外伝Ⅸ 愛の始まりと誓い ―戦いの兆し―
戦いを終えて数日。ジェンは、姉・エムリの看病をしていた。徐々に回復はしているが、まだ安静にしないといけない状態である。
「忙しい時にごめんね。ジェン。」
「良いのよ。姉さんの手当てが私の役目。姉を支える妹として当然です。」
「変わらないね、昔から。無茶はしないでよ?」
そう言い、エムリはジェンの頭を優しく撫でる。ジェンは、少し恥ずかしさを感じたが、家族が戻り始めていることに安心感が湧く。
ナイトとは、国の復興後に兄・ウィルを探しに行く約束をしている。時間が空いてしまうのは悔しいが、民を放ってはおけない。
「大丈夫だよ。……ねぇ、姉さん。相談したいんだけど……。」
「何?どうかしたの?」
「実は、その……。最近、ナイトを見ていると、ドキドキするって言うか。」
ジェンは難しそうに言うと、エムリは微笑んで言う。
「そうね……。私も分からないな。ごめんね、答えられなくて。」
「平気、平気!じゃあ、食器を片付けて来るね。」
ジェンは、エムリの部屋を後にした。
同時刻。一人もいない、敷地内の庭でフウカとニックがいた。彼女は、背中に何かを隠している。
「フウカ殿、私に何か?」
「は、はい。あ、あの、これを……貴方様に…。」
フウカが差し出したのは手紙だ。ニックは、「お、俺にですか?」と尋ねるとフウカは頷く。
「では、ありがたく受け取ります。」
「あ、ありがとうございます。」
その後、ニックは自室で手紙を読んでいた。彼の頬は、少し赤い。何故なら――
【ニックさんへ
突然、手紙をさしだしてすみません。私は、貴方に恋をしてい
ます。初めてお会いして、お話をしてくれた際、貴方の優しさや剣技の良さ、個性的な性格に惹かれてしまいました。なかなか、話や会うことが出来なかったので、いつかこの手紙を渡せる日を待っていました。返事をお待ちしております。 フウカより】
今まで、女の子から手紙を渡されたことのない彼が初めて受け取った手紙は、まさにラブレターであった。
彼は、初めてでもあった為、リアフに「どうすれば良いのか、教えてくれ」と願い出た。彼女は「そんな事、私に聞いてどうするの?」と思いつつも、兄のためにアドバイスをした。
ニックは、フウカと話した日を思い出す。初めて話した時の彼女の楽しそうな笑顔。自分の趣味を話すも、「個性的で良いですね」と言っていた(引いていたかは不明だが……)。他の女の子と違う……ニックは、そう思っているうちに、フウカを知りたいと思うようになった。
その日の夜。夜空を見ると、紅い満月が浮かんでいる。アンネは、シーガの部屋の前に赴いていた。
(大丈夫かな…。)
シーガからは、紅い満月の時に吸血鬼は愛を誓う日だが、吸血衝動も起き、暴れ出す事もあるという。アンネは、この頃体調を崩しがちの彼を心配していたその時だった。
《ガタンっ‼》
「シーガ⁈」
アンネは部屋の外から声を掛けると、部屋で唸り声が上がった。彼女は、「入るわよ?」と言って、彼の部屋へと足を踏み入れた。
中に入ると、地面に崩れ、苦しそうにしているシーガの姿があった。彼の瞳は、美しくも牙の様に赤い。
(シーガ!)
「……アンネ、か。」
シーガは今でも苦しそうだ。アンネは、彼に一歩近づこうとすると――
「く、来るなっ。来たら、俺が、暴走して、しまうかも、しれない……。」
と、彼はアンネに忠告する。彼女は、それでも一歩一歩前へ踏み出す。彼は、彼女の安全を優先するべく「来るな」と言いたかったが、目覚める本能を抑えるので精一杯だ。
アンネは彼の前に来ると、彼を優しく抱きしめた。
「……大丈夫。怖いのは分かってる。でも、約束したじゃない。何があっても、一緒にいるって。」
その声は、涙を堪えているようにも聞こえた。シーガは、彼女の言葉に、最近忘れていた物を思い出した。
「……あぁ、そうだったな。……お前のおかげで、大切なものを忘れずに済んだ。……っ。」
「……っ‼」
シーガはアンネの肩に牙を入れ、彼女の血を飲む。アンネは、彼が肩から口を離した後「馬鹿」と言った。すると、彼の姿が変化する。それは、戦闘に使っていた覚醒の姿であった。
翌日。ジェンとアンネは、街を散歩しながら話をしていた。
「シーガの様子は大丈夫だったの?」
「うん。覚醒して、本来の力を取り戻したって。……ジェンは?」
「え?……う〜ん。何か、最近、モヤモヤするって言うか。ナイトの事を心配がちって言うか。」
(本当に、鈍感ね。)
「ジェンは、ナイトの事、友達として好き?それとも、異性として好き?」
「……う〜ん。友達としてって感じじゃないって事は……。恋って事?」
アンネの問いに、ジェンは考えて答えた。アンネは、彼女が恋に落ちていると察してこうアドバイスした。
「そうなんじゃないかな。ジェンがそう思っているなら、そうだよ。」
「う、うん。」
ジェンは、「これがその感情なのか」と思いながら、アンネとの散歩を再開した。
その日の夜。ジェンは、風呂を済ませてナイトの部屋へと向かった。昼頃に、彼から「お前に用がある。悪いが、夜、俺の部屋に来てくれ」と言っていたのだ。
(何だろう?)
「ナイト。」
ジェンは彼の部屋の前に来て、ノックしながら彼の名前を呼ぶ。すると、「入ってきてくれ」と彼の声がした為、彼女は部屋へと入った。
「遅くなってごめん。」
「いや、平気。俺も、さっき風呂を終えたから。」
「そ、そうなんだ。」
(だから、髪の毛が濡れているのか……。何か、大人っぽいと言うか妖艶と言うか……。)
ジェンはそう思いながら、彼を見ていると、ナイトはジェンにこう言う。
「何だ?俺を見て?あー、さては俺がカッコイイとか?」
「……っ!」
ジェンは頬を赤くする。彼女の様子にナイトは、いつものジェンではないと感じた。
「ジェン?」
彼が彼女の名前を呼ぶと、突如彼女は彼を抱きしめた。
「お、おお、おい⁈」
ナイトは、彼女の行動に驚いてしまう。ジェンは、こう話す。
「最近、ナイトを見ると何でか心配になるし……胸が苦しいと言うか、そんな感じになる。」
(おい!いくら何でも、俺に話すかよ!我慢できなくなるだろ‼)
ナイトはジェンの頬に手を添え、彼女の唇に自分のそれを重ね、直ぐに離れる。ジェンは今、何があったのだと考えを巡らせたが、感覚が覚えていたせいで頬を赤らめる。
「い、今っ!」
「なんだよ?悪いか?それとも逆か?」
「な、何を言っているの‼……意地悪。」
「男は、好きな女に対しては弄りたくなるんだよ。よっと!」
「わぁ!」
ジェンはナイトにより、ベッドへ押し倒された。彼女は彼に照れる所を見られるのが恥ずかしくなり、そっぽを向く。ナイトは「目をそらすな」と言って、ジェンの頬に手を当てて自分と目を合わせ戻す。
「お前、俺が好きだって意味分かってんのか…。……これから、ずっと俺の傍から離れんなよ。断ろうとしても、拒否権は無いからな。」
ナイトはそう言って、ジェンの唇と重ねた。
そして、二人は愛の誓いを立て、国王・王妃代理として国を統一。また、二人の間には二人の子供が生まれた。兄・オリバー、妹・ミーアである。だが、運命はまだ変わっていなかった。
とある王国。玉座に座っていた古代っぽいドレスを着た少女は目を開いて言う。その少女は紅い瞳に白金の髪を持ち、スタイルの良い人だった。
「世界の危機が、迫るか…。」
「女王様、どうされました?また、何かを視られたのですか?」
側近の者がそう言うと、少女は頷いてこう言う。
「またもや、世界の危機だ。私はこれより、倭武の国へ赴き、今後戦う戦友と合流する。各都市の守護神に、守りを願い、余とエルで向かう。」
「分かりました。エルアド様には私がお伝えします。ビルガメシュ様は、お支度を。」
側近の者はそう言い、走り出す。ビルガメシュと呼ばれた少女は心の中でこう言う。
(勇者の皆よ。戦いは、まだ始まったばかりだぞ。)
他国の女王の名前を変更しました。(すみません!)




