第五十五夜 あの日の惨劇と犯人
そして、瞬く間に季節が流れ、ジェンが六歳となった。彼女はまた、家族と共にエルシィーダン王城に訪れていた。
ある日の昼頃…ジェンは故郷へ帰るべく、ナイトと別れをしていた。しかし―
「なぁ、もう少しいてよ…。」
「ナイト。私だって、同じだよ!お姉ちゃんもチャールズとマリアも。でも、帰らなくちゃ!」
ジェンは「別れるのは寂しいけど、また会える」と言う。けど、ナイトは―
「何でよ!もっと、星を眺めていたかったのに‼……もう良いよ!二度と、お前と星なんか見てやらねぇ‼」
と言って、王城へと走って行ってしまった。ナシィーは彼を追いかける。アレスはジェンに「ナイトの言った事、ごめんな」と彼の代わりに謝罪した。ジェンは言われた事にショックを受けたが、アレスの謝罪に「うん」と頷いた。その後、馬車でヘンリとその娘・アンネに出会った。ロッソニとシーガは、買い物へ出かけてしまっていた。
しかし、シーガは、一族へ偏見する者がいる王都で「例え、フィーメ公爵でも…僕が生きている事を言わないで欲しい」と言っていた為、ヘンリは彼の生存をあえて言わなかった。
そして、ビルフ子爵、ブライリ伯爵、ビュウター侯爵にも別れを告げ、フィーメ家は故郷へと戻って行った。故郷へ戻り、ジェンはオスカーたちの所へ行き、遊ぶ約束を果たした。兄弟の時間も両親との触れ合いの時間も大切にしていたジェン。彼女は、悲しむ事があっても前に進もうとする心が無意識にも芽生えていた。
だが、フィーメ家は人々が知らぬ間に不安定になっていた。エムリに対する暴力はやがて、チャールズとマリアにも向けられる事となった。アンヌは必死に止めたが、何故かいつしかディオスの暴力を止める事を止めてしまった。しかし、ジェンは無意識に疑問点が浮かんだ。
〖何故、ヴィルは両親から何もされていないのか?〗
ヴィルは元々フィーメではない為、瑠璃色の瞳や白い髪を持っていない。だが、ジェンは無意識に薄々と感じた。何かを企んでいる様に見える……と。
そして、夏の真っただ中のある日の真夜中前。寝られなかったジェンは、ベッドでゴロゴロしていた。すると、ドアからノック音が聞こえ、扉の開く音がした。ジェンは起きて見ると、母親だった。
「ジェン。今すぐ、着替えなさい。」
母親に何度も言われ、ジェンは普段着に着替えて魔導書を持つ。アンヌは、静かに廊下を通って玄関で待っていた爺やとエムリとチャールズとマリアと合流し、外へと出た。家の裏口から五人は抜け出そうとしたその時だった。
《ドカーン‼》
と、大きな音と共に揺れが起きた為、五人は地面へ崩れた。眠気が一気に冷めたチャールズとマリア。何があったのか、ジェンは後ろを振り返ると、家の玄関や門が壊されていた。彼女は門の向こうにある町は大丈夫なのかと、心配になり行ってみると―
(そんな!町が‼)
先程の勢いのある音は大炎によるもので、瞬く間に町へ移ったのだ。それは、町への大火事であった。アンヌはチャールズとマリアを連れて、ジェンの元へと寄る。
「ジェン!」
しかし、アンヌは後ろの気配に気づき、振り返ると、そこには父親であるディオスと謎の集団だった。集団の者は、紫のローブを纏っている。アンヌは「走って‼」と言い、チャールズとマリアを引っ張る。ジェンは、アンヌがもう一度「走って!」と言われて、炎が燃え盛る町へと向かった。しかし、エムリは転んでしまい、敵に連れ去られてしまった。
道は燃えておらずに安心だったが、燃える町のあちこちから叫び声がした。それは、謎の集団により殺されて行く町の人々だった。突然の襲来により、町は混乱に陥り、人々は命を落として行った。ジェンは母とチャールズとマリアと共に逃げていた先に、見覚えのある顔が集まっていた。敵に囲まれ、身動きができなかったようだ。
ジェンは、助けようとしてスピードを上げて走り出す。が、敵の攻撃が早く、瞬く間に刃に倒された。
「皆‼……貴様ぁぁぁぁ‼」
ジェンは怒りを挙げて、死に至らせる九割の魔力を出し、風刃でその場にいた敵を斬り倒した。ジェンはまだ、息があった彼…オスカーの元へと駆けつけた。
「オスカー‼」
「ジェン……お前か。」
「ごめんなさい。助けられなくて…。」
ジェンが涙を貯めながらそう言うと、オスカーは彼女の手を握ってこう言う。
「良いんだ。俺、お前と…一緒に、遊べて……良かった………。」
彼がそう言うと手の力が緩み、地面へと落ちた。ジェンは彼が死んでしまった事に気付き、涙を流した。ハリーもエマもミアも皆、致命傷を負って即死してしまった。悲しみに満ちたジェンだったが、ここで立ち止まる訳には行かない。ジェンは涙を流しながらも、母とチャールズとマリアと共に町を出ようと走る。
しかし、しばらくして、マリアが転んでしまい、敵も近づいていた。アンヌはせめて子供だけでもと思い、ジェンにフィーメに伝わるペンダントを託した。そして、ジェン、チャールズ、マリアの周囲に防御を張り、彼らを外に出させぬ様にし―
「風よ。子供たちを王都へ!」
と言うと、防御が風に乗って王都へ移動を始めた。彼らは、防御に守られながら、どんどん宙へと舞って飛んで行く。そして、ディオスがアンヌを捕らえ、首を掴んだ。
「子供をどこへ連れて行くんだ?」
「あ、貴方に、教える訳には、いかない…。」
危ないと感じたジェンは、防御を魔法で突き破って、母親を助けるべく離れた場所から走り出す。チャールズとマリアは防御の中で町を見たまま、王都へと遠ざかって行く。しかし―
「ふざけた事を…。死ねぇぇぇぇぇぇ‼」
「お母さん‼」
ジェンがそう叫んだ瞬間、アンヌは炎に包まれ、一瞬にして骨になってしまった。彼女の骨は、地面へボタボタと落ち行った。その光景を見たジェンは、怒りに火が付いた。
「お母さんを…。お母さんを返して‼」
そう言った瞬間、彼女は無意識に短剣召喚を行い、手にした。それは、後に宝剣となる物だった。ディオスはもう、父親では無かった…とジェンは無意識に固定付いた。
「痛みを叩きつけてやれ。ただし、殺すのは止しておけ。」
ディオスはそう言って、姿を消した。謎の集団の者はジェンに向かって、襲い掛かる。彼女は短剣自体から強烈な光を放ち、敵の目を暗まさせた後、自分の周囲に水刃を複数放ち、全滅させた。
ジェンはふと我に返ると、自分の服に人の血が付いている事に気付き、短剣を亜空間へ戻した。彼女はショックを受け、地面へ膝をつく。母親を助けられなかった事に、後悔と絶望と悲しみが沸き上がる。また、その光景をジェンだけでなく、チャールズとマリアも見てしまっていた。
「まさか、力に少し目覚めるなんてな。」
聞き覚えのある声にジェンは気持ちを切り替えて、方向を変えて構える。が、そこに立っていたのは―
「ヴィル、お兄ちゃん。」
「ははっ!お兄ちゃんなんて、嫌だなぁ。俺は最初からお前たち家族を殺すつもりだったのに、臭い事を言ってさ。」
ヴィルは嘲笑いをして、彼女を馬鹿にする。ジェンは、あの短剣を召喚した際、導きの少女の様に知識が向上していた為、彼の言う事を理解した。
「何を‼お前は、何者なんだ?」
「俺か?いいだろう、名乗ってやる。」
すると、ジェンは魔法によって操られ、ヴィルの元へと持っていかれる。彼はジェンを目の前に持って来させると、自分の名を名乗った。
「俺は、ヴィスロル・ヴィルハン。ヴィルハン王国第一王子にして、未来の王だ!今お前が殺したのは、これから宗教の中心となるハンヴィル教団ってやつさ。」
「……っ‼」
「お前は、我が神・ハンヴィル様に相応しい器だ。何だって、この聖痕を変えたのは、俺なんだからな‼アッハハハハ‼」
ヴィルはそう言って笑うと、ジェンの聖痕に手を当てて呪いを掛け始めた。彼女は抵抗するが、歯向かえない。とその時だった。ヴィルは呪いを中断させ、避けると上から誰かが降りて来た。その者は、深緑の髪に仮面をつけ、剣を携えていた。
「貴様!またも、邪魔を…。良い度胸だな。死ねぇぇぇ‼」
ヴィルは、仮面の者に向かって魔法を放つが、仮面の者は素早い動きで剣を振るい、ヴィルの腕に直撃させた。ヴィルは傷を負い、地面へ崩れたのを見計らって、仮面の者はジェンと彼女の魔導書を手にして飛翔で空へと飛び、王都の方角へと飛んで行った。
「クソぉ……畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
こうして、フィーメ町は瞬く間に消滅し、住んでいた者たちはジェン、チャールズ、マリア以外全て死んだ。
また、王都でもヘンリはハンヴィル教団によって殺害され、アンネは杖騎士への道のきっかけを作る。さらに、シーガは逃走したハンヴィル教団の者を捕まえ、めった刺しにした後、アンネを陰で守るべく姿を消した。
そして、謎の人物によって捕らえられたハンヴィル教団の一人は、自警団へ届けられた。
エムリの無事は後に証明されるが、ウィルがどこにいるかは誰にも分からなかった。
事件当日の翌朝、ナイトは父親と共にフィーメ町へ赴いたが、そこは灰となって荒野化したフィーメ町だった。ナイトは後悔した。異獣の討伐にフィーメ町大火事…それは、とある伝説の始まりに過ぎなかった。
ジェンは記憶喪失になり、マークレ家にいるアンヌの兄・アレックスの元へ行き、そこで暮らす事となり、クラッドとアイカとの時間を過ごしながら、少しずつ記憶を蘇らせてゆく。
チャールズとマリアは孤児施設ですくすくと育ち、人々の為に何かできないかと思った矢先、ツキノとフウカが彼らへ招待状を送った。二人は「怪傑」となるべく、ナイツァノ王国へ向かい、忍修行に勤めて行った。
フィーメ家は「あの日」によって引き裂かれ、バラバラとなった。が、ジェンは魔導騎士として、チャールズとマリアは怪傑として道を行き、再会に至る。また、吸血鬼族のシーガもおり、神器を持つ一族は集まりつつ、今にある。




