第五十九夜 選択
ナイトが合図を送ると、モーナが出て来てナシィーとジェンのいる場所へと向かう。ジェンは、周囲に敵がいない事を見ていきながらモーナが来るのを待つ。
その時だった。
《バシュっ‼》
「ぐっ、がはっ‼」
「モーナさん‼」
ジェンは、崖の向こうを見てしまった。残酷な事に、モーナを含む天馬騎士の三人が新たに現れた敵兵が放った矢によって、倒れてしまった。しかも、全員、喉や頭脳へ矢が直撃してしまっていた為、即死であった。
「モーナ…!」
ナシィーは、辛く悲しい表情で見ていた。自分を助ける為に、犠牲となってしまった事に…。ジェンは、崖へと迫り来る敵を見つけ、攻撃をする。
それを見ていたナイトたちは、非常事態に立たされる。すると、ナイトたちの前に、奴らが現れた。
「久しいな、ナイアルト・エルシィーダン。」
「てめぇ、残酷王‼」
アイカを誘拐した時に姿を現した残酷王とノベーだった。残酷王・ゼスは相変わらずアイカを誘拐した時と同じ、フードマントを被っており、顔は見えない。残酷王はこう言う。
「まさか、本当に駆けつけて来るとは単純だねぇ。あの崖にいる二人は置いとくとして、覚醒の宝玉を寄越せ‼」
「……嫌だね‼てめぇの様な、悪党共に渡すものか‼」
「おぉ?じゃぁ、あの二人を殺しても良いって言うのか?」
「…っ‼それはっ!」
ナイトは、崖の上にいるジェンとナシィーに目をやると……ジェンが大人数の敵によって苦戦していた。彼女は、所々切り傷や打撲を負っていた。ナシィーは、彼女を助けたかったが、攻撃魔法を知らない彼女はどうすれば良いかと迷っていた。
「やめろ!母さんとアイツにはっ!」
「おっと!動くなよ。動いたらどうなるか、分かってるよなぁ。さぁ、開放したくば覚醒の宝玉を渡せ!」
「……っ!どうすれば……。」
ナイトはどっちを選択するか、迷っていた。すると―
「ナイト。選んではいけません!」
ナシィーが彼に声をかける。その戦場は下さい声が良く響くため、彼にも届く。
「母さん!」
「ゼス殿。貴方は、もうこれ以上、辞められないのですね?」
「面倒くせぇな、お前は!うぜぇんだよ!」
残酷王は荒げた声で言う。ナシィーは、数秒してからこう言う。
「ナイト。どんな事があっても、諦めないで、挫けないで、大切な人を守って。未来の王よ!」
「母さん……。」
ナシィは、ジェンに何かを預けて治癒を行い、彼女の怪我を治す。そして、崖の縁に立って―
「ヴィルハンの民よ、目覚めよ。平和を維持するべく、自分の力で立ち向かうのです!」
ジェンは何かを察したのか、ナシィーを助けに向かうが、敵が彼女を囲み、行かせまいとする。ナイトは、ジェンの行動を見て察したのか―
「母さん!」
そう叫んだナイトは、崖の下へと走って行く。ナシィーは、走ってくる彼を見てから、周囲の景色を見渡す。
(貴方に王国を預けます。私は、ずっとあなた達を見守ってます。そして……。)
ナシィーは、ゆっくりと前に進んで………祈りを捧げながら、崖の下へと落ちて行った。ジェンは、丁度周囲の敵を片付けた直後であり、間に合わなかった。
「ナシィー様‼」
「いやぁぁぁぁぁぁ‼」
リティはそう叫んで、両眼を掌で押さえた。ナイトは、ナシィーを助ける為、急いで向かうが―
(皆を、愛しています。神・ラーフの加護があらん事を…。)
ナシィーがそう祈った直後、彼女の体に謎の傷が全身に走り、体内で爆発が起きた。そのせいで、彼女の体は跡形もなくバラバラとなり、血飛沫が大きく舞い散った。ナイトは、丁度落下地点へ駆けつけたが、ナシィーの血が彼に降り注ぎ、身に着けていた女王のマントだけが足元に落ちた。彼はマントを握りしめて―
「母さ~ん‼」
と叫んだ。残酷王は、嘲笑って言う。
「ギャアハハハハッハ‼自らの命を投げうつとはな!傑作だ‼」
「戯言を‼」
ジェンは、上空から刃を振り降ろし、残酷王へ斬りかかったが、奴はノベーと共にその場から消え去った。彼女は周囲を見回したが、奴らは見当たらない。しかし、そんな場合ではない。ジェンたちは、大きな戦争へと踏み出す事となってしまい、今すぐに戻らなくてはいけない。
それを見ていた少女・ファマスは辛く悲しい表情をしていた。
「間に合わなかったの⁈……そんな、これじゃ、未来と…。」
その後、ジェン、ナイト、リティ、チャールズは、モーナたちの遺体を回収し、その場から撤退した。フィーメ町へ戻り、会議室にて主要メンバーは話をしていた。が、女王の死はあまりにも大きく、言葉に出せなかった。
「……母さん。」
「ひぐっ……お母さん…。」
一番ショックなのは、ナイトとリティだ。目の前で母親があんな事になってしまうのは、誰だって精神的にも来る。だが、明日には戦いが待ち受けている。先程、ナイトたちが帰還する前にヴィルハンの兵士から宣戦布告の手紙が届いたのだ。
「ナイト。」
「……何で、あぁなったんだよ。何で‼母さんを守れなかったんだ‼」
ナイトは、ジェンの襟を掴んで言う。彼女は、彼が落ち着いていないと確信し、彼の頬を思いっきり殴った。
「ジェンさん‼」
リティは驚いた。ナイトも、突然の事に驚いた。ジェンは、涙を貯めながら、ナイトに荒くも厳しく言った。
「嘆いている場合じゃねぇんだよ‼王子がそんなんでどうする‼……私だって、ナシィー様を守れなくて腸が煮え返りそうなくらい腹立ってる。皆同じだ!」
「……ジェン。すまない…取り乱したな。でも、母さんを救えなかったのは悔しい……辛かった。俺、これからちゃんとしていけるか、不安でさ…。」
「……分かっているよ。私だって、皆だって、ナシィー様を救えなかった事は悔やんでいる。貴方の苦手な事は、皆が補ってくれる。自信を持って。……ナシィー様の分も、エルシィーダンの民の分を、助けを待っている人の分の為に、剣を振るおう。」
ジェンは、真剣な表情でそう言った。ナイトは、「彼女の言う通りだ」と思い、涙を拭って深呼吸をして落ち着いてこう言った。
「………皆、明日は大きな戦となる。それぞれの務めを果たし、母さん…女王・ナシィーの為に、エルシィーダンとナイツァノに勝利を‼そして、ヴィルハンにいる罪なき民を救うのだ‼」
『おぉ‼』
こうして、自警団はナイツァノ軍に加わっての戦に参戦する事となった。拠点待機班以外の者たちは、明日への準備を整える事にした。
その日の夕食。ジェンは早めに摂り、食堂を後にすると―
「姉さん。」
「クラッド。」
「ちょっと、話があるんだ。」
そう言って、二人は人があまりいない場所へと来た。クラッドは、ジェンの真正面に立って、勢いよく頭を下げて言う。
「ごめんなさい‼俺が、あんな口調で言ったのは…本気じゃなかったんだ。……確かに、アイカの言った通り、暴れていた事もあった。それは、俺の友人が虐められていたのを止めていたんだ。虐めていた奴が悪いけど、殴った俺も悪かったんだ。……心配させて、ごめん。」
「クラッド。……私も、あなたに厳しくし過ぎてごめんなさい。」
「姉さんが、謝る事じゃないよ!」
「ううん。私も、流石にやり過ぎたって思うの。それに、クラッドとアイカ、アレックス叔父さんにフィノさん……ウィル兄さんやエムリ姉さん、チャールズ、マリア……皆、家族だって思ってる。アンネやソル、シーガだって…大切な友人だし……、ナイトは何か、特別な存在に思う。」
「姉さん。」
「良かったじゃないか、クラッド君。」
その声にハッと二人は振り返る。声の主はソルで、他にナイト、アンネ、シーガがいた。
「ちょ、ちょっと、ソル先輩‼良かったって、知っている感じで言わないでくださいよぉ~‼」
クラッドが赤面して、慌てて言う。ジェン、ナイト、アンネ、シーガは微笑んだ。その夜、皆が寝ている間、ナイトはツキノと作戦を話し合っていた。
「ツキノ。お前の部隊は、どう攻め入る?」
「ラフィンナ平原で軍と戦う。相手の陣形にもよるが、それに応じて有利となる陣形で進む。空中班の伝令兵に陣形を知らせてもらう。」
「そうか……。すまないな……こんな事に巻き込んで…。」
「良いんだよ。お前は、ヴィルハンの城へと突撃するんだろ?」
「あぁ。王は、そこにいるはずだ。何としても、倒さねば!ツキノ、指揮官として、軍を頼んだ。」
「了解。お前こそ、必ず帰って来いよ!」
二人はグータッチを交わし、無事に帰って来る事を約束した。それは、互いに強く頼もしいものだと感じた。
戦いは、人を傷つける物だ……しかし、避けて通れぬ道がある。誰かが、自分たちが戦わねば、この国…いや、世界の未来は無い。どんなに辛い事があっても、それを乗り越え、助けるべき者たちを救うのが騎士だ。
(母さん。貴女を守れなかった事、とても後悔しております。でも、俺は、自分を信じる仲間と共に道を歩んで行きます。どうか、見守っていてください…。)
しばらくして、ナイトは、自室のベランダから星空を見ながら、心でそう呟いた。




