いだった。
「あれが……ビルの力、なのか?」
「凄い……。」
ナイトやジェンはそう言う。が、ヴィマナに乗っているエルはまだ油断はできないと察して言う。
「後は、俺に任せろ。少し、無茶し過ぎだ‼」
エルはそう言って駆けだす。彼は急いで、剣を抜刀して刃に力を溜める。門は味方から四〇〇mくらいにある。エルは、真空加速魔術を用いて俊足で二〇〇mほどの近くまで行き、薙ぎ払う構えを取る。
高速呪文!と念じて――
「我が剣よ、答え給え‼そして、大地よ!我が剣に汝の力を‼」
エルがそう言うと、刀身にビルの時とは違う光が集まる。ビルのは天または嵐の如くの猛威、エルのは大地または生命の息吹や偉大さに怒りを表している。エルは、刃に十分な力が溜まったのを見て―
「天地剣・噴火‼」
と言って、刃から猛烈な光線を放ち、門へとぶつけて破壊した。門の内側にいた兵士たちは突然の出来事に混乱しながら、敵が攻め入ったと門の外へと飛び出して突進する。ナイトたちはその隙を見計らって、破壊した門から都内に入り急いで城の王の間へと向かった。
エルは剣を鞘にしまい、急いで宙から落ちて来るビルを両手でキャッチをする。ビルは魔力不足によって指先が青くなり、気を失ってしまった。使う事はあまりない武器だが、あまり今回の様に彼女はなった事が無い。抑止力として、全力を出し過ぎだった。エルは、ヴィマナに急いでビルを姫様抱っこをしたまま乗せて、湯に―
「行け!湯、お前が率いて迎え撃て!」
と言った。湯は、エルの声に頷いて剣を抜刀して味方に指示をする。
「ビル殿とエル殿が開いてくれた道だ‼今、我らの国々を取り戻す時だ‼朕に続けぇ‼」
『オォォォォォ‼』
彼の指示に兵士たちや故郷を奪われた貴族たちは、声を上げて敵へと進軍した。
ナイトたちは、王都の町を走り抜けて行き、手薄だった城門を越えて城の境内に入った。商によれば、王の間は門より真っ直ぐに進んだ「大内裏」という場所にいるはずだとの事だ。彼らは急いで門を通り越して、大内裏へと向かった。
大内裏の中庭へと出て来た彼らは、正面の方にいる王の玉座に座る人物を発見する。玉座に座る男、青年は彼らに言う。
「ようこそ。我が帝国の宮廷へ。」
「……お前か?玄帝国の王と名乗る貴様は‼」
ナイトは王族として、玉座に座る青年に問う。青年は立ち上がって、「そうだ。我が、玄帝国の王として、君臨するアーサー・ペンドラゴンである」と言った。それを聞いたナイトとジェンは驚く。それは、ビルガメシュ四世が千里眼で視た敵将本人そのものだった。
「ねぇ、ナイト。あれって、ビルが言っていた…。」
「あぁ。だが、彼女の話よりも、邪悪な魔力がここまでも伝わって来る。何なのかは分からないが、要注意だ。体が、危険人物だって言っている。」
ナイトは緊張しつつもそう言う。よく分からないフーティは、卑弥呼に「二人が話しているのは、何の事ですか?」と聞く。カンナギは、彼に説明する。
「実は、この世界には英雄召喚と言う魔術があるの。実際にいた英雄が持っていた所有物で呼ぶ英雄を確定させ、召喚術で私たちの世界に来る。まれに、抑止力と言って、運命を変えない様に召喚された英雄に太刀打ちできる者が呼ばれる事もあるのですが…。」
「何か、あるのか?」
「はい。強力で邪悪な魔術や偽大杯または偽聖杯の影響で、英雄は無意識の奥にある人格を引き出し、暴走させるの。あの英雄は、今暴走状態よ。一撃が強力で、油断したら体ごとふっとぶわ。それに、あの英雄は本人にして邪悪なる存在……騎士王・別人だ。」
「なっ‼」
フーティは、それを聞いて恐ろしい敵が目の前にいると改めて自覚する。カンナギは、背後に七人の妖怪を配置して、白狐の耳と尻尾を生やして扇を構える。
「ほう、よく知っている者がいるとは。しかし、随分少ないな。……くだらんが、まとめて潰すのみだ‼」
アーサー・ペンドラゴン……ヌトアは剣を召喚術で呼び、手にすると剣撃を彼らに向かって放つ。ナイトたちは瞬時に避けて、戦闘態勢を取る。
「相手は、手強い奴だ。無茶に手を出すな!」
『了解‼』
同時刻。回復したビルとエルの元で、異変が起こっていた。ヴィマナの上で魔力回復を行っているビルは空を見上げて、千里眼でナイトたちの状況を見る。不味いと感じた時、二人の姿が徐々に変化する。
「ビル、何が起きているんだ?」
「どうやら、敵将がマズイらしいね。私たちがここに来て助けるべき事は、あと一つみたいね。悪いけど、一時だけ本来の姿に戻るわよ。悪いけど、この戦場の指揮をお願い。」
ビルはそう言ったが、エルは首を振ってこう言った。
「いや、俺が行く。」
「で、でも‼」
「貴様を、魔力切れを二度もさせるか!それに、まだ完全ではないだろう、たわけ!貴様を危険に晒せるのが、男として情けが無いという物だ‼」
「……っ‼……分かった。でも、油断はしないで。」
そう話すと、二人は姿が変わる。エルはビルの髪と瞳と同じ鎧姿になり、ビルはエルの髪と瞳の色が同じになり、今までと異なる戦闘着を着ていた。鎧姿となったエルは、急いで大内裏へと向かった。
同時刻。ナイト、ジェン、フーティ、卑弥呼は、ヌトアによって苦戦を強いられていた。力だけで二人か三人で耐えるので精一杯の為、疲労戦になりかねない。
「くそっ…。ビルの言う通り、一般人じゃ敵わないのは分かるが、俺達でも守備で手一杯だ!はぁ、はぁ…。」
「えぇ。貴方の言う通りね。息切れは何とか、なるけど。力じゃ、どうにも…。」
ジェンは宝剣を構えて、息を整える。ナイトの息切れが激しいのと同じで、フーティも同じようだ。卑弥呼も息切れが強いようだ。背後にお供している人の形を取った七人の妖怪……妖狐、鴉天狗、獏、蛇神、猫又、狗神、雪男(雪女の男ver)と忍もさすがに息苦しい様子である。
「流石に、こんなの初めてだわ。魔力量が、あっちの方が圧倒的に……。はぁ、はぁ。ねぇ、偽騎士王。アンタは本来、そんな王じゃないでしょ?」
卑弥呼はヌトアにそう問うが…。
「黙れ‼……貴様らをまとめて、焼き尽くしてやる‼」
ヌトアはそう言って、剣に邪悪な力を溜める。それは、闇にして全てを焼き焦がす呪いの炎のようだった。卑弥呼はその様子を見てマズイと呟き、ナイトたちに言う。
「マズいわ‼あの魔力量……私たちを焼き焦がすつもりよ‼」
「……っ‼ジェン、二人でここで食い止めるぞ!」
ナイトは立ち上がって、王剣を構える。ジェンは「えぇ」と言って、刃に光を溜める。その時だった。
「お前たちは下がれ!あいつの相手は、俺がする!」
声が聞こえたかと思うと、ナイトたちの前に鎧姿の青年が空から降りて来た。卑弥呼は直ぐに分かった為、彼の名を呼ぶ。
「賢王‼」
「エ、エル⁈」
ナイトは驚く。ジェンは彼の姿に王と言う威厳さと雄々しさを感じ、言葉が出ない。フーティは「どういう事だ⁈」と目を見開く。カンナギは言う。
「あれがエルの本来の姿よ。一時だけだけど、本来の力を取り戻したのね、エル……ビルガメシュ?」
「あぁ。アイツがお前たちをここに派遣させたのは良かったが、玉座の男の顔まで見ることはなかったそうだがな。」
エルはそう言うと、ヌトアは邪魔者が入って来た事により刃に宿る魔力を弱めながら何者かを問う。彼は、振り返り鋭い眼差しで奴を見て本来の名を名乗る。
「我こそは、ウルク第五代王・ビルガメシュ‼悪を討伐すべく、ここに馳せ参じた!貴様はこの世に存在してはならぬ姿だ。聖杯とやらは、諦めると言っていなかったのか?聖剣の担い手・アーサー王‼」
「……っ‼黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れぇ‼貴様、俺がそのような事、言ってねぇ‼」
怒りを出してヌトアは再び刃に強大な魔力を溜め始めた。本気と言うより、暴走に近かった。エル……ビルガメシュは―
「……友の力を持ち、俺の妻よ。貴様の固有結界、投影させてもらう。……かつて、楔と鎖が互いに力を示し合った懐かしき故郷……汝たちに見せよう。これが、神代のはじまりの大地にして、文明の再来の地だ‼」
と言うと、彼を中心に光が現れ、ヌトアにナイトたちを亜空間…固有結界へと連れて行ったのだった。
混乱が少々あると思いますが、彼らの秘密は今後のシリーズで語る予定です。(すいません!)
今後もよろしくお願いします!
※誤字・脱字などがあったら、よろしくお願いします!




