第五十六夜 町の再建へ ―自警団、新たな拠点へ―
ジェンが話を終えると、全員静まった。当然だ。あの日の出来事が、今、全て語られたのだから。夜の時間となった今、自警団は食事を終え、円になって座っている。
すると、ジェンは立ちあがって、瓦礫の方へ何歩か歩いて止まる。そして、宝剣を抜いて大きな声でこう言った。
「出て来いよ。いるのは分かっている。……最近行方を暗ませていたのは、私たちを殺す為でしょ?ヴィスロル・ヴィルハン‼」
ジェンがそう言うと、ソルが何かの気配を感じたのか「皆、武器を構えろ‼」と言う。すると、タイミングよく敵の姿が出た。紫のローブを纏ったそれは、「ハンヴィル教団」そのものだった。ジェンは、叫びをあげて超音波を放ち、敵の動きを止める。
「お見事。教団を超音波で動きを封じるとは、フィーメ本来の力が覚醒したか?ジェンレヴィ・フィーメ。」
「ヴィスロ……貴様。」
ジェンの正面には、かつて仲間でもあったヴィルがいた。彼は自警団所属時の服ではなく、真っ黒な装備に腰辺りのマントで裏地は赤のを羽織っていた。ジェンは、宝剣の穂先を奴に向け、問いを投げかける。
「何故、この町を狙った?理由を言え‼」
「仕方ないなぁ。教えてやる。俺たちにとって、フィーメの存在は我が神の復活に必要なのさ。生贄としてな。」
「なら、この町自体を焼き払わなくても、屋敷だけにすれば―」
「違うね。お前の屋敷だけだと、密告する輩が出るからそれも消滅しちまえば、誰も何があったのかは覚えちゃいないってこった。それに、都合よくお前は記憶喪失になったし、兄妹もバラバラで行方知らずって感じだったしな。それに、お前の兄は、生贄としての器が無かった。」
「ふざけた事を‼」
ジェンは、鋭い眼差しをヴィルに向ける。ナイトは王剣の穂先をヴィルに向け、ジェンより前に出てこう質問した。
「じゃぁ、お前が俺に呪いを掛けたのも……国を混乱させる策だったのか!」
「まぁな。ただ、少し違う。お前は、憎しみと憎悪に囚われていたから操るには十分だった。一種の同化ってやつだよ。」
「同化」とは、本来異なる性質や考え、知識など…操る本人と同じになる事。それを受けた者は、操る本人の思うがままとなる。その為、例え善き心の者であっても見知らぬ間に他人へ攻撃している事があるのだ。
「僕が受けたのと、同じだ。」
ジャドはそう言う。それを聞いたシーガは、ヴィルにこう尋ねる。
「それに、仲間を殺したあの時……よく見えなかったが、お前だったのか。」
「覚えていたのか。俺がお前の父親を殺した事を。」
それを聞いたアンネは驚いた。当時、ヴィルはまだ幼いはず……しかし、奴は吸血鬼族をも抑える身体強化で行ったのだ。アンネは怒りに燃えて、奴にこう言う。
「じゃぁ、私のお母さんを殺したのも……邪魔させない為だったって言うの⁈」
「まぁな。」
ヴィルは自警団に入っても、密かに悪行を行っていた。遠征での怪我人の多い事、神器を持つ一族を滅ぼし兼捕虜にして「我が神」の復活をさせる事、野外訓練時の惨事も、結界の儀に押し寄せた異獣の群れ、全ては奴の仕掛けた事だった。フーティの片目もそうだ。
「全て俺の思うがままに行くつもりだった。……なのに、邪魔が入ったせいで、お前たちは出会ってしまった。だから、イライラして仕方がない………。野郎ども、殺れ‼」
ヴィルの掛け声と共に教団の者共は、自警団へ斬りかかった。アンネ、シーガ、ソル、リティ、ニック、リアフ、ペラリ、フーティ、メイダは雑魚の相手をし、打ち倒す。
ジェンとナイトは、正面にいるヴィルへ向かって走り、攻撃をする。ヴィルは、槍で攻撃を阻止する。夜の為に暗くて見にくいが、彼女は奴の持つ武器を見て思い出す。
「その槍は‼」
「気付いたか?そうさ。あの槍だよ‼」
ヴィルはそう言い、ジェンへ攻撃する。彼女は直ぐに避けたが、かすり傷を負う。すると、柘榴石が傷口に現れた。奴が持っていたのは、盗まれた呪槍だった。攻撃を受けると、柘榴石が傷口に出来ると言う不気味な槍であった。
「ナイト、気を付けて!盗まれた槍を持ってる。」
「分かった‼」
ナイトは奴へ攻撃をする。ヴィルも反撃するが、ナイトの俊敏な動きに付いて来れない様だ。ジェンは、治癒で傷口を治し、宝剣を杖へ変化させて遠距離から彼を援護する。二人の連携はとても合っており、ヴィルを上手く追い詰めて行く。ナイトは、奴の肩に一撃を加えた。
「おのれぇ‼」
ヴィルはナイトへ反撃をしようとする。ジェンは彼の元へ駆けつけ、宝剣から強烈な光を発する。奴は、光により目を暗まされ、腹に刃物ではない一撃を喰らった感覚がした直後、地面に叩きのめにされた。
光が止むと、ジェンは宙に浮かんでいるのが見えた。その姿は、翼を生やして神々しい雰囲気を纏った彼女だった。ジェンは、宝剣の穂先を天に掲げ、力を溜め―
「ラーフ・フィーメズ・宝剣‼」
と言い剣を振り降ろすと、強烈な光線をヴィルに向けて放たれた。
その後、戦いは治まった。時間的には、もう朝で日が昇る頃だろう。ジェンたちは、他に敵がいないか周囲見ていると―
「ジェン。あれ、何?」
一緒にいたアンネが指したのは、正面に何かの動物たちの群れがいた。ジェンは、彼からの力を感じこう呟いた。
「あれは、人狼族‼」
そう。動物の正体は、白き狼。人間と狼の二つの姿を持つ一族であった。ジェンは急いで駆けつけると、人狼族の群れの一匹がジェンの方へ向かって走って行く。そして、彼女と一匹の白き狼は合流した。
「人狼族……無事で良かった。」
「あたしも、あんたが無事で何よりだよ。ジェン。」
彼女の傍にいる狼はそう言うと、人になった。その姿は一七〇はあり、少し妖艶な感じであった。ジェンは彼女の顔立ちを見て、こう尋ねる。
「もしかして……ウルフィ?」
「覚えていたか!そうだよ。ウルフィさ。久しぶり、ジェン。」
「ウルフィ‼」
ジェンは嬉しくなり、ウルフィに飛びついた。ウルフィはジェンを抱きしめ、頭を優しく撫でた。ジェンは、無事である事と久しぶりの再会に涙を流した。ウルフィは、現在族長を務め、異獣を王都へ行かせぬ様に働いていたようだ。
「ありがとう。ぐしゅっ…。」
「本当に、ジェンは可愛い子だ。さて、我が王国の王子はどこにいるかな?」
「あ、案内するよ。丁度、日が昇るし…ナイトにも嬉しい知らせ、かもね。」
ジェンは、ウルフィとその仲間を自警団の元へ連れて行った。メイダは、面識があり、再会を喜んだ。
「ウルフィの姉ちゃん!」
「シーガも、こんなに大きく、綺麗になってさ。無事で安心したよ。」
「え?シーガ……知り合いなの?」
アンネは、知り合いである事に驚いた。シーガは、里で何度か会っていると話した。アンネはそれを知り、「へぇ~」と呟く。シーガは彼女の様子を見て、耳元でこう言う。
「もしかして~、嫉妬?」
「ち、違う‼絶対‼」
ウルフィはその様子を見て、微笑んでシーガにこう言う。
「良い子を持ったじゃないの。大切にするんだよ。」
「あ、姉貴!ここでそれを言わないでよぉ‼」
シーガは、頬を赤らめて慌てる。アンネは初めて見た彼の様子に、新鮮さを感じた。
その後、自警団の主力メンバーは、本部テントにて会議をしていた。
「実は、王都の結界を守るもう一つの結界があるんだ。」
ナイトの言う言葉に全員驚く。彼が言うには、王都を守る結界は四大公家が納める町によって展開される。しかし、フィーメ町がこの状態では結界の一部が無い事を示しており、異獣侵入を許しているとの事。それは、母・ナシィーから「通いの瞳」を通じて分かった事だ。
「どうすれば良いのか、今の所、何も案が浮かばない。」
ナイトがそう言うと、ジェンは立ち上がってこう言った。
「町を、再建しよう!」
「え?」
「ジェン?」
「町を再建するの‼でも、ここはヴィルハン王国に近いから……。私たちのアジト…結構古いじゃない?だから、私の家を自警団兼フィーメ家にするの!」
つまり、自警団の拠点を王都からフィーメ町へ移転させる事だった。彼女の案に、ニックは賛成する。彼は、このメンバーの中で古株である。
「自警団は他の兵団より、王都を守る最前線で戦う事もある。うってつけの場所じゃないか。」
「兄さんにしては、真面な意見ね。私も乗ったわ‼」
リアフも兄の意見に賛成する。そして、アンネ、シーガ、ソル、リティ、ペラリ、フーティ、メイダ、ウルフィも賛成した。ナイトは多数決である事を見て、こう言った。
「よし!自警団は王都を守る最前線兵団として、王都ともう一つ、フィーメ町の二拠点とする!」
ナイトは、自警団代表として、ナシィーにこの事を伝えた。女王は、今の所で大規模な工事などは行われていない為、大工などの派遣を行って良いとの事だった。
結界の儀に破壊されつつあった壁の一部も、今は元に戻っている様だ。
ジェンは、森からわざわざ木材を取り入れるのは、時間が無いだろうと考え、建築専用の木々を魔法で育て上げた。その木々を切り倒すと、またすぐに木として再生すると言う驚きの魔法だった。勿論、物質も木そのもので本物。また、丈夫で火以外で壊れる心配は無いと言う素晴らしいものであった。
こうして、自警団は大工たちと共に新たな拠点を建設して行くのであった。同時に、ナイツァノ王国から転送魔法で来たツキノとフウカから軍の準備は整いつつあり、いつでも大丈夫だと言う事が伝わった。
町の再建は、大工だけでなく自警団の団員達も、ジェン、ナイト、アンネ、シーガ、ソル、リティ、ニック、リアフ、ペラリ、フーティ、チャールズ、マリア、ツキノ、フウカ、ジャド、メイダ、ウルフィも再建に勤めた。




