第六十夜 戦いに終止符を ―打倒・残酷王‼―
翌朝。ナイツァノ軍は、フィーメ町から離れた所にあるラフィンナ平原に位置し、準備をしていた。その近くに、突撃班がいた。
「ジェン、気を付けてね。シーガも…。」
「分かってるよ、アンネ。」
「大丈夫。ちゃんと帰って来るから。」
ジェンとシーガは、アンネに心配されつつも、「必ず帰って来る」と約束した。昨晩、作戦班を変えて、突撃班にシーガとメイダを加え、リアフを空中班に、リティを弓矢班に移動させ、空中班の指揮官はフウカに任せる事となった。
理由は、ファマスがフィーメ邸を訪れ、「メンバーを変える様に」と忠告して来たのだ。詳細は聞けなかったが、メンバーを変える事で不幸は起きないと言っていた。
「ナイト様。姉さんの事、よろしくお願いします。」
クラッドは、ナイトにそう言った。彼は「あぁ。約束する」と言った。チャールズとマリアも、クラッドと同じ気持ちでお願いした。ソルは、ジェンに「気を付けて行けよ」と言い、彼女は「ありがとう」と言った。
そして、突撃班は遠回りをしてヴィルハンの王城へと向かって行った。
ツキノ率いるナイツァノ軍は、戦場であるラフィンナ平原へと向かい、敵軍を待っていた。
先頭には、ツキノ、ニック、ジャドが馬に乗り、ウルフィは一族と共に敵を待つ。軍の背後には、アンネ、リティ、マリア。そして、空中にはリアフ、フーティ、フウカとナイツァノ軍の天馬武者が配置している。そして、天馬武者の一人がツキノの方へ報告しに来た。どうやら、敵が来たようだ。
敵は、将軍を中心に大軍で姿を現すと、将軍らしき者は突撃命令を出した。ツキノは、雷神の力が宿した刀…を抜き、天馬武者へ第一攻撃の合図をした。
天馬武者たちは、空を駆けて行き、地上を走りゆく敵を上空から攻撃を行う。そして、頃合いを見て退却する。ツキノは、刀を天に掲げ—
「ラフィンナの平和の為に‼突撃!」
と言い、全軍は敵陣に有利な陣形で平原を駆け抜けて行った。
その頃、ジェンたちはヴィルハン王国の王都の壁の上に到着していた。壁の上にいる兵士は、チャールズが先手を打って気絶した為、問題は無いが、ここから王城までの距離で戦いが行われる可能性もある。そう考え用心しつつ、ジェンたちは敵本拠地であるヴィルハン王城へと向かった。
「町が、こんなに酷いだなんて…。」
アンネはヴィルハンの王都の街並みを見て言う。ナイトも、想像以上の様子に驚く。
「まさか、こんなにも…。」
ジェンもそう呟く……が、彼女はすぐさま視線を前に向けて、宝剣を抜刀する。同時に、前方から矢が飛んで来た。ジェンは、素早くそれを刃で斬り、無効化させる。
「向こうも、行かせないと来たか。……全員、戦闘準備‼これより、王城まで強行突破する‼」
『了解‼』
ナイトの指示により、突撃班は城へと速く飛んで行くと、同時に矢が彼らに飛んでくる。防御や盾で防いだり、武器で弾き飛ばしたりした。ジェンは、このままでは疲労戦になるに違いないと思い、ナイトより前に出る。
(反射盾……並びに巨大化。跳ね返される矢は、光矢となり、敵の同化を解放……。展開!)
ジェンは、脳内で詠唱して反射盾をメンバー全員にまで広げて展開し、矢を反射……反射された矢は光矢へ変化し、撃ち主の元へと打ち返された。
「ジェン。ありがとう、すまない。」
「これくらいは、当然。さぁ、城の中に入るよ!」
「あの城の王の間は、一番上だが……内側からしか通れぬ様に結界が張られている。……面倒だが、入り口から駆けあがるぞ!」
『はい‼』
突撃班は、城の入り口に着いたが、城内の兵士たちがこちらへと向かってくる。ジェンは、宝剣自体を光らせ、敵の目を暗ませる。その瞬間に、ナイト、アンネ、シーガ、チャールズ、メイダ、兵士たちは峰打ちをして敵を気絶させた。
「よし、ここから王の間へ急いでいくぞ!」
ナイトがそう言った時だった。先程、峰打ちを喰らったはずの兵士たちが立ちあがって、刃を彼らに向けた。その光景に、彼らは一瞬足に重みを感じたが、そんな場合ではない。しかし、行き先を阻まれてしまった以上戦うしかなかった。
しかも、敵は敵意と殺意がむき出しだ。操られていない、ただ殺戮を行うこそが正しいとする兵士だ。
「王子よ!ここは我らにお任せください‼」
「……っ‼皆!しかし!」
「ここは、我らで食い止めてみせます。その間、敵将の元へお向かいくだされ‼」
兵士たちはそう言って、敵に斬りかかり、戦闘を開始した。シーガは、「君たちに任せた。俺たちは、王の間へ向かうぞ」と言った。ジェンは、ナイトの手を取って王の間へと急いだ。
その頃、ツキノ達ナイツァノ軍は順調にヴィルハンを押して行く。拠点にも異獣が来るも、ソル達は拠点を中心に異獣を討伐していた。離れている両者だが、指揮は劣っていない。突撃班が帰還するまで、保って欲しいと思う。
同時刻。ナイトたちは、急いで王の間へと向かう。敵は、同化されておらず、殺意や敵意を彼らに示して襲い掛かる。突撃班は、刃で斬り払い進んで行く。そして、彼らは王の間へと通じる扉の前に到着した。ジェン、いや、ナイト、シーガ、チャールズ、メイダは、扉の向こうからおびただしい邪悪な魔力を感じた。
ジェンとナイトは、気を引き締めて王の間の扉を開いた。何も起こらなかったが、玉座に誰かが座っているのに気づいた。残酷王だ。
「残酷王。貴様を、成敗しに来た。大人しく、軍を引け!さもなくば、我が刃で裁きを下す‼」
ナイトはそう言い、王剣の握手に手を掛ける。すると、残酷王は玉座から立ち上がってこう言う。
「フッ……それで、エルシィーダンの王子か。全く、傲慢にも程があるぞ?」
残酷王は、玉座から離れて彼らの方へ歩み寄る。その時、陰で隠れていた顔が光によって照らされる。残酷王は、光に照らされた瞬間に歩みを止めて、悪の微笑みを浮かべる。それは―
「何で、お父様が……‼」
そう言ったのは、ジェンだった。そう……残酷王は、ジェンの父その人であった。彼女は、言葉が浮かばず、口を固めてしまう。チャールズは、怒りを露わにしてこう言った。
「お前……父上の姿を真似ているのは無礼だぞ!」
「まさか……この俺が偽物だと?馬鹿を言え、俺は正真正銘のディオス・フィーメであり、お前らの父親だ。」
「……っ‼ば、馬鹿な事を……。」
チャールズは、そう言ったが、魔法による幻術ではなく……声と姿は紛れもなく父親本人だ。あの時、自分の母親を殺した父親と同じである事に、信じ難い。ジェンも同じだった。
しかし、疑問が浮かぶ。何故、父親は「あの時」母親を殺したのか?その答えは、ジェン、チャールズ、マリアは得ていた。
「お父様……いいえ、残酷王よ。今から、貴様をこの剣で叩き斬って、呪いを解いてやる‼兄上を誘拐させておいて、姉さんをここに閉じ込めて……そして、友人…お母様を殺して……。フィーメの名に懸けて、ここで決着を着ける‼」
ジェンは、そう言って宝剣を抜刀した。彼女は、苦渋の決断を下した。勿論、幽霊となってしまった母親から聞いた。
「お父さんは、呪いを掛けられ残酷王として指揮を取っています。でも、あなた達は戦わなくてはいけなくなる。お父さんの為にも、国の為にも……お願い。」
母・アンヌから託された願いを果たすべく、ジェンは残酷王に刃を向ける。彼女の瞳には、迷いを討ち祓った覚悟と決意が映されていた。
「チャールズ、メイダ。貴方たちは、姉さんを頼みます。姉さんを助け次第、フィーメ町へ退避してください。」
「姉さん……分かった。姉ちゃんのことは、任せろ!」
「分かったわ。でも、気を付けてね。」
チャールズとメイダは、急いで王の間を出た。ナイトは、ジェンが覚悟を決めているのを見て、王剣を抜刀する。シーガも、体術の構えをする。向こうは、一人だけ……こっちは三人。残酷王がどんな攻撃を仕掛けて来るかは分からないが、それでもここで止める事で争いが収まると信じる。
「行くぞ、残酷王。お前は、覚悟はできているだろうな?」
「フッ。来るがいい、貴様らの夢を瞬く間に壊してやろう。」
「吸血鬼一族の名に懸け――」
「フィーメの名に懸け―」
「王家の名に懸け―」
『貴様をここで倒す‼』
三人はそう言って、三方向へと別れて一気に奴の方へと駆けて行く。まず、正面からジェンが刃を振り降ろす。残酷王は、剣を召喚して彼女の攻撃を受け止める。その隙をついて、ナイトは次に攻撃を仕掛けるべく、右方向から刃を振るう。
しかし、残酷王はジェンを力いっぱいに刃で押し返し、ナイトの刃を受け止める。シーガは、遠距離から闇矢を複数放って奴に攻撃をする。だが、残酷王は、盾でそれを防ぎ、ナイトの左腕を掴んで、力を振るってシーガの方へ投げ飛ばした。
シーガは、ナイトを受け止めたが、壁まで押されて勢いよくぶつかり、壁に罅が入り破損した。




