第五十七夜 再建と悪夢の再来
再建が始まって数ヵ月。町の景色が復活するのを見て、ジェン、チャールズ、マリアは懐かしさを感じた。町の再建だけでなく、戸籍表を見てフィーメ町にいた者たちの墓場を作った。
しかし、あまりの死者の多さに墓誌に名前を刻んで行った。そして、あの日の出来事を忘れない様に―
「西暦一六四三年六月六日 フィーメ町大火事・大量虐殺事件 ―死者に安らかな眠りを…―」
と大きな石碑に刻んだ。一人でそこへ訪れたジェンは、石碑に手を当てて心の中でこう言った。
(皆さん。あの時は、助けてあげられず、申し訳ありません。皆さんがそれぞれ叶えたい夢もあったでしょう。皆さんが受けた無念、私が仲間と共に晴らしてあげます!どうか、それを見守っててください。)
すると、気配がして彼女は振り返ると、そこには懐かしい顔が四人いた。見た所、体が透き通っている為、霊と思われる。彼女は、四人の顔をちゃんと覚えている。
「オスカー、ハリー、エマ、ミア…。」
「久しぶりだな、ジェン。」
「随分、姉さんになっちゃったな。」
「ずっと見ていたよ。魔導騎士として立派になっちゃって!」
「私たちの夢、代わりに叶えてくれたのね。」
皆、それぞれジェンに成長したなと言われ、少し恥ずかしかったが、あの時助けてあげられなかった事を彼女は後悔していた。
「ごめんね。あの時、助けてあげられなくて…。」
「良いんだよ。悪いのは、お前でもチャールズ様とマリア様でもじゃない。」
「オスカーの言う通りだよ。悪いのは、あの事件を起こした人だ。」
「そう。ジェンとチャールズ様とマリア様が全ての責任じゃない。だから、いつも元気でいるジェンでいて欲しいの。」
「私も。あなた達は絶対に負けないもの。それに、感謝してる。魔法や色んな事を教えてくれて、私は楽しかった。」
そう言われたジェンは、悲しさと嬉しさの混同により涙が出てしまった。皆の姿は、天から光柱によって空へと浮かんで行く。オスカーは、最後にこう言った。
「幸せになれよ‼皆、応援しているからな!」
そう言い残して彼らはジェンに手を振り、天へと消えて行った。同時に光柱も消え、綺麗な青空へ戻った。彼女は、「彼らにはまだやりたい事が、まるで星の様にあったのに」と言う思いがあり、再び涙を流した。
町は再建への道を進んで行くと同時に、新入団員が入った。その中に、クラッドの姿があった。また、その友人数名も自警団へ所属したと言う。そのおかげで、フィーメ町は見事に再建を終えた。
立派に建てられたフィーメ邸は、昔の敷地を取ったままで庭に真ん中には噴水を置き、敷地への入り口である門には、「フィーメ家兼自警団第二拠点」と刻まれた。そして、雨風を防ぐ防壁を張った大きな稽古場を設けた。また、ジェンは、王都を守る第二結界をフィーメ邸の地下にある「聖なる間」にて創り直した。
こうして、王都を守るのは万全となった。異獣の侵入は、これ以上ないと考えてよいのだが、いつヴィルハン王国との戦いが始まるかは分からない。相変わらず、ヴィルハン王国は異獣をこちらへ派遣してくる為、自警団は討伐を行っている。
ある日、ジェンは新入団員であるクラッドと稽古をしていた。木刀で競り合いしては、叩かれるの繰り返しだ。ジェンとクラッドと他に、アンネ、ソル、リティも新入団員と稽古をしている。
「いってぇ!姉さん、力加減しろっての!」
「クラッド。戦場で手加減は無いの。まぁ、私は手加減しなきゃいけないんだけど、並大抵の兵士の最大限の力を知った方が良いと思うよ。」
「へいへい…。」
「返事は‼」
「分かったよ!はい、分かりました‼」
「こらっ!騎士は、そんなにナヨナヨしてないわよ!」
「うるさいなぁ。……ってか、姉貴は、何で俺には厳しいんだよ‼」
「クラッドだけじゃないわ。騎士になるのは厳しい道よ。皆にも同等にアドバイスしている。」
「ったく!いちいち、うるせぇんだよ!姉貴は俺の母ちゃんかよ⁈」
「何ですってぇ‼」
ジェンとクラッドは言い争いを始め、遂には木刀で勝負を始め、殴り合いとなってしまった。その場にいたアンネ、ソル、リティは稽古を中止し、彼らの喧嘩を止める。クラッドの友人も止めに入る。
「ジェン、落ち着け!」
ソルにそう言われ、ジェンは我に返って落ち着きを取り戻す。クラッドは、友人に抑えらているも関わず、暴れる。
「クラッド、落ち着けよ。」
「チっ!いちいち、うるせんだよ!」
彼は友人の止めを破り、ジェンの前に来てこう言う。
「おめぇなんかに、いちいち言われたくねぇんだよ‼お前、家族の事を思い出したんだから、俺に構うな‼お前は、家族じゃねぇ‼」
クラッドがそう言った直後、ジェンは掌で思いっきり彼にビンタをした。クラッドは怒って「何すんだよ‼」と言った。彼女は怒らず冷静に、彼にこう言った。
「私の従兄妹を、弟の様な存在である貴方を、そんな風に育てた記憶は無い。……それに、そんな態度を周囲の人に取っていたのなら、自警団から出てもらう事になりかねない。」
彼女の言葉に周囲の者たちは、驚きの表情を見せる。普通なら、「悪い態度を取っていない」と反抗するはずが、クラッドは黙ってしまった。
「やっぱり、アイカの手紙の言う通りだったんだね。最近、乱暴になったって、学校で暴言や喧嘩とかをしているって……。残念だ。」
ジェンはそう言って、稽古場を後にしてしまった。
「ジェン‼」
「ジェンさん‼」
アンネとリティは、彼女の後を追う。ソルはクラッドを見て、こう言う。
「クラッド。あんな事を言って良いのか?」
「……。」
クラッドは、黙ったままだった。すると、友人である男子がこう言った。
「クラッド。ジェンさんに謝って来なよ!」
「はぁ⁈何で、俺が?家族でも何でもないアイツに。」
「何を言っているんだ‼お前は、昔、ジェンさんの事、家族として、姉貴として、騎士として尊敬するって‼」
「そうだよ!いつか、ジェンさんを越えて見せるって言っていたじゃないか‼」
「………。」
友人の言葉にも、クラッドは黙ったままだった。見ていたソルは、黙っている彼と友人たちにある話を語り始めた。
「そう言えば、君たちには話していなかったね。まぁ、自警団だけの機密情報だ。」
「機密情報、ですか?」
「あぁ。実は、この町はフィーメ町と呼ばれていたのは知っているよね?」
ソルの言葉に全員が頷く。フィーメ町は、王都から南に位置し、王族と仲がとても良いフィーメ家が納め、豊かな町と言われた場所である。また、十年前にフィーメ町大火事・大量虐殺事件が起きた場所である。ソルは、話を続ける。
「十年前、ここでジェンは家族をバラバラにされた。フィーメ家に、ヴィルハン王国の王子・ヴィロスが忍び込んでいた。」
「ヴィロス王子……。確か、ヴィルハン王国で次の国王となる…。」
「あぁ。奴は、ジェンの家族を攻撃した黒幕だった。また、彼女の父親もだ。」
『………っ‼』
クラッドたちは、ソルの言った言葉に驚きを隠せなかった。ソルは、フィーメ町大火事・大量虐殺事件の全てを話し、「ジェンは、母を助ける事や友人を助ける事ができなかった事をずっと悔やんでいる。でも、今は必死に前へ進んでいる」と言い、続ける。
「けど、たまに悲しんでいるのを、俺は見かける。チャールズとマリアは、離れ離れになった姉、ウィルさん、エムリさんを助ける為に、怪傑として強くなって帰って来た。ジェンは、チャールズとマリアが無事である事に喜んだよ。」
「そうだったんですね。ジェンさん、チャールズさんとマリアさん、辛かったでしょうね。」
一人の男子はそう言う。他の者たちも同じ気持ちだった。自警団は、国中にこの事を、今は伏せている。「いつか、ヴィルハン王国との戦いを終えた後、ジェンは覚悟を承知で全てを語ると思う」とソルは言った。
「それに、君たちが来る前、ここを再建している時に、ジェンは自分の責任だって言って……無茶して、熱を出した時もあった。余程、責任を感じていたんだ。」
(……何だろう。嫌な予感がする…。)
ソルがそう話をし、そう思った時だった。伝令兵が、稽古場へと駆けつけ「自警団総団員、会議室へ緊急招集です」と言った。自警団の全員は急いで、フィーメ宅の会議室となっている一部屋へ向かった。そこで、衝撃の情報が寄せられた。
「何だと‼ダティ…本当なのか。」
「はい。本当です。……ナシィー様が、民を守るべく…ヴィルハン王国へ連れ去られました‼」




