第五十八夜 処刑を阻止せよ‼
王都にいた自警団団員のダティは、第二拠点のフィーメ宅へ伝令を伝えた。その内容は、ハンヴィル教団が城下町へ押し寄せた。戦いを止め、民の為に女王自ら人質として前に出た。
そして、奴らは、ヴィルハン王国にて四月十五日の昼頃に女王・ナシィーを展望の崖にて処刑する…との事だった。
「なんて事だ‼」
「お母さん……。」
リティは、ショックで体勢を崩してしまう。ジェンは、彼女を支える。リアフは、処刑実行日を聞き―
「処刑実行日は、明日の昼⁈って、早過ぎじゃない‼」
「だとしたら、モタモタしている時間はない。一刻も早く、阻止しなければいけない。王子、どうされますか?」
ニックは「判断を」と言う意味を込めた視線を、ナイトに投げかける。ナイトは、悩んでいる暇は無いと考えてこう言った。
「命を投げうってまで民を守ろうとしているんだ。俺たちも、覚悟を決めて、母さんを助けるぞ!」
『はい‼』
明日の処刑を止める為、急いで準備を整えるべく、自警団主力メンバーは作戦会議を始め、団員たちは馬や武器などの準備を急いだ。クラッドは、武器や馬の装備と数を友人と共に整えていた。
(姉さん。ソル先輩の言う通り、ずっと責任を感じていたのか……。)
「クラッド、急げ!先輩たちに迷惑をかけるなよ。」
「分かってる。」
友人に言われ、クラッドは今やるべき任務を遂行する事にする。準備を進めながら、ソルが言った言葉や友人が言った言葉を思い出し、ジェンに謝れるタイミングを計った。が、緊急事態であり、なかなか彼女の元へ行く事が出来なかった。
そして、夕方頃には準備が整った。ナイトは、自警団団員を集めて、プリントにてそれぞれ配属班や任務を与える。
「今回は、実際にヴィルハン王国との戦争になりかねない事件だ。今日から俺を含めた突撃班は女王・ナシィー救出に向かう。突撃班には、天馬・飛竜騎士兵団の主力部隊も加わる。それ以外の皆は、我が国を守るべく人知を尽くせ。そして、全員無事に帰って来る事を祈る‼」
ナイトはそう言い、突撃班を出発準備させる。主力メンバーたちによる作戦で、プリントにはこう書かれていた。
【自警団配属班一覧 (☆マークの団員は「指揮権」を担う)】(主なメンバーのみ記載します)
・突撃班:☆ナイト、ジェン、リティ、チャールズ、モーナ
・拠点待機班:☆ソル、ペラリ、クラッド、ダティ
(ナイツァノ王国軍配属の班は、戦争にならない場合は拠点待機班に配属せよ)
・ナイツァノ王国軍配属・主力班:☆ツキノ、ニック、ウルフィ、ジャド
・ナイツァノ王国配属・弓矢班:☆アンネ、リアフ、メイダ、マリア
・ナイツァノ王国配属・空中班:☆シーガ、フーティ、フウカ
と分けられた。突撃班である五人は馬を走らせ、ラフィンナ大陸島の地図に記されているヴィルハン王国の「展望の崖」へと行った。明日の為に、早く準備するためだ。
クラッドは、後悔するような眼差しでジェンを見送っていた。その様子をソルは見ており、彼に声を掛ける。
「まだ、謝れていなかったか?」
「あ、すみません。なかなか、機会が無くて……。」
「良いんだよ。戦いが終わったら、直ぐに謝りに行けば、絶対に許してくれるよ。」
「……はい!そうですね。姉さんは、とても優しい人です。」
数十分後。ジェンたちは、展望の丘が見える場所までたどり着き、テントを張る。展望の崖は、景色を一望できる良い場所だが、断崖絶壁の崖が下の地面の真下である。
救出作戦は、こうだ。まず、チャールズがナシィーを処刑する兵士を阻止し、部隊で一気に攻め入る。その間、ジェンはナシィーの元へ行き、チャールズと交代して守備を任せる。頃合いで、ナイトが合図をしたらモーナと天馬・飛竜騎士兵団の精鋭班二人が入り、ナシィーを保護して帰還する。
ただし、ヴィルハン王国の民は「同化」で操られているに違いない為、光で解放する事を優先する。
観察を交代で行い、ジェンとナイトは観察を終えてチャールズとモーナに交代した。二人は、森に灯されている火の前で話をする。
「ナイト。ナシィー様は、覚醒の宝玉を持っていたよね?」
「あぁ、肌身離さずな。……あ、あのさ。」
「何?」
「この戦いが終わったら、少し二人だけの時間をくれないか?」
「……うん。あ、でも、その前にクラッドに謝りに行っても良い?」
「え?何かあったのか?」
ジェンはナイトに、クラッドと喧嘩になってしまった事を話した。あの直後、自分は何て事をしたのだろうと悔やんでいたらしく、謝りに行こうとした。そんな矢先に、今の事態が起きてしまい、謝罪する機会が無かった。
「そうだったのか。……だったら、早く謝りに行かないとな。大事な従弟なんだろ?」
「うん。」
「さて、そろそろお前は寝た方が良い。明日は早めに起きるから。」
「ナイトは?」
「俺は、後で寝る。心配すんな。」
ジェンは、ナイトの言う通りにして、寝床があるテントへ入って行った。彼はモーナに「今日は休んでください」と言った。モーナは申し訳なさそうに、テントへと入って行った。ナイトは、チャールズと共に観察をしながら話を始めた。
「チャールズは、ジェンの事、どう思っているんだ?」
「ど、どうしたんですか、ナイトさん⁈」
「あ、いや、単にどう思うか気になっただけだ…。」
ナイトはすまないと思い、話題を変えようとしたが、チャールズは彼に話をした。
「姉さんは、とても良いと思います。優しいけど、怒る時は怒って厳しくする。……でも、意外と鈍感で無茶する…。最近、鈍感な姉さんにも変化はあるようですけど、俺も自分もまだ分からないって。アンネさんやソルさん、シーガさんが呆れている様な顔をしてました。」
「あっはは!ジェンらしいな。……まぁ、でも、人間は完璧じゃないって言うしな。天は二物を与えずってツキノが言ってたっけな?」
「それって、完璧な人間はいない…欠点があってもそれを恨むな。あと、人は皆平等に作られている、人のことを妬むな、羨ましがるなって意味ですよね?」
「あぁ。ナイツァノ王国のことわざって聞いた時、その国らしいなって思った。けど、俺たちにもあるんだなって。気付かされると言うか…。」
「はい。修行に行っている間、ナイツァノの文化を見たり、学んだりと楽しかったです。そんな楽しい事があるからこそ、修行を終える事ができました。姉さんの為に、国の為にも……ナイトさんにも、皆さんにも役に立つと。こうして、今いる事が幸せです。」
「チャールズ……。ったく、お前が幸せって言うのは、まだまだ先の話だぞ~?」
「ちょっ‼子供じゃないです!」
二人の話し合いは、とても賑やかだった。彼らは頃合いを見て、寝たりして観察を行った。
そして、迎えた翌日。朝日が昇ると同時に、突撃班は起床して準備を整えた。ジェンは、森の中で短剣を使って一人稽古をしていた。すると―
「ジェンさん。」
「……っ!ファマスさんでしたか。」
「驚かせてごめんなさい。ちょっと、不味い情報を手にしました。」
ファマスはそう言って、ジェンの耳にコソコソと話す。それを聞いた彼女は、真剣な表情になり、ナイトの元へと向かった。
「何だと!処刑は、あと一時間後⁈」
「王子。急がないと……。」
モーナは準備が整い次第、突撃をした方が良いのではと提案した。ナイトは、一刻も早く母を助けるべく、突撃班の準備を整えて「展望の崖」へと向かった。
ヴィルハン王国領内、展望の崖。その端に、ナシィーの姿が見える。死刑実行人が彼女の後ろから、歩み寄って行く。
「今だ‼突撃!」
ナイトの合図により、モーナと天馬騎士以外の者たちは襲撃に掛かる。チャールズは、死刑執行人を一撃で止めを刺し、ナシィーを守り切る。ジェンは直ぐにナシィーの元へ向かい、武器を手に掛かって来る者たちを吹雪と大炎で一掃する。
「ジェン!どうして?」
「ナシィー様を助ける為です。後に、ナイトの合図でモーナさんが王都へ乗せてくれます。しばし、お待ちください。……はぁ‼」
ジェンは、迫り来る奴らを強大な魔法で一掃する。
何故?先程までは、光で闇を取り出す作戦だったのでは?
実は、ファマスが教えたのだ。そこにいる者たちは、元々からエルシィーダンを敵に回していた者たち……ハンヴィル教の一派である。だから、光で当てても、効果はない。
「同化」は、エルシィーダンに味方…または、友好関係だと考えているヴィルハンの民や兵士などにかけられる魔法だった。
(ここは、片付いた。後は、ナイトの合図を……。)
ジェンは、周囲の警戒をしつつ、ナイトの合図を待つ。ナイトは、敵を一掃し終えたのを確認して、モーナに合図を送った。




